第5話ある国の女の子
ここからは私が聞いた話なんだけど、聞いたままの話ではない。
理解できないことだってあって、分からない単語もあって、なにより、頭が追い付かなかった。その中で私が「こういうことなんだ」と吸収できた内容がここからの話。
まず、1年ほど前のこと。
ある国で行方不明となった女の子がいた。
その子は私と同い年で、写真を撮ることが大好きで、家族が言うにはネットにも投稿していたらしい。カメラよりも先に手に入れたスマホだけを持って、休日にはよく公園や近所の森に出掛けることも常であった。
友人は少なく、誰かといるのは学校でもほとんど見かけられなかったそうだ。
あれ?私のこと?
そう思うほどにそっくりな女の子だった。
そう、その続きね。
その女の子が急にいなくなった。
一晩たち、まだ帰らないので両親から警察に届け出が出された。
更に一週間たった。捜索範囲は広げられ、近隣にはポスターなどを用いての情報収集も行われた。
1ヶ月たった。女の子は帰らなかった。とうとう、その女の子のことは国のテレビやラジオにも取り上げられた。
半年たった。見つからなかった。もうだめかと諦める人も多かった。
1年経とうとしている。今、現在。女の子はどこに行ってしまったのか。近所の人たちは悲しみに暮れる両親を慰めた。
もう、生きてはいないのかもしれない。もう、帰ってはこれないのかもしれない。そんな言葉を飲み込んで、まだ、その国では女の子を捜しているのだという。
たった一人の女の子に何でそこまでして?
実は、女の子が撮影しネットに掲載していた写真が反響を生んでいるのだという。
あるがままの美しい自然。
素朴な人々の笑顔。
心を癒す動物たち。
感情のように変化の激しい空。
そのどれもが見た人を魅了して止まないのだという。
そんな写真たちを撮っていた女の子がいなくなったというニュースは、一時期新聞のトップを飾るほどのものだったらしい。
詳しいんですね。
私は婦警さんに言った。
婦警さんは少しだけ笑って、
「実はね。その女の子の捜索をしている警察の中に、私の知り合いがいるのよ」
その人から直接話を聞いたの。
いつものようにテレビ電話をしていたら、急に疲れたって言い出すものだから相談に乗ったの。捜索が長期に渡って行われているから。
なんで、
「なんで、そんな話私にするんですか?」
少しだけ声が震えていたかもしれない。
私はそんなニュース知らないし、その女の子とも知り合いのはずがない。だって、国自体が違うのだから。
でも、その写真が好きな女の子が、もしも、
「その女の子の使っているアカウントがわかったの」
でも、そのアカウントはロックされてる。その子が許した相手じゃないと中身の内容は見れないの。
警察はその子とやり取りをしたアカウントを見つけたわ。ただ、それは国外のアカウント。情報を提供してもらうには離れすぎていたの。
あのね。信じられないかもしれないけど聞いてね。そのアカウント、
貴女のものかもしれない。
私の?
私は婦警さんの話を呆然と聞いていた。そんな偶然あるはずない。
彼女は私の前に一台のスマホを差し出した。画面には1枚の写真が表示されている。
私の、よく知っている写真だった。
私の、顔も名前も、何も知らない友人の写真だった。
私は酷く驚いた顔をしていたんだろう。婦警さんは笑った。
「知っているんでしょ?その女の子の写真。それね、彼女の家のパソコンに残ってた未発表の写真なのよ」
誰も見たことがあるはずのない写真。それを知っているということは、彼女に許されているという証。
遠く離れた国で行方不明となっている女の子は、私の待ち望んでいる「あの子」だったのだ。
その写真は、私とあの子が繋がるきっかけとなった2重の虹を写した幻想的な写真だった。
彼女は自分の国でその写真を撮った。そして、私のスマホの中にも日本で撮られた2重の虹の写真が保存されている。
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