第4話それから
友だちがいなくなって、その子のアカウントの文が更新されなくなって、もう、1年経とうとしている。
更新されないのは、文だけだ。
それからの日々はどこか心に穴が空いたかのようだった。
写真を気紛れに撮影しては投稿した。「送信」ボタンを押して、コメントも見ることなく放置した。
自分のプロフィールが載せられたページが、コメントやメールが送られてくるはずの通知のページが。今、どうなっているのか私は知ろうとも思わない。
だって、本当に欲しいあの子の外国語で書かれたコメントはもう送られて来ないのだから。
スマホは、机の上で今日も沈黙している。
ある日、自分としてはなかなか満足のいく写真を撮ることができた。
まだ肌寒い、冬の終わりのことだった。
よし、載せるか。
そう思い、ページに写真を張り付けて「送信」を押そうとしたとき
「は、くっしゅん!」
くしゃみが出た。偶然だった。
本当に、偶然だった。
偶然画面をタップしようとしたその時にくしゃみが出て、その勢いで画面をスライドさせてしまった。
「あ、
…あ?」
画面が映したのは通知画面。
それも、自分と相手しか見ることができないはずのメールの通知画面。
未読通知
○○○件
そう表示されていた。
全て、あの子からのものだった。
その子が写真だけの投稿となって1年。私はもう見ないようになってしまった。
でも、もしもその子がコメントをくれていたら?
コメントを返さない私に怒って、繰り返しメールを送ってくれていたら?
通知の数は異常だった。
でも、それを無視できるほど私は浮かれていたのかもしれない。
心からの友人が戻ってきた!
私の思いはそれだけだった。
その時までは。
一番新しいメールを見たとき、私の表情は凍りついた。
メールには文がなかった。
1通のメールに対して1枚の写真だけが送付されていた。
日付は、
昨日。
その写真には、
一人の女の子
であろう「もの」の一部が写っていた。
スカートらしき布から生えた、棒のような二本の足。その先は靴も、靴下も履いていない。足の爪は伸びていたり、割れていたり、剥がれていたりして赤黒いものがこびりついている。
両足を伸ばして座り込んでいるのか、その写真の半分ほどを占めているのは「彼女」であった。
残りの半分は地面である。「床」ではなく、「地面」であった。土が露出した「地面」であったのだ。
声を飲み込むというのはこういうことなのだろうか。
悲鳴が出そうだった。
私は1枚1枚日付を遡っていった。
上へ上へ辿っていくと、やがて彼女と最後に意見をやり取りした文面が現れた。
「ありがとう」
「またね」
そして、その次の通知からは全て「写真のみ」のメールとなっていた。途中までは見たことがあるような写真だった。当然だ。私がコメントを待ち続けた写真たちだったのだから。
私が送信した写真と、彼女が撮ったであろう写真が交互にメールされていた。
「見たよ」
「見て」
私は画面を下にスクロールした。
流れていく写真たち。
私の 送信した写真が徐々に減っていく。
あの子の送信したはずの写真が異常を訴え始める。
これ以上下に画面が動かないところまでいったとき、私の足は警察署へ向かっていた。
「すいません!話、聞いてください!」
衝動のままやって来た警察だったので、信じてもらえないと思っていた。ただのイタズラだろ?それで終わると思っていた。
私自身、何が起きているのかわからなかった。何も起きていないのかもしれなかった。ただの、おふざけで、「彼女」自体が存在していなかったのかもしれない。
でも、私は思った。
「何かが起きているのかもしれない」
そのほんの僅かな不安が私の足を動かしたのだ。
たまたま時間が空いていたのか、一人の婦警さんが私の話を聞いてくれた。私は今までのことを話し、最後にスマホの画面を見せた。
なにやってんだろ、私。
話しながらずっとそう思っていた。
(「ふざけた話をしちゃいけないわよ」)
そんな声が飛んで来るのかと、私は手を握り締めて下を向き、自分たちの間の机の上を見ていた。
しかし、次の瞬間思っていたのとは全く違う言葉に私は顔を上げることとなる。
「よく言ってくれたわ」
婦警さんはそう言った。
彼女は他の警官に一言かけると、私に時間を貰ってもいいかと聞いた。
今日は説明だけさせて欲しいと。
説明?何の?
部屋を移った私は、席を外した彼女をぼんやりと待った。廊下からはさっきよりも騒がしくなったような声が聞こえていた。
彼女が中身が入った湯飲みを二つ持って戻ったのは10分後だ。
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