四戦目

ダイスロール


「みんな!マスクは?マスクはちゃんとしてるかい!?」

「うわなんだどうしたいきなり!」

「帰って早々にボスが狂ってるんだけど!?」

『洗脳でもされました?』

「ちょっと一旦取り押さえよう。気が動転しているみたいだし」

 総大将のパニック障害によってダイスロールは一時中断となった。




「は?二連敗だと!?」

「面目ない…」

 ようやく大将神門旭が落ち着きを取り戻したところで勝敗の報告に移った。

 どうやら旭は一戦行ったあと間髪入れずに二戦目に突入し、その終了と共に部屋への帰還を果たしたらしい。

 問題は、その二戦がどちらとも敗北したということ。

「なにしてんだアンタ!やる気ねェのかよ!!」

「いやごめん、ほんとに。返す言葉もないよ」

 面子を集めた手前、当の本人が一番連敗という事実に堪えているようだ。

 大声で怒鳴り散らすアルはといえば、彼もようやく念願の出番をもらえたらしい。

「アルはどうだった?勝てたかい?」

「一勝一敗!」

(負けたんだ…)

 とは口が裂けても言えない。殺される。

 しかしアルほどの男が負けるとは、一体どんな勝負だったのか。

 部屋を見回してみれば、旭が出る前に消えていた楓迦の姿もあった。代わりにカナの姿がどこにもない。対戦相手に選ばれて連れていかれたか。

『わたくしは勝ちましたよ?相手クズでしたけど』

 旭の視線を受けて察したのか、楓迦はさして嬉しそうでもなく結果だけを淡々と告げた。よほど対戦相手に思うところでもあったのか。

「そっか。でカナが今行ってて。じゃあ残り五人でダイスを振ろう」

「まだやんの?」

 音々が心底から嫌そうに抗議する。初戦の対戦がかなり効いてるようだ。

「まあ終了の通達があるまでは…かなぁ。カナもいないことだし、君の数字も誰かに代行させようか?」

「…いや、それはやめとく。ここまで来てぶん投げるのも気持ち悪いしね」

「別にいいぞ?テメェと犬コロの分はオレが受けるからよ」

「そう言うと思ったから、っていうのが本音なんだけど言ったらまだギャンギャンうるさいから黙っとこ」

「一言一句全部漏れてんだよクソ魔獣」

 また喧嘩になると面倒なのでさっさと白埜にダイスを振ってもらうことにした。


「……えいや」


 コンコンと小気味よく跳ねたダイスがたいして転がることもなくピタリと止まる。

 2。

「見たかよ今の。まるでオレを呼んでるみたいだぜ」

「じゃあ対戦相手は戦闘狂ね」

(めっちゃ音々と同じこと思ってたし危うく口に出そうだった…)

 三度目になる競技にアルも慣れたものだったが、その顔には一抹の不安が見て取れた。

「あれ、珍しい。何か気掛かりでもあるかい?アル」

「いや……この二戦ロクなもんじゃなかったからよ。今度こそちゃんとしたバトルだといいなって」

「……ああ」

「あー」

「……、うん…」

 心配して損した表情を浮かべる旭と、思わず片手で顔を覆って天井を仰ぐ音々と、逆に不安にさせられた白埜の挙動が同時に揃った。




「というかさっきから静か過ぎない?迅兎。そんな端っこで正座してないでこっち来なよ」

「いえ。敗者にはこの待遇がちょうどいいです。呼ばれておきながらこの体たらく、情けない限りにて…」

「まだ引きずってたんだ…」

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