NO6. 風魔の忍・迅兎
「じゃあ六人目はレンってことで決定か」
「お前さん、なんでおれが命懸けで大精霊さんをお呼びしたか理解してない?」
「……っ、アル、うごかないで…」
だくだくと流れる頭部からの出血を白埜が賢明に処置してる中、事が始まる前から大怪我をしたアルは痛みも怪我も気にしてないように話を続けた。
「何故あの男は既に重傷なんだ?」
「ちょっとあそこの風精と揉めて…」
『いえ急に室内で突風が吹いて…不幸な事故でした』
「どうせすぐ治るから開戦前には間に合うでしょ。それよりハクちゃんに包帯巻いてもらえてむしろ役得じゃない。あたしも頭カチ割ろうかしら」
犬と精霊が増えて若干手狭になってきた居間で、話は最後の六人目を誰にするかというところになった。
「天目一箇のジジィ連れてくるか?クッソ強ェぞアイツ自分で鍛えた刀で空間斬ったりするからな」
「手貸してくれるわけないと思うぞ。前は『神殺し』の憑百琥庵が襲来してきたからやむなく力をくれただけらしいじゃん」
「天神種とはいえ気難しいお方だしねえ…」
神格持ちの人外は天魔の区分に関わらず人界に興味を向けないものが大半だ。一部例外もいるにはいるが、少なくとも鍛冶神はその一部には含まれない。
「〝
「誘えば百パー来るだろうが
「そもそもおれとアル妖精界出禁にされてるしあっちじゃ同盟メンバー全員大罪人扱いで見つけ次第襲って来るからどの道無理」
「強ェヤツはアレやコレやで軒並み死ぬか殺されたかしたからなァ…。人外はくたばってもいずれ存在が再構成されるが、人はそうもいかねェし」
「そうだね…。…ひと、人か」
思えばこの場にいる純粋な人間は旭一人だけだ。他は全員人ならざるもの。そういうもの達と同盟を組んだのだから当然だ。
だが思い返せばあと一人。旭の同胞はいた。
「呼んでみようか、人を」
「あ?」
怪訝そうに顔をしかめたアルに頷いて、おもむろに立ち上がった旭が両手を胸の前まで持ち上げる。
正直、来ないだろうとは思っている。いくらそういう家系の人間だとしても、漫画じゃあるまいし。
だがその漫画じみた無茶苦茶を押し通すのが、特異家系という者達だった。自分を含めて。
パン、パン。
「いたりするかな、
両手を二度打ち鳴らし、名を呼ぶ。
「ここに」
いた。
立ち上がった旭のすぐ背後、まるで影から現れたように。なんの気配も無く唐突に。
黒い装束を身に纏う青年が片膝をついてそこにいた。
「忍者野郎。そういえばいたなテメェ」
「……にんじゃ」
「あら、お久しぶり」
「マジでどこにでも現れるんだな、ドアも窓も開けてないのに…?」
(
(えー、大精霊の感知すらすり抜けて?極めて高度な隠形の達人。極東に現存する使い手となれば)
それぞれがそれなりの反応で驚くなり面白がるなりする中、注目の的となっている青年は装束同様の黒布で両目以外を覆った顔を僅かに上げて旭を見る。
「特異家系『風魔』当主、風魔迅兎。ご用命をば」
「一応僕も『陽向』の元当主だったわけだしそんな固くならないでよ。ちなみに話は聞いてたのかな?」
「はい」
「六人目に加わってほしいんだけど、出来る?」
「それが主命なれば」
「いやお願いだけど。友達として」
風魔忍軍。
かつて特異家系『
「お願い。友」
「うんそう」
妙に仰々しく跪く迅兎を手振りで立つよう促せると、十秒ほど身じろぎせずにいた忍者がゆっくりと立ち上がった。
それは従者としてではない、対等な関係を不承不承に受け入れたという証。
「……わかりました。旭さん、僕に出来ることでしたら、なんなりと」
「うん、ありがとう。頼りにしてるから」
肩を軽く叩かれて、風魔迅兎は少しだけ瞳を細めて笑んだ。
…ただ、
「テメェのそのパッと出てフッと消えるのどうやってんだよ教えろコラオイどうなってんだよ!」
「……にんじゃ!しゅりけん、ぶんしん、…やって、やって」
「え火遁とかできるの?螺旋丸は?その眼って写輪眼になったりするん?」
「そんな一気に押し掛けるものではない。彼も困っているだろうに」
「そうよハクちゃん以外どきなさい。ほらハクちゃんが言ってんだから分身しなさいよほらほら」
『というか音も無く背後を取られて大精霊としての矜持が傷ついたんですが?ちょっともう一度やってみてくださいよ次は捉えるので!』
「え、あの、ちょっと…」
「君らはほんと遠慮というものを知らないね!?」
日陰に生きる忍にとって、同盟の絡み方はやや、いやかなり対応に困るものであった。
風魔 迅兎
《人物詳細》
全国各地に点在し、人外の引き起こす騒動・騒乱の兆候を探る者達があった。
普段使いの姓を風間、そして裏の顔として動く際には風魔を名乗る古きより暗躍を果たしてきた乱破の末裔、忍ぶ者の当主。
特異家系の中で唯一隠密に特化した一族。伝令・密偵・追跡など様々な任務も得意とする風魔家は全家系最速とも云われている。
黒い忍び装束に身を包み、最低限の言葉しか口にしない。本来の迅兎はもう少し口数の多い温和な人物だが、風魔家の人間として任務の際はスイッチを切り替えるよう教育され、また自身でも心掛けている。
忍としても非常に優秀で、万人が思う『忍者』がやれることは大抵やれる。本来一族秘伝の術法として様々な名称を用いるが、迅兎自身使い分けるのを面倒がっているので火を噴く術は端的に火遁と呼ぶし自らの姿を三つ四つに分ける術は分身と呼ぶ。
懐に備えている無数の忍具はそれ自体を武器として投擲したり振るったりする他、ワイヤーなどを用いたブービートラップなどにも利用する。迅兎のトラップ作成速度はものにもよるが五秒から八秒程度。目で追えぬ速度で相手を翻弄攪乱しつつ各所に作成したトラップを設置することができる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます