『パンダになってみたかった』

 パンダのこどもが、コンコンと咳をしていました。


 親切なおじいさんがやって来て「おやっ、パンダくん、風邪をひいてしまったんだね。これをお飲みなさいな」と言ってお薬をあげました。

 パンダのこどもはそれを飲むと、コンコンと鳴くのが止まりました。


 日も暮れて、お家に帰ろうとした時、たいへんなことに気が付きます。

実は、パンダではなかったのです。パンダに変身していたキツネくんは、頭の上に乗せていた木の葉をはずしましたが、元のキツネの姿には戻れなくなってしまいました。


 森の中で、猟師に出会いました。「たいへんだぁ、逃げないと……」

キツネは畑を荒らす悪い動物だと思われていただけでなくキツネの毛皮は高く売れるので、見つかると鉄砲で撃たれてしまうのです。猟師はもう目の前までやって来ました。

駄目だ、撃たれる……キツネくんは慌てます。

「なんだ、パンダの子供かあ。かわいいなぁ」と言って見逃してくれました。


 パンダの姿になったままのキツネくんは、町へやって来ても、みんなから大人気でした。森でも町でも人気者として暮らしていました。


 そんな、ある日、森の中で、美しいキツネの女の子に出会います。

パンダになったキツネくんは、メギツネさんに一目惚れしました。


 キツネくんは、メギツネさんに、「お嫁さんになってください」と言いました。

だけど、メギツネさんは、「パンダくんのことは大好きだけど、わたしはキツネだし、やっぱり、パンダよりもキツネの男の子と結婚したいから、ごめんなさい」とことわりました。

「実は、ぼくはキツネなんだよ」と言うと、メギツネさんは「おもしろい冗談ね」と言って笑うばかりでした。


 それでも、メギツネさんのことが大好きなパンダになったキツネくんは、

木の葉を使って、いろいろと変身してみようとしますが、パンダの姿のままです。

今はもうパンダになってしまっていたから、もう変身をする術は使えなくなっていました。


 もう一度、メギツネさんに会いに行こうと森へ戻ると、メギツネさんは、湖の端っこにたたずみながら水を飲んでいました。

「なんて、美しいんだろ」と見とれていると、遠くに嫌な気配を感じます。

木陰から狩人の鉄砲がメギツネさんを狙い撃とうとしているところでした。


 「あぶない!」と、パンダになったキツネくんは、メギツネさんの前に矢のように飛び出して行って自分が盾になりました。

 ズドーンという音ともにパンダくんは地面に崩れ落ちます。

「しまった。町の人気者のパンダを撃ってしまった。みんなから叱られるぞ」と狩人は慌てています。

「早く、今のうちに逃げて」


 メギツネさんを無事に森へ逃がすと、ほっとしたように、パンダになったキツネくんはもう動かなくなりました。

 水面をのぞき込みながら、ゆっくりとつぶやきました。

「これでいい。ぼくは、キツネとして生まれてきたんだ。だから、最期くらいは……キツネとして消えていくよ」


 夕日が湖を照らしています。パンダになったキツネくんの毛並みも、まるで黄金のように輝いていました。


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