第19話 対決!? リーリアVSレオ
避けられている。
レオに。
あの日以来、レオは部屋の前の警護につかなくなったし、あまり見かけることもなくなってしまった。
思いっきり気を悪くしたのでしょうね。
私はどうすればよかったんだろう。
セティを放っておくことはできなかったし、レオに報告することもできなかった。
セティが元気になったのは良かったけど、レオに嫌われたのはなかなか辛い。
でも、悩んでも仕方がないわね。
もともと遠くから見守ろうとしていたんだから、それがかなっただけ。
うんうん、平気。
昨日はアイラに「最近レオ卿とは一緒にいらっしゃらないんですね?」とか嫌味を言われたけど、平気平気。
「聖女様。あの、ご気分でも?」
気づかわしげなエイミーの声を、ソファのクッションに顔を突っ込んだまま聞く。
「平気よ。そうそう、エイミーもリーリアって呼んでね」
「はい。リーリア様……」
芋虫みたいにうつぶせでソファに転がっている聖女が心配で仕方ないみたいね。
いつまでもうじうじしていたら周囲に心配をかけるだけだわ。
気分転換にでも行こう。
そう思っていつも通り庭園を散歩したけれど、飽きもあってさっぱり気分が上向かない。
部屋に戻ろうかそれとも別の場所へ行こうかとウロウロしていると、たれ目の騎士が声をかけてきた。
「こんにちは聖女様。あ、オレはグレンっていいます」
「ごきげんよう、グレン卿」
「あはは、グレン卿なんて。グレンて呼んでください。神聖騎士団の騎士にいちいち卿なんてつける必要ないですよ。全員呼び捨てにしてください。そのほうがみんな喜びますよ」
「そうですか。ではそうしますね」
「ところで、もしかしてレオをお探しですか?」
「え? いえ、そんなことはないわ」
そういえばこの人、レオと親しげに話してるのを見たことがあるわ。
レオと仲がいいのかしら。
「そうですかー。最近レオの機嫌が悪くて、もしかして聖女様に叱られたのかと。警護の任務も外れてるみたいだし」
うっ……傷口に塩を塗られた気分。
逆よ逆。
私が怒られたの!
「かと思えばため息をついて落ち込んでたり。いつもは弱味なんて見せないやつが、思春期の少年みたいになっててマジうけるっす」
「……」
「もし許してやるっていうなら、今やつは聖女廟にいますんで。じゃっ、オレは交代の時間なんで失礼します」
ぺこりと頭を下げてグレンが去っていく。
「彼にも二つ名があるの? エイミー」
「軽口の騎士様……です」
なるほど。
誰がつけるんだか、なかなか上手いこと言うわね。
それにしても、レオが聖女廟?
中には聖女か高位神官しか入れないはずなんだけど。
自分の前世の遺骨がある場所なんて気味が悪くてリーリアになってからは一度も行っていないけれど、なんだか気になる。
どうしよう。
今はレオに合わせる顔がない。
でも、気になる。
遠くから確認だけしてみようかな……?
私が神殿の裏手へ向かうと、エイミーは何も言わずついてきた。
庭園から続く石畳の小道をしばらく歩くと、ガゼボやベンチなどがあるちょっとした広場のような場所に出た。
奥には木々が生い茂る森と、その入り口に設置された繊細な意匠の鉄のアーチ。
あのアーチの向こうに聖女廟がある。
エイミーにはベンチに座っていてもらい、私はアーチをくぐった。
石畳で舗装された道はまっすぐ奥へと続いていて、その先の少し開けたところに聖女廟がある。
前世でも一度行っただけだったわね。
自分もおさまる場所なのかと思うとちょっと怖かったから、就任の際に一度訪れただけだった。
今はもっと怖いわね。
前世の自分の骨が納められていると思うと。
もうすぐ着く、というところで一度足を止める。
レオは本当にここに?
足音を殺して木の陰からそっと近づいていくと、たしかに、そこにレオがいた。
しゃがみこんで、……どうやら雑草を抜いているらしい、けれど。
一面の花畑……!?
ドーム状の屋根のある、小さな石造りの建物を取り囲むのは、無数の白い花。
こんなもの、前世にここを訪れた時にはなかった。
廟の周囲はこんなに広くはなかったし、花なんて咲いてはいなかった。
まさか、レオが、ミリアを悼んで?
胸が痛い。
泣きたくなってくる。
寂しい場所だったここを、こんなに美しくしてくれるなんて。
ああ、あの花は前世で私が好きだと言った花だわ。
十六年も経った今でも、あなたはこんなふうにここを美しく保ってくれているの?
もう、ミリアのことなんて忘れてもいいのに……。
これ以上ここにいたら泣いてしまう。それにレオを盗み見てるのもやっぱり良くないわ。
立ち去ろうと一歩踏み出したとき、わずかに足音がなってしまった。
敏感に音を拾ったレオが、素早くこちらに歩いてくる。
「……あなたでしたか。何か御用でしょうか」
感情を感じさせない声でレオが問う。
やっぱりまだ怒っているのね。
「いいえ。私の前の聖女様達にお参りをと思いましたが、先客がいましたので帰ります。お邪魔してごめんなさい」
「供は?」
「え?」
「侍女や護衛はどうしました」
「侍女は森の入り口で待っています」
またため息をつかれる。
「常に信用できる誰かと一緒に行動されたほうがいい。唯一無二の聖女様なのですから、一人で無防備にふらふら歩かないことです」
「はい……」
「そんな顔をなさらないでください。俺がいじめているみたいではありませんか」
あなたがあからさまに冷たいからだと言ってやりたい。
ああ、なんだか思考が子供じみてるわ。
精神年齢五十歳のつもりでいたけれど、もしかして肉体の若さに合わせて心も幼くなっているのかしら。
「では俺はこの雑草を処理してきますのでこれで」
レオが雑草の入った袋を持って森の奥へと歩いていく。
これでいいのよね? これで。
関わらなければ、それで……いいの?
ううん、よくない。
レオとずっとこんな雰囲気のままなんて。
わざとらしく冷たいレオの態度に腹が立って、すたすたと追いかける。
もう知らない、前世もミリアも知らない。
ばれるとかばれないとか、そんなことだけ気にして生きていきたくないわ。
とりあえずレオに一言文句を言わないと気が済まない。
少し開けた場所で雑草を捨てていたレオは、追いかけてきた私を見てあからさまに嫌そうな顔をする。
「まだ何かありますでしょうか」
「ええ。レオに対して文句があります」
「文句?」
「セティウスのことを黙っていたことはわたくしが悪かったと思います。睡眠時間を削ってまで警護してくれていたのに」
「それは気にしていただかなくて構いません。警護は騎士の仕事ですから当たり前のことをしただけです」
「なら何故そんなに怒っているのですか」
「怒ってなどいません」
「レオは嘘つきです」
「なぜですか」
「怒ってないと言いながら顔が怖いんです。怒っているならどの部分に怒っているかはっきりと言ってください」
ち、とレオがちいさく舌打ちをする。
うわ、めちゃくちゃ態度悪っ!
顔が昔の悪ガキに戻っているわ。
「怒ってないと言ってます。俺に隠れてこっそりセティウスに会いに行って親交を深めたんでしょう。良いことじゃないですか。一介の騎士の俺がそれに文句を言う権利などありません」
「こっそり会いに行ってなんていません! 部屋に……」
しまった。
レオの顔色が変わる。
「部屋に何ですか」
「なんでもありません」
「部屋に、何ですか?」
同じ質問を繰り返すレオ。
聞かなかったことにはしてくれないらしい。
「部屋に……そろそろ戻りますと言おうと思っただけです」
我ながら苦しすぎる嘘だと思う。
誰か、嘘が上手くなるコツがあったら教えて本当に。
「今の流れで? 聖女様は俺を馬鹿にしてますか? 部屋に侵入してきたんですか」
「ちが」
「いつ? もしや夜着で出てきたあの日ですか」
言い訳すらも考え付かないうちに、矢継ぎ早に質問される。
鋭すぎる。
もうレオにさらに怒られる展開しか予想できない。
レオの琥珀色の瞳が氷のようだわ。
「何故あの時俺に助けを求めなかったんです」
「それは」
「必要なかったんですか? 初対面からやたらあいつにこだわっていましたが、もしかしてあの夜は俺が邪魔をしてしまいましたか」
レオが言っていることの意味を理解するまで、数秒を要した。
理解したとたん、頭に血がのぼる。
「侮辱は許しません」
「違うと?」
「あなたの目にはわたくしがそのように映っているのですね」
レオの顔が一瞬ゆがむ。
「なら何故あんな薄着一枚であわてて出てきたんですか。そして何故助けを求めなかったのですか。あの不自然な行動……セティウスが部屋の中にいたのを知られたくなかったのでしょう」
「あの場で助けを求めれば、レオはセティウスを捕えなければなりません。そうなればあなたは苦しんだでしょう」
「俺の苦しみなんてどうでもいい。そんなもののためにあなたは自分の身を危険にさらしていたんですか!」
初めてレオが声を荒げる。
逞しい大男に大きな声を出されて恐れをなさない女性はいないと思う。
そして例に漏れず私も怖い。ものすごく怖い。
でも、黙ってはいられないわ。
「どうでもよくはありません。それに、あの時は既にわたくしがセティウスを叩きのめしていました。彼はもう動けない状態でした」
「叩きのめす?」
何言ってるんだこいつと言わんばかりの顔でレオが言う。
「ええ。返り討ちにしました」
「あなたが? いくらセティウスが重傷を負って弱っていた頃だったとはいえ。攻撃魔法すらないあなたがどうやって」
「壁どんです」
「かべどん? 何ですかそれは」
「秘密ですわ。こう見えてわたくしは強いのです。だから心配も邪推も不要です」
もう自分でも何が言いたいのかわからなくなってきた。
ただ一方的に決めつけてくるレオに腹が立つし、怒っているのが怖いし悲しい。
そして肉体だけでなく心までが感情的な少女になってしまっている自分が悔しかった。
「俺の心配なんていりませんか」
「話があちこち散らかっています。これ以上のお話はかえってこじれそうです。お互いに冷静になってからにしましょう」
今日のレオはおかしい。
明らかに頭に血がのぼっている。
子供のころはそういうことも多々あったけれど、今はすっかり大人になったと思っていたのに。
「見せてくださいよ、かべどん。あなたはお強いのでしょう。自分でセティウスをなんとかできると思うほどに」
嫌味かしら?
あーもうかわいくないったら。
たしかにレオの言う通り、いつでも自分でセティウスを撃退できると思うのはうぬぼれだわ。
元気になった彼にはもう通じないでしょうし、そもそも死にかけだった最初の侵入以外は、彼が本気で私を殺す気でかかってきていたら撃退はできなかったと思っている。
「見世物ではありませんから嫌です」
「その技に自信があるから、あなたは無防備にも供も連れず森の奥へふらふらと男を追ってくるし、男が部屋に侵入してきても助けすら求めないのでしょう。なら見せてくださいよ。それとも俺のことも誘ってるんですか」
ひどく冷めた顔で、レオが一歩近づく。
誘ってるですって?
しかも俺のこと
自分の中で、何かが弾けた。
「馬鹿にするのもいい加減にして!」
彼に手を向け、障壁を放つ。
彼は腕でそれをとっさにガードした。
体幹が強いのか、後ろに吹っ飛ぶこともなく少し後方に押し戻されただけで止まった。
さらに連続で障壁を放つけれど、彼は右腕に紋章術で炎をまとわせ、なんとその障壁を拳で打ち砕いた。
彼を倒せるなんて思っていなかったけど、倒すつもりもなかったけど、こんなに、あっさり。
少しずつ後ろに下がりながら、地面から障壁を発生させる床どんを連続で発生させるけれど、転ぶどころか身軽に障壁を足場にして、私の目の前に降り立った。
私のすぐ後ろには木。これ以上は下がれない。
さらに障壁を発生させようとする私の両手首をレオが素早くつかんだ。その状態から発動させようと試みるけれど、それを察知した彼に両手を上に持ち上げられてしまった。
そのままレオは私の両手首を交差させてそれを片手でつかみ、後ろの木に押しつけた。
「なるほど。ガードの技を攻撃に利用するとは面白いですね」
息ひとつ乱さずレオが言う。
「でも腕の立つ騎士相手に通用はしません。さあどうしますか?」
両腕をあっさり片手で封じられ、木を背にしていて逃げ場もない。
どうしますかと言われてもどうしようもできない。
彼がその気ならもう片方の手で剣を抜いて私を串刺しにできる状態だわ。
「お強いのでしょう? 俺の手から逃れてみてください」
できるわけがない。
痛みを感じないギリギリの力で押さえつけられ、動かそうとしてもぴくりとも動かない。
これが武術の心得もなにもない女と、騎士との差。
鍛えられた男性を前にしてしまえば、私はあまりに無力だわ。
手を捕らえられてしまえば、唯一の攻撃技すら使えない。
「意地悪を言わないでください。こうなってしまえばわたくしは何もできません」
「でしょうね。俺は今あなたをどうとでもできますし、供も連れていないあなたはこの状況を打開できない。だからあなたは無防備だと言っているんです」
「あなたの言いたいことはわかりました。だから手を離してください」
レオがあっさり手を離す。
ようやく不自然な体勢から解放されて、安堵の息を吐いた。
レオも少し冷静さを取り戻したようで、さっきのようなあからさまに苛立った表情ではなくなっていた。
「あなたはほかの誰も持ちえない素晴らしい力をお持ちです。けれどそれは荒事には向かない力で、あなたはか弱い女性です。なんでもご自分でなんとかしようとしないでください。俺の苦しみだのセティウスへの責任だの気にしないで、身を守ることを第一に考えてください」
そこでレオが片膝をつく。
「俺は今、あなたを守るべき騎士にあるまじき振る舞いをいたしました。いかなる処罰も甘んじてお受けします」
レオの感情の乱高下についていけないわ。
子供のころ、かっとなりやすいけど冷めるのも早いと思ったものだけど、今でもそういう面があるのね。
それにしても、怒るわふしだら扱いして挑発するわ押さえつけるわとさんざん好き勝手した挙句、忠告して謝るって。
今日のレオはわけがわからない。
どうせなら最初から最後まで頭に血がのぼってるほうがまだわかりやすいのに。
ああもう。
「聖女をむやみに押さえつけるのは許されない行為でしょう。でも攻撃したのはわたくしですし、あなたはそれを無力化しただけです」
「その前に俺がひどい挑発をしました」
「そうですわね。いずれにしろ押さえつけられたことなどどうでもいいのです。あなたにふしだらな女だと思われていたことが残念です」
「違います! あれは……感情的になって発した、なんの根拠もない暴言でした。それも聖女様の望む形で償いをさせていただきます」
「発した言葉への償いなんてできませんわ。たとえ腹いせにレオを蹴ろうが、わたくしの中からあなたの言葉は消えません」
レオが喉の奥で小さくうなる。
いくらレオを大事に思っていても、すべてを許すことはできない。
何らかの罰を受ければ暴言をなかったことにできると思われても困る。
さすがにレオも本気で反省したのか、さらに深く頭を下げた。
「……申し訳ありません。心からお詫びいたします」
言葉というのは怖い。
一度口から出てしまえばもう取り消せないから。
私も失言してしまうこともあるし、さっきも部屋に、とか余計なことを言ってレオの感情を悪化させてしまったけれど。
子供のレオにババアだのブスだの言われたときは腹が立ちながらも子供だからと許せたけれど、大人のレオにふしだら扱いされたのは結構こたえたわね。
けれど、これ以上はレオを責める気にもなれない。
レオがそこまで感情を乱したのは、私の行動のせいなのだから。
「わたくしにも非があります。無防備なのはおっしゃるとおりでしょうし、警護しているレオに対しても失礼なことをしてしまいました。それにセティウスに関してだってほかの人に知られれば、わたくしをふしだらだと思う人も出てくるでしょう」
「それは……」
「だから今回の件は貸しとします。レオを処罰しても何も楽しくありませんし。いいですね」
「寛大なる処置に感謝いたします。借りは必ず返します。返してない借りが増えてしまいましたが」
「ふふ、傷と紋章を治した分は連日の警護で返してもらいましたわ。さあ立ってレオ」
「しかしそれは本当に仕事なので」
「わたくしにも後ろめたい部分があるのですから、それは納得してください」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言ってレオは立ちあがった。
「そういえばセティウスが侵入してきた件、ランス団長は知っていたんですか」
「えーと……」
思わず目が泳ぐ。
「聖女様は嘘がつけないようですね。知らなかったのは俺だけとは」
「それに関しては本当に申し訳なく思います。でもセティウスと親しいからこそレオには知られたくなかったのです」
「団長だけが知っていたことについてはまあ納得はできますが。なぜあなたは危険を冒してまでセティウスを救おうとするのでしょうね」
「……中途半端に関わって傷つけてしまった償いです」
ミリアとしての責任とは言えないし。
「あいつに何かされませんでしたか」
「指一本触れられていませんわ」
「本当に?」
「ええ。せいぜい虫を投げつけられた程度です。投げ返しましたが。それに最初こそ病的でしたが、それも淀んだ魔力のせいです。根はいい子……いい人だと思います」
「そんなことを言えるほどあなたはセティウスと親しくなったんですね。俺の知らないところで一体何度会ってるのか」
レオの顔に、再び苛立ちと焦れたような色が浮かぶ。
セティを引き取った頃、「そっちの小さいののほうがかわいいんだろ!」と叫んだ時のような。
「セティウスの話になると、あなたは冷静さを失う傾向がありますね」
「そのようなことは」
レオが目をそらす。
都合の悪い時にこういう表情をするのよね。
「もしかして、やきもちなのですか?」
「!」
レオの顔が赤みをおびる。
図星だったかしら。
「その気持ちはわかりますわ。わたくしも幼いころ、大好きだった姉が婚約者を連れてきたときにその婚約者に意地悪をしてしまいましたから。姉がとられるような気がして悔しかったのです。けれどあなたとセティウスの間にある絆に、わたくしが影響を与えることはありません。セティウスも素直ではないけれどあなたを慕っています」
それに、長年側で気にかけてきたセティを、いきなり現れた私が無理やりであっても呪縛から解放したというのも、彼にとっては悔しかったのかもしれない。
そう思ったのだけれど。
レオは長い長い息を吐いて、その場にしゃがみこんだ。
「レオ、どうかしましたか」
そっちかよ、と小さく聞こえた気がした。
「レオ? 気分でも?」
私もしゃがんで呼びかけるけれど、今度はまったく返事がない。
「レオ」
トントンと肩を叩いても、やっぱり返事がない。
一緒にしゃがんでじっと見るけど、いじけた子供のように腕に顔を埋めたまま動かない。
仕方がないので落ちている小枝でつついてみる。
「……うんこですか俺は」
「わたくしはそんなものをつついたりしませんわ」
そういえば昔のレオは動物のを枝でつついていたわね。
それの何が楽しかったんだか。
「俺はちょっとこのまま休んでから行きます。聖女様はそろそろお戻りください。侍女が心配します」
「ですが」
「もう避けたり嫌味ったらしいことを言ったりはしませんので。ちょっと気持ちの整理をする時間をください」
「わかりました」
あまりしつこくするのも良くないわね。
本当にエイミーが心配するでしょうし、もう戻ろう。
私はその場に寝転がって空を見上げるレオを一瞥して、森をあとにした。
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