椿と佐倉はケンカップル

梅川いろは

プロローグ

 はじめましてこんにちは。

 お疲れ様です。

 私の名前は、椿(つばき)あやみといいます。

 「早」のつく某有名私立大学の政治経済学部卒、社会人四年目の26歳です。

 東京駅からほど近い、丸の内のとある金融関係の会社で働く、バリキャリです。

 もう一度言います。いや言わせていただきたい。

 すみません言わせてください。

 某有名私立大学の政治経済学部卒、社会人四年目の26歳です。

 丸の内の金融関係の会社で働く、バリキャリです。

 おわかりいただけたでしょうか?

 現在は秘書課に所属して、部長付きの秘書をやっています。

 まあ要するに美人秘書ってやつですね。有名私立大出身の。丸の内の会社の。

 ええ、「そういうこと」です。

 「そういうことってどういうことですか」って?

 あなた、わからないんですか?

 わからなければいいんです、別に。

 私の、つまり椿あやみという人間の価値は、わかる人にだけわかってもらえたらいいんです。

 少なくとも、私はそう思っています。

 では、そういうことで……さようなら。

 お疲れさまでした。ありがとうございました。

 えっ?私の隣にいるこの彼は誰か、ですって?

 彼というのはこの、ソファにやたら長い足を組んで座って、コーヒーを飲みながら雑誌「航空ファン」をむっつりと眺めているこの彼のことですよね?

 この人は、私の同期の佐倉伶(さくられい)です。

 顔は……まあね。そこそこ良いですよね。そこそこです。

 だからそこそこですよ、佐倉の顔面偏差値は。

 身長178cmの細身の長身で、黒い髪と切れ長の目が印象的な色白の青年です。

 世の中にはもっとお顔が良くて笑顔の素敵な男性がたっくさん、それこそ星の数ほどいますから、そういった素晴らしい方々と佐倉が肩を並べたとしたら、

 まあ、霞むでしょうね。さすがの佐倉も。

 だから、あまりジロジロ見ないでいただきたい。

 佐倉を見て顔を赤らめるなんて、もっての他ですよ。

 やめて。

 ちなみに佐倉は、私の愛する母校の往年のライバルとして知られる、某「慶の字のつく名門私立大学」商学部出身のボンボンです。

 実家が太い、恵まれし人間です。

 将来、佐倉は証券アナリストになりたいらしいです。

 なんでも、中学生の時からの夢なんですって。

 証券アナリストっていうのは、世に知られていない小さいながらも実力のある会社なんかを見つけてきて、投資をされる方々に鼻息を荒くして「みなさん!!ここに!!掘り出し物の!!良い投資先がッ!!ありますよ!!」ってやるお仕事です。

 うん。まあ、そんな感じですね。

 たぶん。

 ていうか、そんな佐倉ですけど、いま実は私と同じ秘書課にいるんですよ。

 去年度までリテール営業部っていう、花形といっていい部署にいたのに。

 それがなぜ秘書課に?

 ていうか、同じ部長を担当しているんです、いま。

 同じ部長に、2人の秘書がついているんですよ。

 その2人の秘書の内訳が①椿あやみ(26歳:女性)②佐倉伶(26歳:男性)なんです。

 謎でしょ?私もこの会社でしか秘書をやったことがないものですから、専門家みたいに語るのもちょっとアレなんですけど。

 普通の会社だと一人の上司を一人の秘書が担当するっていうのがおそらくは一般的なパターンですからね。政治家じゃあるまいし。

 謎でしたよ、最初はね。

 でも今は、何より気まずいですね。

 謎についてはこの後すぐに種明かしがありますから、どうかそのまま読み進めてください。

 もう一つ。

 なんで佐倉と一緒に秘書をやることが気まずいのかは、この後わかるかもしれないし、わからないかもしれないです。

 でもたぶん、おわかりいただけると思います。


 なぜなら私が、語りたがりな人間だから。


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