第48話 朝、起きたら(奏視点)
「んー……」
心地よい朝の陽ざしが顔に当たり、私は目を覚ました。
まどろみの中から徐々に覚醒に向かう意識……その中で妙な違和感を感じる。
なんだろう。
なんだか、温かいような……。
あー、しんたろーが隣でまだ寝てるから――
「奏、おはよう」
私を呼ぶ声が間近で聞こえ、私の意識は一瞬にして覚醒した。
同時に状況を理解した私の思考がフルスロットルで回転し、恥ずかしい気持ちが込み上げてきてしまう。
……まさか、しんたろーの膝枕で寝っちゃうなんて。
その事実が私を動揺させる。
やっちゃった。本来、私が膝枕をして癒してあげる予定だったのに……!
むむむ……、やっぱり何日もプランを練って夜更かしをしたからだよね。
あ~! 私のバカッ!!
そう後悔していると、彼が優しい顔つきで微笑みかけてきた。
「どうかした、奏?」
「い、いや! なんでもないからっ」
「そうか? 顔が赤いし、熱でも――」
「大丈夫だって! それよりも……脚、しびれてない??」
「問題ないよ。それよりも男の脚なんてゴツゴツして眠りづらかっただろ? 疲れていたら、もう少し寝てていいぞ」
「ん~大丈夫かな。案外、快眠だったよっ! えーっと、ナイス脚!!」
「ははっ。なんだよ、それ」
いつもの調子で私が笑って返すと、彼が嬉しそうに笑う。
そんな彼の表情に私は違和感を感じた。
なんだろう?
いつもは笑っていても、どこか辛そうな表情があったのに……。
今は、全くその雰囲気を感じさせない。
何か清々しくてスッキリとした顔……。
それは、まるで……大層、気分がいい出来事があったような…………あ。
そこまで考えて、私はようやく結論に至った。
しんたろーの目をじっと見つめると、彼は目を逸らすことなく、くすりと笑うだけだ。
そんな彼の顔色を窺いながら、私は確信したことを聞く。
「ね、ねー。しんたろー……」
「えっと。そんな、どもって何か――」
「もしかして、私を襲った?」
私が彼にそう聞くと「ぶっ!?」と噴き出した。
咳き込んで顔を真っ赤にしている。
そのことに私は疑いの視線を向けた。
「やっぱり、しんたろー……?」
「い、いや! 奏は馬鹿かっ! 俺は寝てる人間にそんなことしないわ!!」
「……本当に~? でも、私の服が乱れているような……? ほら、胸元もはだけて」
「そ、それは、奏の寝相が悪かったからだろ。ってか寧ろ、見えないようにタオルケットをかけた俺の優しさに感謝してくれ」
「うーん、タオルケット??」
「ほら、足元にあるだろ」
あ……確かに、足元には確かにタオルケットがあるね。
じゃあ服も私が暑くて、脱ごうとしただけってことかな?
それに、痛みや違和感はないし……。
つまりは、私の自意識過剰……?
そう思うと途端に恥ずかしくなり、顔に血が集まってくるのを感じた。
ヤバイ……この勘違いは恥ずかし過ぎる。
「本当に?」
「ほんとだ、ほんと」
「ふーん……」
「いいから、はだけてるなら早く隠せよ……」
顔をそらす彼に、私は少し挑発するつもりでややはだけた胸元を強調するようにする。
顔から火が出そうなぐらい恥ずかしいけど……。
しんたろーの赤面する顔が見れて大満足。
まぁ、彼の反応や性格からも私に手を出すようには思えないんだけどね。
『自制心の鬼か!!』っていつもツッコみたくなるし。
私は自分の恥ずかしさを誤魔化すために「しんたろーのチキン」と、揶揄う言葉を口にした。
そしたら、しんたろーは頰を掻きながら「悪かったな……」と恥ずかしそうな声で呟いた。
少年みたいな照れ隠しに自然と頰が緩む。
でも、なんだろう。
いつもは、適当に流すことが多いのに。
何でだろう?
……今日は認めている気がする。
まるで、夜に葛藤があったような感情が表に出ているような……そんな感覚がしんたろーからはした。
「ち、ちょっと顔を洗ってくる」
「うん。わかった……って、しんたろー?」
「どうした……?」
「そっちはトイレだよ」
「あー…………すまん」
——やっぱり変だ。
だって普通、自分の家でトイレと洗面所を間違える?
そんなことは有り得ない。
もしかして、私に遠慮しているのかな……?
それともまた距離を置こうとしている?
だとしたら……ちょっと残念。
今回のデートで少しは近づけたと思ったのに……。
——って、ダメダメ!!
こんなことでへこたれたって仕方ないでしょ!!
何年も片想いを拗らせてるんだからっ!
ちょっとの失敗で落ち込む必要はない!
ってか、今更でしょ!!
このまま視界から外れるとダメな気がして、私は慌てて彼の元に向かう。
そして手を掴もうと腕を伸ばすと、突然止まった彼に衝突して尻餅をついてしまった。
「いたた……」
「すまん、奏。大丈夫か?」
「……うん」
申し訳なさそうな表情をして、私を起こしてくれる。
……やっちゃった。
しんたろーからしたら、私が何故か突進してきて困惑していることだろう。
はぁ、どうして私は肝心な時にドジなのー……。
そんなことを思いため息をつくと、彼がいつにない真剣な声で話しかけてきた。
「なぁ、奏」
「えーっと、何?」
「朝からこんなこと言うのはどうかと思うんだけど」
「うん??」
私は首を傾げて、しんたろーの顔を真っ直ぐに見つめる。
視線が合うと、彼は私の肩を掴んだ。
「好き……だ。責任を取らせてくれ」
「………………へ?」
二人してかたまり、沈黙が訪れる。
そんな中、私の間抜けな声だけが静かに響いているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます