ピンポンハートスマッシュ
こんろんかずお
第1話 ラリー
カンッ……
コンッ……
カンッ……
体育館に卓球の壁打ち音が静かに響き渡る……。
俺の名前は『
俺は、部活が始まる何十分前かに来て、一人で壁打ちの練習をしていた。
後何分かすれば他の皆も来るだろう。
何で俺が真面目に練習しているかそれは……。
「へー珍しい……原がこんな早い時間に練習しているなんて」
きたきた、彼女の名前は『
「ちょっとね……」
俺はそう言って返したが、本当は理由がある。
「そんなにやる気があるなら、私と一緒にラリーしてよ?」
きた。
「いいよ」
本当はそんな素っ気ない返事をしたいんじゃない。今思えば、彼女の誘いは飛び上がるほど嬉しかったんだと思う。
カンッ……
コンッ……
カンッ……
軽い腕ならしのラリーから始める。
彼女はキレがいい真面目な球を返してくる。
彼女の真面目さは学校の教師方にも、たいそう評判が良かった。
学業の成績は優秀で学年ではトップクラス、そして卓球も同様だった。
何せ卓球の女性部のキャプテンに選ばれるくらいだったから。
彼女はちゃんとした向上心と目的があってやっていたが俺はそうじゃなかった。
何故なら友達と楽しくやるために入っただけだったから。
でも最近は違う、そうじゃなくなった。
そう、彼女のことが気になって一緒にいたかったからだ。
だから……。
カン……
コン……
カン……
コン……
ラリーのスピードは徐々に早くなっていく、彼女は真面目で練習も怠っていなかったため、このラリーを長い時間ミスすることなく続けれる。
正直俺は今まではそんなに真面目に練習していなかった。
何故なら特に目的がなく、モチベーションというものを保てなかったし、保とうとも思わなかった。
でも今は違う。
カッ……
コッ……
カッ……
コッ……
会話がなかった静寂が破られる。
「へー……原。続くようになってんじゃん?」
上から目線な勝気な彼女のお言葉……。
実際俺は彼女には何一つ勝てる気がしない。
「んー俺男だしな……それに……」
正直この言葉はとても嬉しかった。
とても嬉しかった? 何でなんだろうな。
男子キャプテンの部活の友達に言われても少し嬉しかったのはあったが、自主的に練習を増やしてやろうとはまったく思わなかったのに。
「それに?」
彼女はその俺の言葉に対し、クスクスと軽く笑う。
ドキッ!
(か、可愛い……)
俺は彼女のそんな余裕のある態度にドキッっとしてしまい、自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
ドッ……
ドッ……
ドッ……
ドッ……
俺はその感情を振り払うように、もう一つの感情を言葉にして返す。
「いや、負けたくないなーと……」
「へー? じゃ、もっと早くするね?」
彼女は透き通る声でさらりと言うと、ラリーのスピードをまた一段階上げてきた。
カ……
コ……
カ……
コ……
カ……
「は、はえーよ?」
実際この球撃ちの間隔だとちょっとした、スマッシュをずっと打っているようなもんだ。
「あははっ、負けたくないんでしょ?」
彼女は嬉しそうに笑いながらそう答えた。
彼女の純粋にきらきらと輝く瞳と、首筋に流れる汗はとても綺麗で素敵だった。
「く、くそっ!」
正直もうミスするミスしないはどうでも良かったし、勝ち負けもどうでも良かった。
彼女の楽しそうな笑顔と何かに打ち込んで輝いている瞬間をずっと見ていたかっただけだ。
ハッ……ハッ……ハッ……
自分の呼吸音から息切れしてきているのがわかる……。
彼女との努力の差があり、自分のスタミナが切れてきているのがわかった。
そんな俺の思いとは別に、彼女のやる気、それに熱い性格と共にスピードギアはさらに上がっていく。
カ
コ
カ
コ
カ
球がさっきと違い段違いに重い。まるで野球の硬球をミットで取っているような衝撃が手首に走る。ラケットをしっかり握っていないと、球を返せない状態だ。
「ちょ……ずっとフルスマッシュじゃねーか?」
俺はたまらず悲鳴を上げた。
「原っ男でしょ?」
彼女の力強くも優しい声が俺の心に響く。
お前のほうがよっぽど男らしいし、かっこいいよ……。
こんなこと本人の前で言ったら後が怖いから、とてもじゃないけど言えないけどな。
「か、関係ねえし!」
俺は自分の心情を悟られないように慌てて言い訳をする。
「……」
彼女はついに無言で球を打ってきた。
目つきが変わり、目尻が上がった真剣な表情になる。
この表情はあまり練習中には見られない。
……あーくそっ。
俺はなんかもう、頭にきたのでガムシャラに打ち返した。
カ
コ
カッカッカッ……カッ…………
球がネットに引っ掛かり、動きが停止する。
俺のミスでラリーは終わってしまったのだ……。
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