プレゼントの境界線

ひかげ

プレゼントの境界線

「サンタさん、サンタさん」


クリスマス・イヴの忙しい朝。

束の間の休み時間に、新人クリスマスエルフのクリスは、サンタさんに話しかけました。


無口なサンタさんは、眉を少しあげ、「なんだい」というような顔をしました。

クリスは、前からすごく気になっていたことを聞きます。


「サンタさん、世界中の子供たちは、いつからプレゼントが貰えなくなるの?」


サンタさんの座る、あったかい椅子の肘掛けにちょこんと乗っかり、クリスは言いました。

サンタさんは「はて…」と少し考えているような顔をした後


「クリスは、いつからだと思う?」


と、ないしょ話をするような小さな声で言いました。

クリスは「うーん」と考えます。

少しして、「わかった!」と言いました。


「サンタさんのことをいないって思った時!」


自信満々に答えましたが、サンタさんはゆっくり首を横に振りました。

違うようです。

クリスはまた、「うーん」と考え始めます。

そして少しすると、「わかった!」と言いました。


「もしかして、性に関することを知った時?」


クリスがそう言うと、サンタさんはまた首を横に振りました。

クリスはまた考え始めます。

今度はもう少し時間がかかってから、言いました。


「歳が大きくなった時?」


気弱に答えるクリスに、サンタさんはまたしても首を横に振りました。

クリスはしょんぼり。

クリスはクリスマスの学校を1番に卒業したので、正解する自信があったのです。

でも、どの答えも違っていました。


クリスはサンタさんに、ないしょ話をするような小さな声で言います。


(ねぇ、サンタさん。ぼく、秘密にするから教えてよ)


サンタさんは少し考えた後、ゆっくりたてにうなずきました。


「私がプレゼントをあげる子たちはね、まだ、1人では何かを手に入れられない子たちなんだ」


ゆっくり、のんびり、そう言いました。

でも、クリスにはわかりません。

「それって、どういう意味?」と聞きました。

サンタさんは答えます。


「自分でね、居場所を作れるようになったり、幸せを作れたりする子には、もうプレゼントは必要ないんだよ。自分で笑顔を生み出せる子には、幸せがいつもついて回るからね」


クリスは、ますますわからなくなります。

サンタさんはそんなクリスを見て、「ホッホッホ〜」と笑いました。


「私はね、この言葉は好きではないのだけど…」


「クリスも、大人になったらわかるよ」


「いいや、大人にならなくても、分かる時が来るよ」


「?」


クリスはわからない、というような顔をして、でも、サンタさんの言葉に「そっか!」とうなずきました。



今はまだ、わからないことだらけだけど


明日になったらわかるかも。


明日じゃなくても、その次の日でも。


来年になったら、もっといろんなことがわかって


きっと、大人になったらもっと、見えるものがあるんだろう。


見えなくなるものも、その分あるだろうけど。



クリスは、肘掛けからポン、と飛び降りて、サンタさんにお辞儀をしてから仕事に戻りました。

そろそろ、出発しないといけません。



今年もたくさん、プレゼントがあります。

今年も、たくさんの子供達に笑顔を届けます。


ソリと、赤鼻を先頭にトナカイを繋いだ。




クリスマスエルフたちは手を振りサンタさんを見送る。



クリスマスの朝、世界中の子供たちが笑顔になれますように!



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