ようちゃん
にらみ合う2人にどう声をかけたらいいんだろうと考えていたら、ガチャとドアが開いた。
「ヤーにぃ、マーにぃ、ご飯……」
きえそうな低い声といっしょにピンク色のおとこの子がドアからひょっこりとあらわれる。
からっぽの目が大きく見開いて、部屋へといきおいいよく入ってきた。
「ちょ、ちょっと! なに2人で味わってんの!?」
俺の大事なゆーたんなんだからとぼくをひょいとひきよせて、まひるとやひこからはなすカレ。
「傷治してくれるって言うから預けたのに……ごめんな、ゆーたん」
やさしい声。
温かいむね。
天使のようなほほえみ。
二重のくりくりした目の左の方に大きいほくろ、たかい鼻のカレがぼくをたすけてくれた人……ようちゃんでまちがいない。
「ありがとう、ようちゃん」
だからぼくもまねをしたんだ。
すると、こんどは顔を赤らめて目を見開くようちゃん。
「フォーリンラブ♪」
ちかづいてきたくちびるにびっくりして、ぼくは目を閉じた。
2回つついたあと、ぼくのくちびるをはさむ。
はむはむと右、左と顔をたおすから、変な気持ちになる。
だんだん上がっていくからだの熱をだすためにかるくく口を開けると、ようちゃんの舌が入ってきた。
「ふっ、ふああっ……」
声にならない声がようちゃんの口にすいこまれてる。
「やららわやや」
イミのわからないことばをようちゃんが言うと、ぼくの口の中がほんのり温かくなった。
玉のようなものであまくふわふわしたものだったけど、くるしくなってきたから飲み込んでしまった。
でも、そうしたら力がみなぎってきて、元気になった。
チュパッとはなれたら、糸がまだつながっていた。
それを細い目で見つめながら長い舌でとり、ニッと笑った顔がとてもカッコよかった。
「治療系は苦手だからイヤなのに……はやく着替えてご飯食べよ?」
コテンとしたようちゃんがこんどはかわくて、カレもぼくのお兄ちゃんだってことをわすれそうになった。
「着替える前にちゃんと身体見た方がええんちゃう?」
「わたくしもひるも言われたことはちゃんといたしましたよ」
2人のことばをきいて、ぼくはからだを見てみる。
さっきまですわれていたはずのおなかにキズがないのはおろか、今までのキズも見当たらない。
うでも
あしも。
「顔も綺麗になったよ」
どこから出したかわからないガガミで自分の顔を見たけど、自分の顔だとわかるのに10秒かかったんだ。
「残念やけど、記憶までは消されへんかったわ……せめて、心の傷だけはと思うて棘は抜いたったけどな」
ごめんなぁともうしわけなさそうにあやまるまひる。
「記憶操作は出来ないわけではないのでございますが、代償に地獄のような痛みが全身を焦がすのでございます……そのようなことをあなたにさせたくなかったのでございます」
お許しくださいませとやひこはふかくあたまを下げる。
「まぁ、これから俺たちと楽しい思い出作っていこうってことだから。よろしくね、ゆーたん」
ハートがつくように言ったようちゃんは右の目でウインクをする。
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