ひとつ

 いつの間にか電気が止まっていた。


「こんなもんで、いいんですか?」


ぼくはヨインでピクピクとふるえながらも、笑っていた。


「おまえ、そのままやとたりょうしゅっけつでしぬねんで!」


やった人なのに、なぜかほえている。


多量出血、それなら。


「血ならだいじょうぶです。ねぇ、ピンクさん」


あとはよろしくね。


「はーい。俺が綺麗に全部吸ってあげるさ」


ピンクのカレはボロボロの服をビリビリして、チュプチュプとすっていく。

 


 「なに、してんねん」


「血をすいつくして、皮と肉は食べて、骨は御前家におくっていただけるとヤクソクされましたので」


すらすらと言うと、マーにぃの目がいっしゅんゆれた。


「そんなことをいって、ゆるされるとおもうなよ」


キッとにらむ顔を見て、そうだろうなとおもう。


それだけのことをあの家は平気でするから。


「ゆるされようとはおもっておりません。ぼくはずっとくるしめられるだけですから」


さぁ、どうぞとぼくは口のはじっこをあげた。


「よう、どうにかしてくれ」


なにをまよっているのだろう。


うらんでいるならコロせばいい。


それだけなのに。


「遠慮なく殺したらいいじゃん。その後、俺がもらって永遠に俺のものにするから」


右手でぼくの頭をなでて、ふふふと笑うピンクのカレ。


この笑い声が最後まで聞いていたいな。


最後になくなる感覚は聴覚だから。



 「ごめん、御前に骨やんないことにしたよ。君の骨をしゃぶっていたいから」


ああ、骨までカレにうばわれてしまうんだ。


でも、わるくないな。


「ぼくはずっとあなたにいたぶられるんですね。あなただから、いいですよ」


そのかわり、ずっとそばにいてください。


「そう言われたら照れちゃうな。もう離してあげないから」


ぼくもあなたのそばにいますから。


「これで、あなたとひとつになれる」


ぼくはふふふと笑った。


あなたの中に溶けていって、ひとつになるんだ。




 ガタン


「ではその命、やつがれがいただいてもよろしいでしょうか?」


きいたことがない声のさきを見ると、オレンジの髪の人がいた。


おとなの笑いかたをしてちかづいてきた。


「あげます、もうどうにでもしてください」


にへらと笑うぼく。


「大丈夫でございますよ、悪いようにいたしません」


そうしずかに言ったその人は僕の額にごっつんこした。




 「貴方様は夕馬でございます」


ぼくはまったくイミがわからなかった。


「なに、それ」


「代わりにお名前を差し上げたのでございます」


その人はピンクのカレみたいな笑いかたをして、ぼくの頭をなでる。


「貴方様は今から人質でございます。朝日家の四男として生き、いづれかは御前家を潰すトップへとなるのでございます」


「朝日、家……?」


「はい。貴方様は罰として生きていただきます。貴方様が大事にしていた御前の名は今捨てました」


おほほと笑うその人。


罰として……生きる?


「貴方様は愛に溺れていただきます。縛られて苦しんでも、絶対に死なせませんので、ご覚悟を」


おぼれる……愛は水なのか。


それとも紐で括られることをいうのか。


わからないけど、くるしいんだ。


ぼくにはぴったりだ。


「くるしい、の?」


「それはもう。あなたが受けてきた暴力や地獄の罰よりずっと」


わかりました。


ぼくはせいいっぱいつぐないます。


「それな、ら……おねがいいたします」


ここが楽園なら、それでいいから。


でも、つかれちゃったから……やすませて。


ぼくはちからつきて、意識をはなしたんだ。

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