しらない

ずっとからだがビリビリしつづけているなかでなぜかカレの声が頭に伝わってくる。


"血は15分で吸い尽くせるよ……大丈夫、少しも怖くないさ"


"君の全ては僕の血肉になるから。もちろん、心ももらう"


"骨の髄までしゃぶり尽くして御前に送りつけるから"


"でも、君のことを寝かせるつもりは一切ないよ。どんな時も君を思い出すから"


"諦めなよ……朝日家に捕まったのが運のツキさ"


脅されているはずなのにふわふわがふえてきて、ついにバンってはじけた。


びっくりしたぼくははじめてさけんじゃった。


「ンアッ、あ、あっ……ご、ごめんなさい」


ブルブルしたままの身体はこわさでますますふるえる。


「イッちゃった?」


やさしく言うカレは耳をペロリとするから、また変な声がでる。


「なに、それ……?」


とまどうぼくにカレはまたふふふと笑う。


「知らないんだね、かわいい」


かおのはじっこにカレはチュッとしたから、よりわからなくなったんだ。


  

 「ねぇ……君って、いくつ?」


「18才です」


「俺と一緒か……もしかしたら俺の片割れかもしれないね」


ほそく開けた目から見えるカレは変わらずニッコリしていた。


「もしかして、初めてだった?」


あまく小さい声で言ったカレは右の人差し指で血をくるくるして取り、ながいベロでぺろりと一口でなめる。


ぼくは寒くないのに、からだが大きくブルブルってなった。


「あらら、君の初めて……奪っちゃった♪」


カレは顔を左にたおしてグーにした右手を右のこめかみに一回当てた。

 

それがとてもかわいかったんだ。



 「俺、怖い?」


「こわく……ないよ」


「赤い目、どう思う?」


「きれい」


「俺に殺されてもいい?」


「いいよ」


「首を絞められても?」


「うん」


「血を吸い尽くされても?」


「うん」


「あのさ、肯定すればいいってもんちゃうからね」


だっていいから。


あなたなら。


「じゃあ、俺と楽園に行ってくれる?」


「らく……えん?」


「そこで思いっきり愛してあげるから」


「あい……し?」


この人はわからない言葉ばかり言う。


「でも俺、短気だから……その前にやっぱり殺しちゃうかもよ?」


カレはやさしい声で言ってからぼくを強く抱きしめる。


ああ、圧死する。


「あなた、だから……いいですよ。ぼくにとって、あなたは、てんし、です」


苦しくて声ががさがさしてきた。


「ほんとにもう……俺を殺す気? 君の方が天使でしょうよ」


カレはふふふと笑う。


「大丈夫、すぐに気に入ると思うよ」


カレがほそくした目がアカく光ったのをさいごに、ぼくのイシキはなくなってしまったんだ。


 しらない。


こんなのしらない。


あたたかくて

やわらかい


これがやさしさなのか。


ピンクのカレはほんとうに楽園へつれてってくれるだろうか。


まぁいいや。


カレとならどこへでも。



 ゴトン


チカラなくつめたいところへおとされたのがわかった。


ああ、さっきのはユメだったんだ。



「そんな憎いならさ、マーにぃ。殺してあげてよ」


マーにぃってだれだろう。


「頭の傷、つけられたんだよね。 復讐してやったら?」


ああ、その人もか。


「あな、たも……御前家に、うらみが、あり、ますか?」


ぼくはなんとか目をすこしあけて、がさがさした声できく。


キミドリ色の髪の人がきっとマーにぃ。


マーにぃは口をまげてちかづいてきた。


「ありすぎるくらいやわ。今、返してやるからなぁ」


手を伸ばしてすこしうえにした。


ぼくの身体がなぜかもちあがり、顎をみせる。


マーにぃはニヤッと笑い、手をギュッとにぎった。



すると、ブルブルと身体がゆれはじめた。


目からも口からも水がながれるけどたいしたことない。


何回か父上のしじでで電気をあびたことがあるから。


ぼくはきがくるっているからって。


つよくなったけど、ぜんぜんだいじょうぶ。


うらんでいるなら、もっとやってよ。


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