第118話 第四章 『カノジョ宣言して、なにが悪い!』(36)

 俺は気付かれた動揺で、慌ててそっぽを向いて、

「クレオ・・・その・・・着替えるときは言ってくれれば、隣の部屋に行ったのに・・・」

「ん? ああ、着替えか? っていうか、なんで変な方向を見て話しているのだ? 人に話すときは、ちゃんとその人を見たほうがいいと思うぞ?」

「いや、誰のせいで、そっぽ向いているかって言うと・・・」

「誰のせいって・・・もしかして妾の着替えに何か問題でも・・・?」


 ハタと、ここで気が付いた。

 会話がどうも噛み合わねぇ・・・そもそもクレオが全然恥じていない・・・もしかして。


 そこで、(クレオの言うとおり、相手を見ないと失礼だからな・・・って誰に言い訳してんだおれは!)彼女のほうに恐る恐る向き直り、

「いや・・・その・・・着替えを人に見られるの、恥ずかしくないのか?」


 うわー、どっちにしても凄い眺めだ。

 ラッキースケベと片付けるには、ガッツリ見えすぎている。

 あんまり直視しちゃうと、前屈みになっちまう(男性特有のリアクションのことですね)。


「別に恥ずかしくなどないが?」

 彼女は気にもせず、脱いだハイウエストスカートをテーブルに置いて、スウェットを代わりに着始める。


 仕草がエロい・・・。


 まだ上半身がブラのまま、手を腰に当て「?」となっている彼女を見て、俺はピンときた。

 そうか、古代エジプトに限らず王宮では、セクメトナーメンたちが男の眼を遮断する環境を自動的に作っていたな。

 衝立で囲ったり、そもそも男子禁制ゾーンとかがあったりして。

 すなわち本人は、どこでどんな格好をしようとも、心配する必要は無い。

 なるほど・・・。

 だが、今はその環境がすっかり変わってしまったし、騒ぎ立てそうなセクメトナーメンも買い出し中でいない。

 だから、クレオには少なくとも周囲の(というか男どもの)眼というものを、気にしてもらいたい。


 ・・・などという、俺の心の声が彼女に届くはずも無く!

 俺の目の前で、彼女は悠然と着替えていく。

 うーむ、俺のことはまるで空気のような扱いだな。

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