第41話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(32)

 昨日の料理屋でもそうだったのだが、きょうも大食いになってしまった。

 いつものことだと言わんばかりの表情で、セクメトの奴も笑うのを堪えている。

 ちぇ。

 やっぱり、恥ずかしい。

 ・・・・

 さて、空腹が満たされてちょっと落ちついた(笑)。

 するとタイミングを見計らったかのように、彼が切り出してくる。

「これからなんとか君たちをサポートして、ここで生活出来るようにしようと思う・・・ってわけだから改めて、俺の名前は西郷平八郎。今までどおり『ハチ』で構わない。よろしく」

 手を出されて、つられてこちらも手を出す。

「こちらこそ、クレオパトラ七世・フィロパトルだ。改めてよろしく頼む・・・ところで、この手を結ぶのは儀式なのか?」

「これはだな、握手といって、親交を結ぶ時のこの時代の習慣だ」

「・・・なんか温もりが伝わって・・・良いものだな」

 結んでいた自分の手を見つめる。

「・・・セクメトナーメン、クレオパトラ陛下の侍従長です。よろしくお願いします」

 ハチはセクメトとも握手を交わしつつ、自分のプロフィールを話す。

「俺は、いわゆる学者に付き従って修行している研究者だ。さっき話した通り、考古学といってだな、昔の人類の文化の足跡を研究しているんだ」

 ふーん、そんな学問がこの時代にはあるのか。

「なるほど、それでわが王朝のことも、やたら詳しかったということなのだな・・・では、妾の自己紹介はもはや不要だな?」

「ああ、だけど君自身のことは詳しく知りたいな」

「妾の?」

「そう、たとえば好きな食べ物とか、特技とか・・・いろいろ」

 ハチの奴も、いろいろスッキリしたらしく、だいぶ打ち解けた様子で話してきてくれる。

 なによりだ。


「・・・それは、妾と共に暮らしていくうえで、そなたが見つけていくがよい」

「それもそうか」

 彼は一瞬だけ残念そうな表情を見せたので、思わずフォローしたくなった。

 ふふふ・・・妾のほうも、彼の人柄に馴染んできたのであろうか。


「そのほうが殿方には楽しいであろうし、全部説明してしまうより、多少秘密があったほうが女は魅力があると思うのだが?」

 彼は楽しそうに微笑む。

 おお、ハチとの親密度が上がった気がする。

 やはり護衛対象との信頼関係は必須だからな・・・と内心喜んだのだが、

 すかさず、こほんとセクメトが咳払いをして、

「クレオパトラ、そんなことより、そろそろ本題に」

 セクメトの奴、勘がいいな。

 妾がちょっと殿方と仲良くすると、すぐに牽制に入るからな。

 はあ、

 やれやれ、

 まったくセクメトの奴も、いい加減『クレオパトラ離れ』してほしいものだ。

 まあいい、確かに本題に入らねばな。

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