第38話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(29)

「妾たちが魔術師、つまりそなたの言うところの『真の魔術』を使役することも納得したのか?」

「それは・・・」

「中途半端な理解では、あとあとこちらも困るからな」


 言うなり、彼女は立ち上がり、聖槍を何もない空間から取り出してこちらに突き出す。

「!」

 俺は一瞬思考が止まった。


 そう、アタマが真っ白になったって奴だ。

 でも・・・無理もないだろう?

 何もない空間から現れたんだ。

 その心境を感応したかのように、クレオパトラが言う。

 いや、ホントに魔術で俺の精神を読み解いたのかもしれない。

「そう、無理もない。魔術はこの世の理を統べるというものの、凡人には理解出来ないものだからな」

「どうやって」

 我ながら、子供の様なシンプルな疑問しか出てこない。

 若くしてドクター(博士号)を持っていたって、まったく理解不能な事象に遭遇しちまうと・・・このザマだな。

「妾のような魔術師はこの聖槍の助けを借り、神からアタマの中に術式を授かることが出来る・・・それを魔術師は『視える』というのだ」

「・・・・」

「まあ、こうして説明しても、魔術師でなければ理解出来ないだろうが」

「たしかに、一ミリも理解出来ないよ」

 それを聞いて、くすくすとクレオパトラが笑う。

 おお、さきほどから一転、なんて可愛い笑顔なんだ。

「それにしても君は、相変わらず要点を絞った話し方をするし、知識も豊富なんだな」

「当たり前であろう? 妾はファラオであるから、最高の教育を受けてきたに決まっている」

 クレオパトラには、ようやく元の笑顔が戻っている。


 しかし・・・中二病のコスプレイヤーかと思っていたってのに・・・まさか本物のクレオパトラ七世・フィロパトルだとはなあ・・・。

 しかも魔術師だ。

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