第2話 未来の黄と現在の赤
私は夕ご飯の買い出しに未来の萌黄と一緒に来ている。
言わずもがな、居候が一気に五人も増えたので食事の量も増える。そうなると買い出しの量も増える。だから二人係で行くことになり、元々当番であった私に未来萌黄が付いてきたのだ。
「今日、夕飯結構豪勢にするだよね?」
「そうらしいわよ」
いや、コイツ……良いからだしてるわね……。私より全然魅力的……
引き締まった足、大人な感じな雰囲気。可愛らしいパツキンの髪と眉毛と目。何より、何より……胸!!!
萌黄、益々大きくなってなんなのよ!!! 未来の私見たけど、Bじゃん!! なんでみんな大きいのに私だけ小さいのよ!! 意味わからん!!!
せめて、ⅮいやⅭくらいは行って欲しかった……
「えっと、何か凄い視線を感じるんだけど」
「なんでもないわ」
「あ、そう?」
くっ、まぁ良いわ。ヒロインが巨乳だからって、三十路を超えてるんだから。アドバンテージは私にあるわ……よね?
「えっと、エビと豚ロース肉、鳥もも肉……」
萌黄がメモをすらすらと読み上げてカゴにテキパキと買うものを入れていく。彼女が漂ってくる良妻臭。油断ならないわね
色々買いながらスーパーを回っていると萌黄が呟く
「火蓮ちゃんとお買い物なんて久しぶりだな」
「そう……」
そう言えば、未来の皆は十六夜がいなくなってバラバラになって悲しみの毎日を生きていたって聞いたわね。
こういう時ってなんて言えばいいのかしら
「あ、ごめん。気、遣っちゃったよね?」
「いや……別に……」
「あー、なんかごめんね?」
「気なんて遣ってないわ……それより、買い物続けましょ」
こういう風にしか言えない私。自分の語弊力の無さが疎ましい。でも、彼女はちょっと笑った。
「そうだね……」
再び二人で歩き出すと彼女がふと足を止めた。
「ああー、お酒……飲みたい……」
彼女の視線の先には缶ビールやら、ワインやら、色々置いてある。お酒コーナー。そういえば成人してるんだからお酒くらい飲んでも不思議じゃないわよね。
私も飲むのかしら?
そう言えば未来の私って髪型変えてたわね……ショートヘアーでさっぱりはしてたけど。何で切ったのかしら。ツインテールって可愛いのに……でも、社会人になってツインテールは流石に無いのかしら……
今度……色々聞いてみようかな……
そんな事を考えていると目の前でお酒に目を奪われている彼女を思い出す。
「買ってもいいんじゃない?」
「いや、でもさ……いいのかな?」
「良いと思うわ。十六夜もそれくらいでどうこう言わないでしょ?」
「うーん……でも、未来から来て居候でお酒飲みたいって……」
三十路の萌黄も遠慮癖は変わってないのね。
「はいはい、どれ飲みたいの?」
「……その、この金色の奴……」
「これね……何本飲みたいの?」
「えっと……ご、五本……」
「結構飲むのね……あ、萌黄以外も飲みたいわよね?」
「そ、そうかもしれないです……」
「急に塩らしくなったわね……まぁ、これならワンケース丸々買った方が良いわね」
「そ、そうだね」
ワンケース丸々買う事にして私がそれを持つ。萌黄だと色々遠慮するから私が率先して買わないといけない。
魔力を上手いこと使うとこんなのも簡単に持てる。
「あ、その」
「気にしなくていいわ……今夜は、十六夜との再会とか色々祝って……このお酒で優勝したいんでしょ?」
「か、火蓮ちゃん……流石だよ!」
涙を浮かべて喜ぶ彼女。お酒がよっぽど萌黄好きなんだなと思いつつ、私は買うべきもの+お酒を持ってレジに並ぶ。
並びながら私は彼女に聞いた。
「お酒、美味しいの?」
「うん、凄く」
「へぇ……」
「多分、未来の火蓮ちゃんも飲んでると思うよ」
「そうかしら?」
「うん、きっと飲んでる」
彼女は凄い自信満々にそう言った。勘なのかただの予想なのか。社会人として普通と言う概念的な物から判断しているのか分からない。彼女はそのまま理由を言った。
「だって、それくらいしかすることないもん」
「……え? それって……」
それ以上言葉が出なかった。そして、彼女も言ってしまったと後悔の眼をした。彼女はまたやってしまったと思いながらもこの雰囲気を霧散させるようにテンションを上げる。
「ああ、ほら! 前が開いたから早く会計しよう!」
「ああ、うん……」
私も適当に相槌を打って前に行く。商品券を出して値段を安く済ませて、エコバッグに荷物を詰める。
私は両手でビールのダースを持って、彼女は両手に膨らんだエコバッグ。
自動ドアを抜けて、外に出る。何だか、気まずい感じになってしまっている。彼女は無理に話題を作り私に話しかける。
「あー、お酒がどんな味が気になる?」
「まぁ……」
「お酒はね、まぁ、苦みの強い感じのものがあったり、それが苦手ならワインとか梅酒とか……えっと、一応言っておくけど味が気になっても飲んじゃダメだよ?」
「分かってるわよ」
「そう、だよね……」
「……無理に話を広げたりしなくていいわよ」
「え?」
「大人でも言いたくない事とか、辛い事とか、うっかりとかあるのは当然。泣きたい時もあるだろうし、無理に笑顔なんてしなくていい……大人だからとか、関係ない。萌黄は萌黄。それが未来でも今でも……上手く言えないけど……こう、何と言うか……遠慮すんな……ってことよ」
ああ、恥ずかしいぃ。こんな週刊少年系のセリフを息を吐くように言える十六夜ってメンタル凄いと彼の良いところを再認識する。
「ふふ、そっか……変わってないね。それにしても何という熱血溢れる言葉なんだ……火蓮ちゃんの熱血言葉を本にしたいって今割と本気で思った」
彼女はクスっと笑って笑った。私は恥ずかしくて頬を紅潮してからかわれた気がしたからそっぽを向いた。
「火蓮ちゃんありがとう……僕、大好きだよ」
「そ……」
「あれ? 何か、不機嫌になってない?」
「なってない」
「いやいや、なってるじゃん」
「なってない」
「いや、」
「なってない」
「えー、ま、いいか」
「っ……ふふ」
何となくだけど、彼女とも仲良くなれる気がした。さっき、からかわれた仕返しに私は彼女もからかってやろうと思った。
「三十路ってなると、体が硬くなるって言うけどそこら辺どう?」
「三十路だけど体柔らかいよ。あと、年齢のこと言うの禁止」
結構ガチトーンで年齢のことを言うのを禁止された。
「ぴちぴちJKなもんで、気になっちゃうのよ。先の事が……さ」
「今両手が塞がってるから何もできないけど、空いてたらげんこつしてた」
「何か罰が古くない? 漂う三十路臭……」
「よろしい……あとで久しぶりの全身くすぐりをくらわしてあげる」
馬鹿話で盛り上がりながら、私達は帰路を歩く。ただ、三十路ネタはほどほどにしないと本気で怒られると私は感じた。
やはり、年は気になるのだろうか。私は全然気にならなけどそれは今が若いだけで未来の私は気になっているのだろうか。聞いてみよう。
何というか、自分と話すのって勇気がいるのよね。
「そう言えば、未来組ってこれからどうするの? 仕事とか」
「メルちゃんの実家の旅館手伝ったり、異世界で冒険者して食材稼いだり……? 身分証が出来ればこっちで仕事?」
「あ、決まってない感じなのね」
「うん……でも流石に働かないのはナシかな?」
「そうなんだ……十六夜ならニートでも余裕でオーケー出しそうだけど」
「甘えるのもほどほどにしないとさ。それに何かはやらないと人としてダメになる気がする」
「へぇー、考えがみそ……大人ね」
「今言い変えたのは百点」
こっちの萌黄も考え方がしっかりしてるわね。それと言い換えて良かった。途中で彼女の視線が鋭くなったのを見逃さなかったのだ。正直言うとちょっと怖かった。
年齢……からかいすぎるのダメ、絶対。本日二度目、そう思った。
そんなこんなで二人で歩いていると私達の前から唐突に冷たい風が吹き抜ける。まだまだ寒い季節であるなと私は感じる。
「寒いわね」
「そうだねー」
「ココア飲みたくならない?」
「うん……そうだ…‥あ、いや……」
彼女は一瞬同意したけど、撤回した。
「僕は……キャラメルフラペチーノかな?」
「洒落てるのね」
その日、私は萌黄の寒い時に飲みたい、好きな暖かい飲みものはキャラメルフラペチーノだと知った。
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