いざこざ
Aランクの四人を残し他のクラスメイト達は街へと出て行った。
それに少し遅れて俺達四人も街へと向かい城を出る。
その道中、
「優輝はなんでそんなダサい恰好なんかしてるの?」
フィートからの質問。
それに対して、
(え……今更)
口に出そうになった言葉を何とか堪えて心の中で突っ込みを入れる。
「そうそう、私も不思議に思ってたんだよね~~。神のときの優輝は凄くかっこいいのになんで~?」
フィートに続きリナも聞いてくる。
「優輝、ダサい」
無口で言葉足らずのレナの言葉が一番心にダメージを与えてくる。
ストレートな意見。
レナは悪気なく言っているからそれに対してきつく言うことは出来ない。
「俺は学校生活では目立たずに、のんびりとした生活を送りたいだけなんだよ。それなのにお前らときたら、そんな俺の目標を完全にくずしてくれたな~」
ため息交じりに怒ったところでリナ達にはと言うより、リナに対しては何も伝わらない。たぶんリナは何故俺が起こっているのかさえ分かっていないだろう。
「そのためだけにそんな恰好してるの?」
「そうだよ~ は~あ~」
ため息しか出てこない。
俺達がそんなやり取りをしなが城をでようとしたところで、
「フィートちゃん、レナちゃん、リナちゃん!」
後ろから声をそろえてフィート達を呼び止めようとする声が聞こえてきた。
全員で後ろを振り向くと、そこにはAランクとして城に残った四人が立っていた。
四人の不良達は、ダッシュで俺達の方へとやってくる。目当ては決まっているフィート達三人であろうと。
「俺達、王様にお願いしてフィートちゃん達もこの城で一緒に暮らせないか聞いてみたんだ」
「そうした王様、二つ返事で了承してくれたんだよ」
「だからさ、そんなダサいがり勉のもやし君なんかと一緒にいないでさ、俺達一緒にこの城にとどまろうよ」
「何があっても俺達が守るからさ、なんたって俺達Aランクの勇者なんだからよ」
などと不良とは正反対の優等生らしき言葉遣いで言ってくる。
だが、この四人は行ってはいけない言葉を口にしてしまった。
神なら誰でも知っている。
この三人の前で俺の悪口を言ってはならないことを。
「誰がもやしなのかしら? もう一度言ってもらえるかな?」
「ねえねえ、誰のこと言っているのかな?」
「言えないの?」
三人とも顔が笑っていない。すごく怖い。
神の世界では知らぬ者のいない女性の神三人。それがフィート達三人である。
「そんなの決まっているだろう」
「そこにいるもやし君だよ。ねえもやし君」
俺の方を見ながら聞いてくる。
だが、その声に答えたのは俺ではなかった。
「だ・か・ら、名前で答えてって言ってるでしょ。じゃないと」
フィートは自分の横の壁にパンチを一撃。
それにより、壁に大きな穴と上下にひびが入った。
「何を怒っているんだい? ねえ音無君」
だが答えない。
正直もう関わりたくない。
「そっか~、優輝のことを言っているんだ~ へ~~」
笑顔が完全に消えて真顔になっている。
悪寒が走った。
(もうやめてくれ)
この後のことは想像できる。だからこそ、
「お前らも調子に乗るな」
「っは! 何言ってるのかなもやし君。教室ではいつもボッチで教科書ばっか読んでるがり勉の陰キャくんが! 俺達に口答えだと! アイドルと知り合いだからって調子に乗るなよ」
リーダーの日向が俺の言葉に噛みついてくる。
「君達さ、一回死んでみる。大丈夫痛くしないから」
今度は笑顔でそんなことを言うリナ。
「三人もそれくらいにしとけ、こんな雑魚の相手なんてしても時間の無駄だろ」
何とかここを穏便に済ませよう。ただしそれはフィート達を暴れさせないでと言う意味であるが。
「雑魚が何を言っているのかな? 君みたいなもやし君が僕たちに勝てるわけないだろう。雑魚って言うのは君みたいな人のことを言うんだよ。そんなことも分からないのかい?」
日向が剣を抜き戦闘態勢に入ろうとした。
だが、その剣が抜かれることはなかった。
「!!」
驚き。
「そんないい剣をもらってるのに使い手がこれだともったいないな」
日向の足を軽く払い地面に押さえつける。
その光景に驚きのあまり声を出せない他の三人。
今何が起きたのか全く理解出来ていなかった。
「さあ行くぞ」
俺はフィート達と白を出て街へと向かうのであった。
優輝達がいなくなった玉座の間。
その中より話声が聞こえてくる。
「これで我が国の勝利間違いなしですな国王様」
「そうであるな。まさかAランクの勇者が四人も現れるとはおどきじゃ」
この世界で行われる勇者召喚。
異世界より勇者となりえる素質のある者を呼び寄せる魔法とされている。今回の国同士の戦争においてそれぞれの国で一度のみ勇者召喚を行うことが出来る取り決めがされていた。
この勇者召喚で召喚できる人数は様々で今回のように複数人のときもあれば一人だけということもある。
そして今回、サーム王国でかなりの人数の勇者を召喚した上に何十人に一人いるかいないかと言われるAランクステータスを持つ勇者を四人召喚することが出来た。
それに、それぞれが別々の職業を持っていた。
四人のリーダーでもある日向月光の職業は剣士。
四人の中で一番頭の切れる天空流星は魔法師。
仲間思いで他の三人のことをバカにされたりすると一番に動き出す月影竜牙は盾使い。
そして、不良として喧嘩があまり得意でなかったが姑息なことが得意で、喧嘩のときはいつもトラップなどを仕掛けて敵を罠にかけるのが得意な天神咲夜は回復師と付与師の職業であった。
全体的にもバランスの取れたパーティーでもあり王達はかなり喜んでいた。
だが、この中に一人このことを喜べない者が一人いた。
「お父様! 私が召喚した勇者様はあの者達ではございません!」
「何を言うか! あの者達以外にそれらしきに者などおらんかったではないか」
今回国王がクラスメイト達のステータスを見るために使ったレンズは表面上のステータスしか確認することが出来ない。つまり、優輝達のように隠蔽などでステータスを変更すると、それがそのまま見えてしまうのである。
だからこそ、国王は優輝達のことを使えないDランク冒険者として扱ったのである。
だが、姫は違った。召喚の際に優輝達の四人の実力を見抜きこの世界へと召喚した。
それに、姫が手に持っている水晶、これでも見られると隠蔽などのスキルでステータスを変えようと通用せず、ありのままのステータスを見ることが出来る。
「違うのです。あの者達よりも遥かに強い、Aランク以上の実力を持つ者達がいるのです」
「どこにじゃ?」
「Dランクで職業が農民の四人にございます」
必死な姫。
「何を言っておる。Dランクの勇者などごみでしかないじゃろうて、セレナよ召喚の儀でかなり疲れて居るようじゃ部屋で少し休むがよい」
国王様、メイドを数人呼び姫を自室へと運ばせるのだった。
セレナ姫は、メイド達に手を引かれながら優輝達のことを叫び続けていた。あの者達こそが真の勇者であると。
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