勇者
どこかの城の中。日本では考えられない光景が俺達の目の前に広がっていた。
銀色の鎧に身を包み、左右の壁に一列に並んでいる騎士達。
その見慣れない光景に戸惑っているクラスメイト達。
そんな中、自分の視界に違和感を覚えていた。
視界の左上にゲームなどよく見るステータスバーらしき物が浮かび上がっている。そこに表示されているのはレベルとHPの二つ。
まさかと思い、そのステータスバーへと意識を集中してみる。
すると、
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
LV999/HP:9999
ランク:SSS
職業:神/戦略師
MP :9999
STR:9999
VIT:9999
AGI:9999
INT:9999
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そこに映し出されたのは自分自身のステータスであった。
しかも、俺の本来のステータスの何万分の一の数字であったがさすがにこれはまずい、直感的にそう感じた。
「フィート、すぐにステータスを確認しろ。二人もだ」
小声で急ぎフィート達にもステータスを確認させる。
「え!」
三人から同じ声が返ってきた。
「すぐに隠蔽を使え」
三人は頷きそれぞれにステータスに対し隠蔽の魔法を発動。
これにより俺達のステータスは、
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
LV1/HP:100
ランク:D
職業:農民
MP :10
STR:20
VIT:15
AGI:10
INT:5
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
この世でもっとも低いであろう数値へと変更した。
ただこれは表面上の数値を変えただけで実際の強さは何も変わってはいないのである。
そんなこんなしていると、
「国王様のおな~り~」
部屋の中央、玉座の左隣にいる男の言葉に合わせて、頭に王冠を乗せてお腹のでた男と、俺達より二、三歳ほど下と思われる少女が玉座の前にやってきた。
少女は下を向き、元気のない様子であったため顔を見ることは出来なかった。
「よくぞわが召喚に答えてくれた勇者殿。わしはこのサーム王国が国王、グラム・ド・サームである」
椅子に座りながら大声を発する国王。
それに合わせて玉座の横の椅子に座る少女。
一体何が起きているのか理解が追い付かず棒立ちになっているクラスメイト達。
そんな中で、一人。
「ここは一体どこなんだ! 俺達をこんなところに連れてきてどうするつもりなんだよ!」
学年でも有名な不良の男子が王様に向かって叫んだ。
それに呼応するように、
「そうよ。私達を元の場所に返して!」
「そうだ! そうだ!」
他のクラスメイト達も叫びだす。
「これ、王の御前であるぞ!」
玉座の隣にいる男の声により一瞬にして静かになった。
「おぬしらの気持ちはよくわかるぞ。だからの、クレア説明をして差し上げなさい」
「っは!」
玉座の横にいたクレアと言う男性は一礼して一歩前に出た。
(あの人クレアって言うだ。なんか女性みたい名前)
などと突っ込みなど入れてしまった。
「私は宰相のクレア・グルドと申します。ではまずあなた方が何故ここへと召喚させれたのかご説明させていただきます。
この世界は今、五つの国同士が戦争を行っております。その戦いはここ最近まで停滞状態でした。そもそも五か国共に戦力が拮抗しているのだから当然と言えましょう。ですがつい先月、ある国が召喚魔法を使い異世界より勇者を召喚してまいりました。それにより停滞状態から勇者召喚を行った国の一人勝ち状態へとなり日に日に領地を奪われていく有様です。さすがにこのままではまずいと思った他の国々は各々で勇者召喚を行っていき戦争は大きな動きを見せ始めたのです。我々も他の国々に後れを取るわけにいかんと考え、あなた方をこちらへと召喚したのであります」
「俺達には一切関係ないじゃね~か」
(ごもっとも)
「皆様の意見はごもっともにございます。ですので我々もただであなた方に協力を頼もうとは思っておりません」
何か報酬があるかもしれないという執事の話に対して先ほどまで何が何でも言うことを聞かないと言う意思を持っていであろうクラスメイト達から今はその意思を感じなくなった。
人間、欲には勝てない、そう感じた瞬間であった。
「皆様が戦いで我が国に勝利をもたらしてくださればそれ相応の報酬を支払わせていただきます。そして、他の四つの国に対して完全勝利を収めた暁には元の世界への帰還と、我が城の宝物庫にある物より好きな物を皆様に差し上げましょう」
宰相の言葉に対して、全員の目は輝くと同時に不安な気持ちも生まれていた。
「だが、俺達にどうやって他の国と戦えと言うんだ」
不良の少年が執事に対して質問を投げかけた。
他の者達もひそひそとそんな感じの話をしている。
「それならご安心くださいませ。皆様はこの世界へ召喚された時点でステータスと言う物が与えられております。視界の左上にありますステータスバーに意識を集中してみてくださいませ。そうすると皆様のステータスとステータスランクを確認することが出来ます」
その言葉に合わせて皆自身のステータスを確認していく。
それと同時に、王様レンズのような物を取り出し目にあてて辺りを見渡している。
それから十分程してステータスの確認は終了した。
「すばらしい! まさかAランクの勇者が四人もいようとえわ」
大声で叫びだす王様。
先ほどのレンズは他人のステータスを確認することの出来る者らしく、クラスメイト全員にステータスを確認したのであろう。
そしてその中に有望と言えるAランクが四人もいた。
「まさか、Aランクが四人とは、これで我が国が負けることはなくなりましたな」
「そうであるな。素晴らしいぞセレスよ」
「ありがとうございますお父様」
この部屋に来て少女が初めて声を発した。
「Aランクの勇者殿こちらへ」
王の前に呼ばれる四人。
この四人はクラスでも有名な不良四人組。先ほど王様に対して大声でいろいろ言っていたのも、不良グループのリーダー格の日向であった。
毎日のように喧嘩をしたりしているからそれなりに高いステータスを手に入れたのであろう。
とりあえずステータスの隠蔽には成功してホッとしている。Aランクでこの騒ぎ、もしSSSランクなんか見られていようものならどんなことになっていたか考えただけでも恐ろしい。
それから、それぞれのランクに合わせた装備と資金が振り分けられた。そしてAランクの四人に対しては王城での戦闘訓練を受けるようにと命令が下ったのと、この城の中に部屋が用意されるらしい。
それ以外のBランク以下の者達については、街に出て冒険者となるようにと命令が下る。
冒険者になり、修行するようにとのことだ。
だが、俺達にDランクの四人については、資金は一か月間何とか生活が出来るだけの資金だけが渡された。それ以外には何もなく王より『がんばれよ』とその一言だけを掛けられただけであった。
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