2020春

 2020年春、疫病下の東京で私は遂に逮捕された。行っていない殺人と拳銃の不法所持の容疑だった。阿藤と藤野が仕組んだのだ。龍の預言でこの先何が起きるかを知っていた私は、大して驚きもせずに両手首に手錠を受け入れた。


 私の有罪は既に決まっていた。執行猶予も付かない。懲役15年、という判決を私は他人事のように聞いた。控訴はしない。

『ミヨジ』

「はい」

 裁判所の廊下で、龍が話しかけてきた。

『ぼうちょうせきに面白いやつがいたぞ』

「組の人ですか?」

『いや、狐だ』

「は?」

 狐? ここに来て新しい登場人物を増やすのは勘弁してほしい。

 阿藤の代になってから、私の体からは次第に色素が抜けていった。髪は銀色、肌も髪のように白くなり、瞳孔は龍と同じ琥珀色になった。これはたぶん、龍のつがいになるための手続きなのだと思う。頬にかかる銀髪を払い、狐、と私は呟いた。

「なんというか……化け物のたぐいですかね」

『いや、いなりのやしろの人間だったな。たぶん、藤のまわりの連中にたのまれて、おれが本当にいるかどうかを確認にきたんだろう』

「【見える】系の人ですか」

『それだ。ふふ、おれの目玉を見て度肝を抜かれていたぞ』

 心底可笑しそうに龍は笑い、私の体に爪の先を擦り付けた。

『もうじきだ、ミヨジ、楽しみだなぁ』

 そう、もうじき、あと少しで私の寿命は尽きる。恐らく檻の中で病死することになる。

「ちゃんと拾ってくださいよ、魂」

『まかせろ。まずはおれのふるさとに連れていってやる。暑いからな、かくごしておけ』

 暑いのか……暑いのは苦手だな……と思いながら、私はふと、20年間一度も尋ねなかった質問を口に出した。

「そういえば」

『うん?』

「あなたの名前はなんていうんですか? 龍っていうのは、種族の名称ですよね」

 龍の瞳がきらりと輝いた。それはそれは嬉しそうに。

『いつきいてくれるかと思っていた! おそいぞ、ミヨジ!!』

「いやぁ、なんか、そこ知ったらほんとに離れられなくなりそうじゃないですか」

『おしえてやる。寿命がつきたらすぐに呼べ。いいか、おれは……』

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