聖夜の思い出

石嶋ユウ

聖夜の思い出

 家の物置を整理していると、埃を被ったおもちゃの人形が棚の上に置かれていた。私はそれを一目見て何かを思い出した。

「あった。懐かしいな」

 私はそれの手にとって、あの日のことを頭に浮かべる。もう十五年も前のことだけど、私は一度だけサンタクロースに会ったことがある。それは雪が降り頻る聖夜のことだった。


 当時五歳だった私は自分の部屋で寝ていると、何か物音が聞こえると思って目を開いた。そこには、赤い服装に帽子、大きな白髭に太ったお腹。中が目一杯入った大きな白い袋を片手に担いだ、男の人が床に何かを置いている最中だった。彼はどう見てもサンタクロースで、五歳の私はとても驚いた。すると、サンタクロースは私が起きたことに気がついたようで、私と目が合ってしまった。彼は少し驚いたような顔をして、それから私のそばまで歩み寄り、すぐそこに置いてあった小さな椅子に座り込んだ。不思議なことに椅子が壊れることはなかった。先に口を開いたのはサンタクロースの方だった。

「おや、起きてしまったか」

 私は思っていたことを率直に尋ねた。

「あなた、サンタさん?」

「そうだとも、わしがサンタクロースじゃ」

「ひょっとして、桜のプレゼントを持ってきてくれたの?」

「そうじゃとも!」

 彼はそう言って、席を立って先程置いておいた包みを手に取り、こちらに戻ってきた。彼はまた椅子に座って私に包みを手渡してくれた。

「はい、どうぞ」

「わあ!」

 私は彼から貰った包みを見つめて大喜びした。

「ありがとう! サンタさん」

「嬉しそうで何よりじゃ」

 彼の顔はとても幸せそうだった。それを見た私はさらに嬉しくなった。


 サンタさんはそれから立ち上がって窓の方へと向かい出した。ゆっくりとした歩幅で窓の手前に立つと、彼は部屋の窓を開けた。冬の冷たい空気が部屋に入り込んでくる。私は彼がここを去ることを悟って、とても悲しくなった。

「サンタさん、行っちゃうの?」

「そうじゃよ。大勢の子供たちが待っておるからの」

 そう聞いた私は目一杯の笑顔をつくって、お別れの言葉を言った。

「じゃあ、気をつけてね」

「ありがとう。メリークリスマス!」

 サンタさんは窓の外で待たせていたトナカイたちのソリに乗った。私は一つ聞きたいことを思い出して、最後にこう尋ねた。

「ねえ! また会えるよね!」

 それを聞いた彼は少し考えてからこう答えた。

「信じていれば、また会えるとも!」

 サンタはソリを走らせ始めた。トナカイたちが走り出す。私は遠く離れていくサンタさんを見届けて、精一杯の大声を出して感謝の言葉を伝えた。

「今日はありがとう! メリークリスマス!」

 この言葉は彼に届いたようで、彼は手を掲げてくれた。私の気持ちはとても暖かくなった。


 それから月日は流れて、結局彼にもう一度会うことは無かった。私は物置から見つけたサンタさんからのプレゼントだった人形を自分の部屋に運んで、机の上に置いて眺めた。

「また会えるよね」

 私は、いつの日かまた彼に会えることを信じている。

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聖夜の思い出 石嶋ユウ @Yu_Ishizima

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