第8話
ティロルは、いくらか雰囲気が緩くなったことを肌で感じ取った。
ロラゲに友人がいたのだと知れたことが大きな要因だろうか。
機動科で一番弱く、またコードも持たぬ非推薦入学組の彼だ。他の生徒から蔑まれているのかと思っていたが、案外そうでもないらしい。
──官能系物語なんて本当に読む人いるのね。
図書室には、そういったジャンルは置いていない。
しかし、知識として存在は知っている。より正確に言えば、〝官能〟という言葉を知っているし、〝官能物語〟という言葉の響きで、それがどういったジャンルなのか推し量ることもできる。
わかっていてこそ、官能ジャンルに手が伸びないのは単純に興味が湧かないからだ。
物語自体を否定するつもりはないが、しかし、虚構にそういった欲望の達成を求めるのは、
「空しくならないのかしら」
「今、すごくバカにされた気がした」
「気のせいよ」
これまでの言動でバカにされたと感じていないとしたら、彼と自分との間にいくらかの信頼関係が築けているのだろう。
「話を戻すわね」
「ティロルは話を戻すんだ」
「あなた、私に遠慮がなくなってきたわね」
「君は最初からだろ」
その通りだ。
だから、遠慮なく、言いたいことを言う。
「この世界が。そう、それこそ官能物語のように好いた嫌ったなんて意思も誰かに決められている世界だとしたら」
「否定しようがないんだよね」
「そう。だから、あなたが大事にしてやまないロラゲ家も嘘。今、目の前であなたと
話をしている私も嘘。全部が嘘。
全てが虚構かもしれない世界で、一つに固執する意味があるのかしら。
いっそのこと、投げ出して、自分の楽な方に方針転換してもいいと思うのだけど」
大事な人を失って、もう一人の大事な人も命を投げ出して、理由を問うても回答は得られない。定められた運命だと完結するには容易く。だからこそ、楽な運命を選択する。
強さを求めるなら、楽に強くなれる方法を選べば良いのだ。
無理をして、雨の中でも鍛錬を行って、挙句の果てには身体を壊しては本末転倒。
「楽をしたからといって、強くなれぬわけじゃないでしょう。
いえ、楽という言い方は正しくないのかもしれない。効率的といってもいいかもしれない。
確実に強くなれる方法を、あなたは選ぶべきなのよ。こんな、ベッドに運ばれるまで無理をしなくても」
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