グリーンウッド辺境伯爵の隠れた知名度

アークはようやく目的地へとたどり着いた。


コンッ、コンッ、


「入れ!」

「失礼致します!」



アークが着いたのは国王のいる執務室であった。


「珍しいな。お前がここに来るとは。どうしたと言うのだ?」

「急な訪問、申し訳ございません。今度、発表される王太子の件について報告したい事があります」


国王は少し驚いた顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。


「お前もか」

「お前もとは………フォーマルも来たのですか?」

「そうだ。自分は3大公爵家の1つが後ろ楯になったので、自分を王太子にしろと言ってきた」


アークは顔を歪ませた。


「その公爵家とはグレイス公爵家ですか?」

「やはりわかるか?」


グレイス公爵家は1番新しい公爵家であり、新参者のため、権力欲に餓えている事で有名である。他の2公爵家は昔から王国に使えている伝統ある公爵家だ。


「後は、有力な貴族達とも協力を取り付けたと言っておったが、名前に上がった貴族は黒い噂の絶えないものが多くてな。このままアイツが王太子になれば、甘言ばかり言う家臣の傀儡にされかねん」


「そうですね………」


アークはその未来を思い浮かべため息を付いた。


「お前の実直な所を私は認めている。昔はヤンチャだったが、グリーンウッド辺境伯の所で成長したな。惜しむべきは、フォーマルの様な外交力を身に着けて欲しかったが。如何に民の支持があっても国を動かすのは貴族だ。貴族の支持を集められなければ、厳しい戦いになるぞ?」


国王としても、半数近くの支持を取り付けたフォーマルの貴族を無視する事は出来ないのである。


「ああ、その事についてなのですが、もう私が王太子に確定したようなものなので、その引き継ぎに付いての相談をしに来ました」


「なに?」


アークは手紙を国王である父親に渡した。


!?


「まさか、グリーンウッド辺境伯が動くのか!?」


国王は知っている。グリーンウッド辺境伯が謀叛を起こせば王国は滅びる事を!


国王は知っている。グリーンウッド辺境伯の元に集まっている人材を!


国王は知っている。グリーンウッド辺境伯の元にある財力を!


国王は知っている。グリーンウッド辺境伯は英雄である事を!


手紙を見て国王は驚愕した。


「して、アークよ?ここに支援として100人分の武具を持っていくとあるが?」

「………なんでも、リザードマンやグランドヘラクレスなどの素材で作った武具だそうです」


アークは遠い目をした。

一般の兵士に支給される鉄鎧は金貨1枚ほど。その上の騎士団に支給される装飾の付いた鋼の鎧は金貨5枚ほど。


しかし、シオン達が持ってくる魔物の素材で作った鎧は、鋼の鎧より強固で、軽く、熱や冷気に強い耐久性があるため、末端価格で金貨50枚はくだらない。オークションなら金貨100枚前後にはなるだろう。


「それはちょっと貰い過ぎではないかな?」

「私に言われても…………因みに、私には赤龍の鱗から作った赤い鎧を持ってきてくれるそうです」


………………マジで?


「よし、アーク!ここは腹を割って話そうじゃないか?」


龍の素材で出来た鎧を着るのは王族として夢でありステータスになるのだ。


「なんとかもう1つぐらい優遇して貰えんかな?」

「その見返りは?」


「全力でお前を支持しよう。そもそも、貴族のコネを作らなかったお前が悪かったのだぞ?昔は素行が悪く、他の者と付き合いが無かったからな」


「それは、反省しています。しかし、何年もグリーンウッド領へ行っていて派閥を作る時間が無かったのも事実ですが?まぁ、私としては感謝していますが」


「うおぉぉぉぉ!!!!そうであったな!」


アークの派閥が少ないのは自分のせいだと分かり国王は頭を抱えた。


「まぁ、グリーンウッド殿がお前を支持する事でそれは解決するだろう?」

「ええ、本当に助かります」


伝統あるユグドラ王国の貴族なら知っているのだ。グリーンウッド辺境伯の事を。故に、グリーンウッド辺境伯が支持を表明すれば、他の2大公爵は追従するだろう。


知らないのは、新興の貴族や西側に位置していない一部の貴族ぐらいだろう。


だからこそ、グリーンウッド辺境伯の声1つで、政局は変わるのである。


故に、グリーンウッド辺境伯が支持したとなればすでに王太子に決まったも同然であるのだ。



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