第208話 いざ、子爵領へ!
王室の命令が出たからと言って、いきなり軍隊を率いて子爵領に踏み込むわけにはいかない。おおっぴらに大勢で行軍していったら相手に警戒されて、その間に証拠を隠滅されてしまう可能性が大きいから。それはディートハルト様のお生命を危険にさらすことでもあるのだから、決してそんなことはできないよね。
だから少数精鋭でまずディートハルト様を確保し、その後でため込んだ魔道具とか製作工場とかそういった証拠を押さえるしか、やりようがない。そうなると、軍隊の出番ではなく、私の家族たちの得意分野になるわけだ。
ヴィクトルは今回も人型で参加だ、きっと魔剣グルヴェイグの出番が、あるはずだからね。クララとビアンカ、そしてカミルもまずは獣化せずに行きたいわ。カミルが火竜の力を使うような羽目にならないといいのだけど。もちろんルルも私の肩に止まって一緒にいる。彼女は私の護衛を自認しているらしく、積極的に戦闘参加する気はないみたいだけど。
そして今回の強い味方は、ヴィオラさんとローゼンハイム伯爵様。ヴィオラさんは人型になって、久しぶりだという盾を嬉しそうに振り回しているし、伯爵様の剣はグルヴェイグの力を差っ引いたらヴィクトルより明らかに強い。
「ヴィオラさんまで加わってくれたし、接近戦では無敵のパーティになってしまったんじゃないかな」
「うん、そう思うわ。逆に遠隔攻撃できるのは私の神聖魔法とビアンカの弓だけ……敵に肉薄して戦端を開かないとダメね」
ちょっと嬉しそうなヴィクトルのコメントに、内心少し動揺したのを悟られまいと真面目に答える私。うん、どうしてもヴィクトルの関心がヴィオラさんに向くと、やっぱり心が揺れてしまうのだ。だけど決して焼餅じゃないよ、と自分に言い訳してみる。
「行ってらっしゃいませ。領境にはエグモントと千の兵を待機させておきますので。はぁ……またこれで業務が滞りますね。たっぷりの書類とともに、ご無事での帰還をお待ちしております」
無事を祈ってくれてるのか愚痴を垂れてるんだかわからないアルノルトさんに見送られ、私たちは急ぎ子爵領へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
何かと目立つ一行だ。街道を行くわけにはいかないので例によって森の中を進むのだ。アルテラ行きのときと違って、起伏の少ない地形なのが幸いね。ディートハルト様を見つける前に私が疲れて動けなくなるんじゃ、カッコつかないもの。
道すがら、伯爵様が王太子令が出るまでの経緯を説明してくださった。実はあの火球の魔道具、こないだの大騒ぎで失脚した第二王子派貴族の屋敷から複数発見されていて、その出所が問題になっていたのだそうだ。あんなヤバいものを王宮にいくつも持ち込まれたら、簡単にクーデターができてしまうわけで、実はかなり切迫した状況だったというわけなの。そこにこの情報が入ったことで、国王陛下もことの重大さを認識して、国軍の重鎮たるローゼンハイム伯を派遣されたというわけなのだ。
だけど、ハルシュタット子爵は忠誠度はともかく一応王太子派だとみなされていたようなので、少ない証拠で罪を問うと貴族たちのいらない動揺を招く。なので「動かぬ証拠」を掴むことを求められているわけね。そして万一空振りだった時にも王室の信頼が傷付くのを最小限にするように、「勅令」じゃなく「王太子令」でご指示が下る仕儀になったそうなのだ。う~ん、大変だ。どうして私が手を突っ込むと、なんでもおおごとになっちゃうんだろうね。
「まあそうやって、どこへ行っても騒ぎを起こしちゃうのが、ロッテ姉さんということだよね」
私の思考を読んだかのように突っ込みを入れてくるカミル。失礼な子ねっ!
◇◇◇◇◇◇◇◇
半日森の中を進んで、小高い丘に差し掛かったところに、アルマさんとアベルさんが待っていた。彼ら二人はこの二週間、ずっと子爵領内で潜入調査を続けていたのだ。彼らがどこまで魔道具工房やディートハルト様の居場所に迫っているかが成否を分けるわ、早く結果を聞きたいよね。
「魔道具の杖自体は、ごく普通の木工所で造られておりました。しかしながら、そこから出荷される時点では魔力も何もないただの棒ですので、悪事の証拠にはならないかと」
そうね、子爵を追い込むには、魔力を込めた後のブツが必要だよね。王太子様からは「ディートハルトの身柄、もしくは魔道具の現物を押さえよ。できれば両方を」とか贅沢な要求をされちゃっていることだし。
「杖が運ばれていく先を追ったのですが……深い森に踏み込む細い一本道に入ってしまいまして。森の中には探知の魔道具が多数仕掛けられているようで、魔力のない我々のような者では、それ以上追跡することを諦めざるを得ませんでした」
「ふうん。その小道の先が怪しいというわけね。いいわ、森の中に敵の拠点があるなら、むしろ私たちにとっては好都合、行きましょう!」
「うんっ」「承知した」「はいっ!」「どこまでもお供しますわ」
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