第92話 おうち最高!
突貫工事で建設されていた私達の家が、完成した。
母屋と離れ二軒の豪華構成、内装もクララ監修のばっちり贅沢仕様だ。
二階建ての母屋は、とっても大きなログハウス。広~いリビングダイニング、そして寝室が四つもあるの。素敵な屋根裏部屋もあるのよ。クララが特にこだわったらしいキッチンには火の魔道具を仕込んだコンロだけじゃなくて、炭水化物大好きな私のために石造りのパン焼き窯、お肉大好きのみんなのために燻製窯まで備えている。これは素敵だわ。
みんなが集まるリビングの暖房は魔道具じゃなくて、あえて薪を焚く暖炉。うんそうよね、ログハウスならこうじゃないと……雰囲気あるわあ。
大きな方の離れは、来客用の寝室が三つということなんだけど……ビアンカやカミルが大きくなって、一人の寝室が欲しくなった時のことをクララは考えたのでしょうね。
小さな方の離れは、なんと浴室棟。木の香りがぷんぷんする浴室には、大木を二つ割にして、中をくり抜いた野趣あふれる浴槽……その底部にはシュトローブルで買ってきた、かなりお高い加熱用の魔道具が仕込まれている。水を張って魔道具に魔石をセットすれば、ちょうどいいお湯が出来るというわけ。お風呂なんて、リモージュの実家で入って以来だわ……嬉しくて涙出そう。
「ロッテお嬢様には、絶対にお風呂を用意せねばと思っていましたもの」
クララが自慢気に鼻をうごめかす。ありがとう、確かにこれは気分がアガるわ。
おうちの仕様については全部クララにお任せしちゃってた私だけど、一つだけ私が考えたことがあるの、それは田舎には珍しい、下水道。
実はこの村に来てから、鉄モグラのファミリーと友達になっていたんだ。鉄モグラは地を掘って暮らす魔獣……畑をパトロールしている時に、たまたま念話の波長が合っちゃったというか、お互いの存在に気付いたのよね。久しぶりにお話の出来る魔獣に会ったから嬉しくて、余っていた魔石をあげたりお肉を分けてあげたりしてたらやたらと懐いてくれて、私たちの家造りを手伝ってくれようということになったのよね。
とりあえず井戸を掘ってもらったけど、まだ働き足りなそうだから、前々から構想していた工事をお願いした。村はずれの小川から我が家の真下を経由させて、川の下流まで細いトンネルを掘り抜いてもらったの。トンネルには常に水がじゃんじゃん流れているから、その上にトイレを造れば、それはそれは快適なわけね。キッチンの排水もお風呂の排水もつないで、まさに我が家専用の下水道完備、これで衛生面はばっちりってこと。王都でもなかなか出来ない贅沢だと思ってるんだけどな。
そんなこんなで鉄モグラさん達とは、ますます仲良くなった。陰の功労者へのお礼として、燻製窯で初めてつくった猪のベーコンをプレゼント。一瞬でなくなってしまったから、気に入ってもらえたんだろうな。
そしていよいよ、リビングで家族揃って初めてのお食事だ……うん、結構いい雰囲気。パチパチと音を立ててゆっくりと燃える暖炉の火を眺めながら、丸太を割って磨いただけの素朴だけど重厚な手造りテーブルについて、クララが目一杯手を掛けてくれた美味しいお料理をいただく。村長さんから竣工祝いと言っていただいたワインが、これまたイケるのよ。あ~幸せ、実家の伯爵家にいた頃より、心豊かなお食事って気がするわ。
そしてお酒でちょっとふわっとした気分のまま、待望のお風呂。一人でゆっくりくつろぐつもりで浴室に入ると、そこにはクララがなぜだか眼を輝かせて待ち構えていて……身体の隅々までつるつるに洗われてしまったわ。お風呂の存在が、彼女の侍女魂に火をつけてしまったのかしら。
最後は……やっぱり真新しいベッドで眠るの。ベッド自体は村人さん達の手造りだけれど、マットレスや毛布は、シュトローブルの街までクララが出張して、さんざん吟味して買った結構お高いやつだ。
「毎日の疲れを取るためです、こういうものに出費を惜しんではいけませんわ」
自分のためには侍女服以外のものを買わない、いつもおカネにしっかりしたクララが、そう主張するの。なのでそれに甘えて、ありがたく快適な寝心地を味わう。う~ん、硬すぎず柔らかすぎず、絶妙な感覚。そして背中に暖かなビアンカ、お腹に少しひやっとしたカミルの体温を感じているうちに、深い深い眠りに引き込まれて……。
ありがとう村の人たち、ありがとクララ。このおうち、最高だよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日から、私たちは益々まじめに働いた。だって、おうちにおカネを使い過ぎて、盗賊からたっぷりかっぱらったはずのマルク金貨が、寂しくなってきたんだもの。
まずはまわりの森で、妖魔を狩りまくる。そして妖魔が湧く例の沼と洞穴には定期的に通って……やっぱり狩る。できるだけルルの石化で片付けたいけど、相手の数が多くなればある程度は倒さねばならない。村のためにしこしこ石像を集めつつ、仕方なく倒しちゃった妖魔からは魔石を回収して、そっちはシュトローブルのギルドで換金するの。
クララを街に連れていくと、私の暮らしを豪華にするためにやたらとおカネを使いたがるってことがわかったので、街にはヴィクトルと私の二人で行くことが多くなった。魔石や妖魔素材を売って懐が少し暖かくなったところで路面のカフェに寄ってお茶したりなんかして……これも楽しい。
「ねえヴィクトル、何か私達、デートしてるみたいよね?」
「え、あ、急に何を……」
ヴィクトルが紅くなって、横を向いて何か「くそっ、破壊力が……」とかつぶやいてるの。ふふっ、変な人。だけど、ちょっと可愛いかな。
ルルは、テーブルの上をちょこちょこ動きまわって、お茶請けにオーダーしたチーズ味のタルトを、図々しくもつっついている。だけど私のお皿じゃなくヴィクトルのお皿からだけ盗み食いするあたり、小さいくせに世渡りが上手な子といえるよね。あんまり美味しそうに食べる姿が可愛くて、結局私の分もあげてしまった……エサやりって楽しいんだよ。あんまり太って飛べなくなったりするのがちょっと心配だけどね。
街でないと揃わない凝った食材やらお酒やらを仕入れ、ぱんぱんに膨らんだザックを背負って、私達は帰途につく。ヴィクトルがサーベルタイガー姿になってくれれば荷物も私もいっぺんに軽々背負ってくれるはずなんだけれど、普通の人間が通る道で魔獣姿はマズいから、辛抱して徒歩だ。私のザックには、ヴィクトルの持っている荷物の十分の一も入っていないから、聖女勤めで歩き慣れている私には、それほどきつくはないのだけど。
のんびり歩きながら、いろんな話をする。私はロワールの王都での生活や聖女のお仕事のこと、ヴィクトルはサーベルタイガーの生活習慣や、森でのいろんな探索談なんかで、まあぶっちゃけどうでもいい話なんだけど……ヴィクトルと二人だけでゆっくり話したことなんかなかったから、なんか新鮮。あ、二人切りって言っても、もちろんルルが私の肩にいるんだけどね。
(せっかくのよき機会、少しは進展するのかと思って居ったのじゃが……)
そうだ、意味不明な念話を送ってくる魔剣グルヴェイグも、忘れちゃいけないわよね。
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