第59話 私だけのんびり?

 翌日からの私達は、分かれての行動だ。


 探鉱地を完全に撤収するにはかなり手間がかかるのだけど、私達も姉様達もそれを待ってはいられない。ここは伯爵様の部下である騎士様達に残っていただいて、指揮をとってもらうことになる。


 伯爵様と姉様は、子爵と捕虜にした傭兵を連行して、王都へ急ぐ。子爵の罪状を王家や教会に訴えて、この子爵領を実質的自治区にしてもらえるよう、二派に分かれた王都の貴族たちをうまく言いくるめないといけない、大事なお務めだ。まあ、聡明かつ政治力に優れた姉様と伯爵様なら、うまくやれそうよね。


 姉様とは、また別れの挨拶を交わした。ちょっと泣いちゃったけれど、二人ともこの前みたいな悲愴感はないの。だってあんなに簡単に再会できちゃったのだもの、きっとまた会えるわ、うん。


 私達は……私とクララ、ビアンカとカミル、そしてヴィクトル……イリアの村に戻るの。村長さんが他の村と「根回し」してくれているはずだから、状況を確認しないといけないしね。最終的には、その後サーベルタイガーの本拠地へ帰って……いよいよバイエルンへ向かうという流れね。


 そして、今回の旅には新しい連れがいるわ。リディさんと、リザードマンの「お父ちゃん」……ずっとお父ちゃん呼ばわりしていたけど、アンセルムさんという立派な名前が、もちろんあったの。ごめんなさい、お父ちゃん。地竜の血を引き、土石に造詣深いリザードマンの知識を活かして、イリアの村で人間と一緒に暮らして欲しいという私の気持ちに、応えてくれたのよね。


 リディさんとお父ちゃんの引っ越し準備が整うまで三日ほど、私達も探鉱地にとどまった。クララは炊事、ビアンカは荷造りなんかのお手伝い。カミルは騎士様達と護衛の役目をしたり……というより、お父ちゃんの話し相手の時間が長いかな。お父ちゃんは同じ竜の血を引いててしかも上位種であるカミルをやたらと有難がって、離してくれないらしいのよね。


 そして、私はといえば……一番、暇なのよね。お手伝いしようにも、調理も片付けも、クララの方が数倍上手で、手を出すとかえって邪魔になるの。せめて聖女のお仕事でもと思って、ちょっとした怪我をした作業員さんを癒してあげて、とってもありがたがられたけれど……負傷者なんて一日に何人も出るわけではないから、すぐに仕事がなくなっちゃう。私って、普段はほんとに役に立たない娘だと、つくづく思うわ。


 はぁ~っとため息をついて森の方を見ると、やっぱり暇だから狩りをしてきたらしいヴィクトルと眼が合う。大きな鹿を獲ってきたみたいだから、今晩の夕食はちょっと豪華になるだろうな。獲物を置いて所在なげな風情だし……うん、彼とお話ししよう。


「ねえヴィクトル、その魔剣……グルヴェイグって言ったっけ、ずいぶん気に入ってるみたいね。寝る時だって離さないじゃないの」


(うん。ロッテには聞こえないかもしれないけれど、この剣は俺に話しかけて来るんだよ。離れたくないってね。だから一緒にいるんだよ)


「え? 剣が話すの?」


(そうなんだよね。ロッテと話すときと同じように頭の中に直接言葉が入ってくるんだけど……やっぱり俺にしか聞こえないのか)


「波長が合う人じゃないとダメなのかな?」


(そうなのかもね。今度、ロッテとも話してくれるように頼んでみる)


「ふふっ、楽しみだわ」


 そして何となく森の中に入って、苔が一面の絨毯みたいになっている素敵な場所を見つけて一緒に横になる。いつかみたいに毛足の長いヴィクトルのおなかに包まれて、もふもふを満喫だ。


「うわぁ~、もふもふ気持ちいいっ!」


(俺はちょっと落ち着かないけど……ロッテが喜んでるなら、まあいいか)


「むふっ。ねえ、何かお話、して?」


(お話って言ったってさ……)


「あ、そうだ! 前に族長さんがおっしゃってた、ヴィクトルが好きになった人間の女の子の話、聞かせて?」


(え、あ、いや、それは……)


「ね、ね、どんな娘なの?」


(ああ……うん。普通の人間とはかなりズレた考えを持った娘で、泣き虫で流されやすい性格で、見ていると心配で放っておけないんだ。だけど広い心を持っていて、優しくて、そしてとっても強いんだ)


「ふ~ん? ヴィクトルが好きになるんだからいい娘なんでしょうけど、あなたの紹介を聞く限り、かなり変な娘よね?」


(はぁぁ……)


 なぜだかヴィクトルが深くため息をつくの。何でかしら?


◇◇◇◇◇◇◇◇


 一緒になごんでいるうちに、結局お昼寝タイムになってしまった。


 やらなきゃいけない仕事はなかったから特に支障はなかったんだけど、みんなが働いている時間だったので少々後ろめたいわ。黙っていれば、バレないわよね……と思っていたら、クララには一発でバレてしまったの。


「なんで昼寝してたって、わかったの?」


「ヴィクトルさんの身体から、ロッテ様の魔力がこれでもかってくらい、出てますもの。彼をお布団にして、お寝みになったに違いないと」


 ああ、そうだった。添い寝したら、魔力をあげちゃう私なのだった。


「あ、はい……ごめんなさい」


「お昼寝は、悪いことではありませんよ。ここ数日、ロッテ様は力を目一杯使われたのですから、お疲れになるのは当然です。でも……ヴィクトルさんだけに魔力を差し上げるのは、いかがなものかと思いますわ」


「あの……そしたら、どうすれば許してくれるの?」


 ああ……なんか、悪い予感がするわ。


「おわかりのはず、ですよね?」


 クララが、色っぽく唇をなめる。うん……やっぱり、それだよね。


 ちょっと後ろめたい感があるから、お詫びとして今日は、私からしてあげよう。半開きにしたクララの唇に自分のそれを遠慮がちに重ねてみる。でも私に主導権があったのはそこまで、あとはクララのペースで「美味しい魔力」を思いっきり吸い取られてしまった私なのだった。


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