第33話 新しい家族たちと……
「ずいぶん、お楽しみになったようですわね?」
自分がこの事態を仕掛けたくせに、クララの言葉に何となくチクチク小さいとげが感じられるのは、気のせいかしら。ビアンカのもふもふをたっぷり楽しんだのは本当だけど……だって、サーベルタイガーの毛皮って、魔狼のクララより毛足が長くて柔らかくて……すっごく触感が気持よかったんだもの。でもそれを言うとまたクララがやきもちを焼きそうだから、やめておくわ。
人間の姿に戻ったビアンカは、もちぷにの肌が、さらにつやっつやになっている。言うまでもなく、もふもふしてる間に、たっぷり私の魔力を吸い取ったからだ。
「まあ、許して差し上げます。でもこれでロッテ様にも、この子たちが立派な戦力になるということが、おわかりになりましたでしょう?」
相変わらず今日はお姉さん目線のクララ。でもここは降参するしか、ないわよね。
「うん、頼りにするわよ、ビアンカ、カミル……」
「はいっ! 頑張ります!」「任せてください、お姉さん!」
また、二人の返事が、食い気味に重なった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
私達が皆殺しにしちゃった賊の死体は、今回元気なクララが、私が寝ている間にみんな片づけてくれていた。気味の悪い仕事ばっかりやらせてごめんね、クララ。
クララはそればかりか、私が焼き払ってしまった小屋を漁って、今後の旅に役立ちそうなものを集めてくれていた。主に武器と、おカネだけど。
「さすが大きな盗賊団だけあって、いっぱい貯め込んでいましたね。でも、そんなに一杯持って行っても重たいだけですから、バイエルンのマルク金貨だけ持って行って、ロワールのエキユ金貨は置いていきましょう」
もったいない気もするけど、クララの言うとおりだな。武器もいっぱいあったけど、私は姉様から譲り受けた聖女の杖で十分だ。二振りだけ魔法付与の刀剣があったので、片刃のファルシオンをクララ、両刃のロングソードをカミルが持っていくことになる。
「ねえ、でもそれ、カミルには重くない?」
だってその長~い剣、どう見ても背負うのが精一杯で、身長に見合ってないと思うんだけど。クララが身体に見合わない腕力を持ってるのは知ってるけど、カミルって、どう見ても子供の体格だし。
だけどその直後、びゅんと派手に空気が鳴った。カミルがロングソードをものすごい速度で振った音だ。しかも、振り切るのではなくびしっと切っ先を止めているから、完全にコントロールできているみたい。
「うん、軽いや。やっぱり、覚醒すると全然違うなあ……」
嬉しそうに刀身をポンポン叩くカミル。う~ん、なんかすごい子たちと旅することになってしまったなあ。
一方のビアンカは短剣だ。カミルの怪力ぶりに仰天した後だけに、彼女が普通の選択をしたのにほっとする。
「まあ、ビアンカは可愛いから、大業物を振り回したりしないほうがいいでしょうね。でも、人間の姿でもある程度戦えるようになっていないと困るので、弓を持って行ってもらいましょう」
「えっ? 私、弓なんて持ったこと……」
「毎日特訓しましょうね」
反論を許さず、ぴしりとクララが締める。あら、私には優しくて甘々だけど、意外とスパルタ教育なんだね。だけど、見つめる眼が優しすぎて……どう見てもビアンカ愛が隠せてないよ、ねえクララ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、私達の……三人の獣人と、もと聖女の珍道中が始まった。
昼はひたすら歩く。バイエルンの国境はまだ遠いから、教会の追っ手がかからないうちに、出来るだけ早く北東に向かいたいよね。もはや人里もなくて道も荒れまくっているから、それほど早くは進めないけれど。
もともとクララは私の三倍近く荷物を背負っていたけど、カミルも同じくらい、ビアンカはそれより少ないけど私の二倍くらいを背負って、平気で前を歩いていくのよね。さすが獣人、体力すごいわ。悪いな~とは思うけど、私はこれ以上荷物を持ったら、足が止まってしまう。みんなごめん、体力のない私を許してね。
クララが鹿や猪の気配を感じると、食料確保のための狩りが始まる。クララとビアンカが獣化して、狼と虎で獲物をじわじわ挟むように追い詰めていけば、逃げられる獣はいない。お陰で食事は焼き肉と肉スープ……まさに肉祭り。私は炭水化物が食べたいのだけれど。
夜は、盗賊の拠点から奪ってきた大型のテントを張って、四人で寄り添って眠る。横向きになって眠る私の背中にはビアンカがくっつき、おなかの方にはカミルをふわっと包んであげる。彼女らにとっての「美味しい魔力」を補給してベストコンディションを保ってもらうには、こうやって一晩くっついて寝るのがいいのだろうという結論なのだ。
「ちょっと妬けてしまいますが、仕方ありませんね。私はお姉さんですからね、ロッテ様の両側は譲ってあげます。その代わり……」
そう言いながら、唇を重ねて来るのはクララ。経験上、添い寝よりこうやって唇からの方が一気に魔力チャージできることはわかっている。だけどちょっと子供たち相手に……特にカミルに……それをするのは私の倫理観というかなんというかが邪魔をする。で、やむを得ずクララ限定で、お口からのチャージを許してあげることにしたんだ。
「ぷはっ、何度頂いても、ロッテ様の魔力は美味しいですわ……」
ぺろっと唇をなめるクララ。子供たちのせいにしているけど、クララが一番楽しんでいるのではないだろうか。見ているカミルとビアンカは顔を真っ赤にしている。子供たちの正しい情操教育のために、こんどからこういうことは、こっそり見えないところでしてもらわないといけないわね。
四人寄り添い横になって、たわいない話をするのは楽しい。そうやっているうちに、やがて眠気に包まれて……昼間の歩き疲れもあって、すっごく気持ちよく眠れるの。
まるで私達……本当の家族みたい。
ね、家族で仲良く暮らせる国を……絶対見つけようね。
◆◆◆ これにて第一部は終了です。次回は設定確認回で、続けて第二部を投稿させていただく予定です。当面隔日投稿のペースを守りたいのですが・・ ◆◆◆
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