サンタクロース

Autumn

気配

 それはクリスマスの前の晩


 家中で生き物は、ネズミさえも動かなくなったころ

  

 靴下は煙突のそばに下げられていて

 

 サンタクロースが来るのを待っていた

 

 子供たちはベッドに寝静まって

 

 頭の中で砂糖入り菓子が踊っていて

 

 ママは布をかぶっていて

 

 私は帽子をかぶり

 

 長い夜の眠りについた時に




 俺は走る。いつになく全力疾走で走る。

 誰かに追われていると気づいたのは忘れもしない、12月6日。俺が某人気芸能人S*を殺した日だ。

 あの日の俺は今までにない大金を手に入れて浮かれていたのかもしれない。いつの間にか誰かの視線を感じるようになった。しかも、その日から今日までずっと。

 物心ついた時から糞親どもに裏の世界での生き方を教わったせいか、人の気配――特に自分に向けるものには人一番敏感になっていた。それが幸か不幸か、毎日、いつ何時でも「何かの視線」を感じるようになった。

 でも、と俺は思いなおす。俺はプロだ。ミスをした筈がない。どんなに気分が良かろうが悪かろうが、自分の仕事に支障をきたすことはあり得ない。だからこそ、18の時に初めて人を殺してから今日に至るまで、警察の目を掻い潜りながら「仕事」をこなすことが出来た。

 だからこそ、俺には自分を追っている者の存在が何か分からなかった。警察であれ、こんなに俺を泳がすこと無く、早急に何かしらを仕掛けてくる筈だ。それに第一、俺の存在まであの名だけのボンクラどもが辿り着ける筈ない。

 とすると、他の可能性は何だろうか。探偵?俺に個人的な恨みを抱いている誰か?それとも、全部俺の幻想・・・・・・?

 ・・・いや、そんなことはない。現に、俺は今確実に誰かに追われている。しかし、向こうも相当のやり手だ、一向に距離は開かない。むしろ縮まっている? 姿は見えないが、気配や視線の濃度がどんどんと上がっているように思う。

 ここで捕まったら全て終わりだ。これまで人を殺した数は両手じゃ到底数えきれない。間違いなく俺は首をはねられるだろう。それだけはごめんだ。たくさんの罪なき人を殺し、警察に一切の証拠を残さず、そこにあるのは俺の噂のみ。裏世界の帝王として名をはせ、忌み嫌われ、畏怖される。この快感の味を忘れる事なんて出来やしない。だから俺は、


 どすっ。  鈍い音。 俺の体から出た音。

 意識が飛ぶ。目眩が・・・・・・。

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