恋をしたけど実らなくて、恋と知ったけど遅かったみたいです

藍生蕗

前編

序章

 治療院に勤め始めたのは十歳の頃だった。


 神殿では子どもの健やかな成長を願う祈祷があり、親は必ず訪れるものだ。その際に魔力検査なるものも合わせて行う者が多い。

 ロシェルダの親はどうでもいい事には面倒臭がりであった。

 両親共に魔力など無く、自分たちが子どものころ受けたそれも、検査するだけ無駄だったとぼやくような結果だったから、特に娘にそれを求める事も無かった。


 けれど、何度目かの祈祷のその日は、魔力検査の待ち時間が例に無い程少なかった。

 この後特に用も無かった事もあり、待たないならばと、両親はロシェルダの手を引き検査に臨んだ。


 結果ロシェルダには人を癒す魔力があると分かった。

 それは所謂いわゆる医療という、高等な働き口に繋がる能力で、平民として市井で暮らす一家には目眩のするほど幸運なギフトであった。


 神殿もまたその結果に歓喜し、娘を直ぐにどこかの医療機関に奉公に出し、国の為にその力を発揮せよと両親に促した。両親は娘への神託に打ち震え、言われるままにその場でロシェルダを神殿に差し出した。

 

 ロシェルダが未来に描いていたささやかな夢。父母と温かく過ごす下町のパン屋で、いずれ自分も二人のように上手にパンを焼けるようになりたいという望みは、あっさり断たれた瞬間だった。

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