エピローグ~シーソーゲーム・勇敢な恋の歌~③
「そうなんや……」
三十分以上に渡って、たっぷりと舞の話しを聞かされた翼は、ぐったりしつつ、話題の中心となった下級生二人に対して、心底呆れた、といった感じの表情で、
「報告ありがとう~舞ちゃん。吉野さんから、そんな話しを聞かされたら、誰かに話してしまわないと、身がもたへんよね~」
と、従妹に同情を示す。
「そもそもは、ツバ姉が蒔いた種なんやから、『責任を取ってもらう』って言った意味も、これでわかったやろ?」
昨夜の自分の心情を十分すぎる程に理解したであろう従姉の表情を見ながら、舞は、ニヤニヤと笑いながら答えた。
「それでも~。言い訳をさせてもらうけど~」
翼は、自らの言い分を主張する。
「有間クンが、そんなやり方で自分の気持ちを伝えるなんて思わへんかったし~。誤解せんといて欲しいけど、『サッサと吉野さんに振られて気持ちを切り替えて欲しい』って思ったのは、四月以降の放送ためだけじゃなくて、有間クン自身のためを思っていたっていうのは、ウソじゃないからね~」
そう本音を口にする従姉に対して、舞は、苦笑しながら答えた。
「ツバ姉の思いやりは、わかりにくいから……まあ、私たちが、いくら二人のためだと思ってしたことでも、必ずしも本人のためになるとは限らへんし――――――。それに、あの二人は、ちょっと変わってるから、一般人向けのアドバイスとかアシストをしても、効果が無いのかも知らんな~」
「ホンマに、そうやわ……」
従妹の答えに、翼は心の底から同意する。
さらに続けて、
「だいたい、有間クンに言いたいけど、自分たちの出会った頃のことから思い出話しみたいにして、想いを語り合うなんて、付き合ってるカップルとか、結婚してるヒト達がする事やろう~? 付き合ってもいない吉野さんに、そんな話しをするなんて、私からしたら気持ち悪いだけやわ~」
嫌悪感を隠さず語る従姉に対して、舞は変わらずに苦笑しながら、
「まあ、そうなんやけど、有間には有間の想いっていうのもあるやろうし……それに、少なくとも吉野さんは、嫌がってない感じやってんな~。《まるで、グリーン・デイの『バスケット・ケース』を聞かされたみたい》って冗談っぽく言って笑ってたけど……どういう意味なんやろう? ツバ姉、わかったら教えてくれへん?」
と、音楽全般や文学に対する造詣の深さについて、昔から尊敬していた従姉にたずねる。
「あぁ、そういうこと~。グリーン・デイのバンド名には、《親元から独り立ちする日》って意味が込められてるらしいから、吉野さんには、思い入れがあるんかな~? それに、『バスケット・ケース』の歌詞の冒頭は、《オレの愚痴を聞いてくれないか?》って意味なんやけど~。その後も延々と続く、病んだ歌詞を考えると、有間クンの《想い》をダラダラ聞かされた吉野さんが、そう言いたくなる気持ちは、わかる~」
翼は、そう答えたあと、
「でも、笑いながら言うってことは、そんなにイヤじゃなかったん? 性的欲求不満から出てくる愚痴を聞かされてるのに? あと、『バスケット・ケース』には、《手足を切断されて手も足も出ない》って意味もあるから、まさに吉野さんに対する有間クンの心情って気もするけど~」
そして、自分自身の性格の難儀さを脇に置いて、最後に
「もし、それをわかった上で言うてるんやったら、吉野さん性格ワルすぎやわ~」
と、吉野亜莉寿に対する見解を付け加えた。
その答えを聞いた舞は、子供の頃から、疑問に思ったことは、何でも答えてくれる従姉に敬意を示しつつ、
「さすが、ツバ姉! でも、吉野さんは『ちょっと、ミーハーだけど、私、この曲が大好きなんだ』って言ってたわ。『歌詞がカワイイ』とか何とか」
と、亜莉寿から聞かされた言葉を思い出しながら語る。
「あ~、前に舞ちゃんが、有間クンのことを話す時の吉野さんは、『仲の良い弟のことを話してるみたい』って言ってた理由が、ちょっとわかったわ~」
舞の言葉を聞いた翼は、同意し、続けて
「でもな~。それやと、ますます有間クンには、チャンスは無いと感じるな~。だいたい、吉野さんも吉野さんやわ~。恋愛感情を持てない相手なら、友達関係をキープするんじゃなくて、キッパリ振ってあげるのが、最低限の優しさやと、私は思うけどな~。まあ、
と、自身の見解を披露した。
しかし、従姉の見解を黙って聞いていた舞は、呆れたといった感じで発言する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます