第一章~リアル・ワイルド・チャイルド~⑥

 体育の授業中、記録測定の待ち時間の間に、吉野亜莉寿との接触に成功した正田舞は、彼女の人となりがわかる、いくつかのエピソードを聞いた後、


「吉野さん、色々とお話し聞かせてくれて、ありがとう! あと、もう一つだけ聞かせてもらって良いかな?」


と、自分が最も関心のあることをたずねようとした。

 すると、それまで舞の質問に答えるだけだった亜莉寿が、唐突に、しかも、食い入る様に


「その前に、私の方からも正田さんに聞きたいことがあるんだけど良いかな!?」


と、話し掛けてきたので、やや困惑しながら、返事をする。


「う、うん、どんなこと? 私に答えられることなら答えるけど……」


 亜莉寿は、意を決した様にたずねた。


「正田さんは、有間クンと同じ中学出身だよね? 有間クンとは仲が良いの? 先週も、お昼休みに有間クンたちと話してたみたいだけど……」


 まさに、秀明のことを聞こうとしていた舞は、やや冷静さを失いながら、少々焦り気味に答える。


「えっ!? え~と、仲が良いというか、普通に同じクラスの男子として話す程度かな? まあ、中学校が同じだったから、話す頻度は少し多いかも?」


 すると、


「そうなんだ……」


と、声のトーンを落とす亜莉寿。

 その様子を見て落ち着きを取り戻した舞は、亜莉寿に落ち着いた口調で語った。


「あの、実は先週、有間と話していたのは、吉野さんのことで……違ってたら、ゴメンやけど、吉野さん、自己紹介の時、有間の方を見て笑ってなかった?」


「!?」


「だから、『吉野さんと有間は知り合いなのかな?』って思って、有間に聞きに行ったんやけど、本人は全然、認識が無いみたいで……って、吉野さん、大丈夫?」


 表情が紅潮したあと、急に青ざめ出した亜莉寿を見て、心配する舞。


「もしかして、私が有間クンのことを見てたの、クラスのみんなにバレてるのかな?」


 暗い表情で、落ち込む亜莉寿に、舞はフォロワーにを入れる。


「いや、吉野さん心配せんといて。男子はもちろん、女子も気づいてないから」


「ホントに?」


 おそるおそる聞く亜莉寿に、


「うん! 有間なんか、『一瞬、吉野さんと目が合ったと思ったけど、《アイドルファンが、コンサートでアイドルと目が合った~》とかいう勘違いと同じやろう』って、自分で否定してたくらいやし」


舞は、そう応答した。


「あっ! それはそれで、何だかムカつく」


落ち着きを取り戻したあと、ムッとした表情を浮かべる亜莉寿に、舞は親近感を覚えた。


「ホンマ、どうしようもないな~、あのボンクラーズは……」


 舞が口にすると、


「えっ、ボンクラーズってナニ?」


疑問を口する亜莉寿。


「多分、久野さんたちのグループが名付けたんじゃないかと思うけど、昼休みに有間の席に集まって、どうしようも無い話しで盛り上がってる四人のこと」


 舞が答えると、亜莉寿は声を立てて笑い


「あ~、ボンクラーズ……確かに。久野さんたちのグループ、華やかだもんね。クラスの中心グループの人たちからすると、有間クンや坂野クンの趣味の話しだと、アウトサイダー過ぎて、何を話してるかわからないだろうし(笑)」


「やっぱり、吉野さんの視線の意味に気付いてなかったってことか。その意味でも、ボンクラーズの筆頭やな、有間は……」


 舞がそう言ってため息をつくと、亜莉寿は、また声をあげて笑って、こんなことを話した。


「ねえ、正田さん。ここからする話は、誰にも、特に有間クンには話さないんで欲しいんだけど……良ければ、私の話しを聞いてくれる?」


 そう言って亜莉寿が聞かせてくれた内容は、舞が感じていた疑問を払拭するに余りある内容だった。



「お話し聞かせてくれてありがとう。いま、聞かせてもらったことは、私も、有間が自分自身で気づくべきことやと思うわ。吉野さんのお願いが無くても、絶対に、私からは、有間にこの話しをしないから安心して」


「ありがとう、正田さん。私も話しを聞いてもらって、胸のつかえが、少し楽になった感じ」


そう気持ちを伝える亜莉寿に、「どういたしまして」と答えながら、


「あ、最後に一つだけ言わせて! 吉野さん、可愛いから自己紹介の時みたいに、笑顔振り撒いたら、他の男子が勘違いすると思うから気をつけた方がイイよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る