家ゆ駆除

@Darkmattervoid

家ゆ駆除

「疲れたぁ~」


ようやく仕事が終わった。突然新しい仕事が入り、定時で帰れなくなったのだがそれもようやく片付いた。


「さて、帰って風呂入って寝るかあ……」


飯は残業前の休憩時間に一階にあるコンビニで買った弁当で済ませている。あとは帰って風呂入って泥のような眠気に呑まれるだけだ。そのはずだった……


“奴らが居るのを見るまでは”


「ただいまー」


一人暮らしをしているはずなのにただいまって言う癖は抜けないな……と思いつつ電気をつけると……


「ここはれいむ(まりさ)のゆっくりプレイスだよ!くそにんげんはでてってね!」


豆粒ほどの大きさの物体が10個ほど足元に居た。会社でも何度か見たことがある。


「家ゆか……」


家ゆ、それは野良ゆに比べて家に棲み付くことに特化したゆっくりのことを指す。さながら黒いGの如く素早く、小さくて繁殖力が尋常ではない。箪笥の隙間とかに隠れるため成体でも子ゆより少し大きめ程度にしかならない。また、通常種とは違い卵生で、一度に10ほどは生まれる。市役所に無料で置いてある一人暮らしのいろはを書いたパンフレットにも「家ゆは1ゆんいたら30は居ると思え」と書いてるほどだ。


「ふほうしんにゅうだよ?わかる?」


赤いリボンをつけた奴、れいむ種が何か喚いているが無視する。


「眠いけど駆除するか……出てきたことを後悔しろ」


鞄から取り出した軍手をつけ、無作為に一番小さいのを指先で掴む。


「おしょらをとんじぇるみちゃ~い」


小さな帽子からして、まりさ種の幼体だろう。


「みたいじゃなくて、飛ぶぞ(意味深)」


そう言って指に力を入れる。


「ちゅぶれりゅ!ちゅぶれりゅ!」


「おちびぃぃぃ!!おちびをはなせぇぇぇぇ!」


まりさ種が突進してくるが、壁に向けて蹴り飛ばす。永遠にゆっくりしないよう力を抑えてだが……


「その寒天の目に刻め、おちびを殺されるところをな!」


そのまま一気に潰す。目や餡子が飛び出し、床にびちゃっと音を立てて落ちる。


「一丁上がり……っと」


皮だけになった亡骸を親ゆの前に投げる。


「おちびちゃん!えいえんにゆっくりしたらだめだよ!」


おちびの亡骸をぺろぺろするれいむ、健気だがもう遅い。そうしてるうちに……


「うんうんでりゅ!」


今度はれいむ種の幼体がうんうんをしようとした。丁度良い……


「よっ……と」


屈んでそいつを掴みあげる。


「うんうんのじゃまするんじゃないのぜ!」


まりさ種の成体が頬を膨らませるが無視する。ゆっくり曰くあにゃるを指で塞いでやる。


「どぼぢでれいみゅのうんうんしゃんでにゃいのぉぉぉ!?」


いくら力を入れてもうんうんが出ないことに疑問をもったのか、喚き出す。だがそれも長く続かなかった。


「もっちょ……ゆっくち……」


辞世の句を言った途端、四散した。おそらくあにゃるを塞がれているのにうんうんをしようとした結果皮が指で塞いでいる力とうんうんを出そうとする力に耐えられなかったのだろう。


「さて、残りはどうしてやろうか……」


そう言って残りを見やると、何匹か巣に逃げようとしていた。


「もうやぢゃぁぁぁ!おうちかえりゅぅぅ!」


もしかすると卵の在処が分かるかもしれない。そのまま泳がせてやろう。その前に……


「お前らは逃がさんぞ?」


そう言ってタッパーに番の2匹をぶち込む。これから少し精神的にかなりハードなクッキングに付き合って貰うため逃げないように蓋をする。


そうこうしてるうちに、子ゆが辿り着いたようだ。通帳とか入れている棚の下だ。


電気をつけて覗くと、やはりあった。埃を集めて作ったベッドの上に20個ほど奴らの卵が……


「ありがとう、これで一斉駆除できる!」


そう言って製図用のものさしで全部捕獲する。持ってきていたタッパーに卵と子ゆを入れる。


「おまたせ~」


「くそにんげんははやくここからだすのぜ!」


まりさ種がまた喚いていた。


「あまあまを食べさせてあげるから黙ってくれないか?」


そう言うと、やはり食いついた。


「あまあま!?はやくよこすのぜ!」


「まあ待て、今から作るから……」


そう言って、アルミのカップにまりさ種の成体を閉じ込め、れいむ種の成体とおちび、卵を全部キッチンに持っていく。


「さて、夜も遅いし手っ取り早く済ませよう」


そう言って全てのゆっくりからおかざりを奪い、タッパーに入れる。おかざりは加熱すると蒸発するため材料に適さない。だがこれから行うことにはこれは重要な意味を持つため捨てずに先ほど卵と子ゆを入れていたタッパーに入れる。次にキッチン鋏で散髪する。これもまた加熱するとパサパサしてしまう特性があり材料には適さない。しかしこれから行うことにはさほど重要な意味を持たないため三角コーナーへ。その次に小さめの鍋にれいむ種の成体をぶち込む。水を入れると溶ける可能性があるので水を入れずにそのまま火にかける。


「あ゙づい゙い゙い゙い゙い゙い゙!!」


台所にれいむ種の成体の悲鳴が木霊する。それを無視して鍋に蓋をすると、次の作業に移る。


「子ゆは掴みづらいしすりおろすのは適さないなあ……そうだ、こうしよう」


昔出張先で行った県には揚げもみじと言うものがあるしそれに近いものと思おう。別の

鍋に油を入れ、子ゆを5匹ほど入れる。残りの1匹は卵と混ぜてソースにしてやろう。油が跳ねない程度の温度にしてコンロの火をつける。


「あ゙ぢゅ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙!!あ゙ぢゅ゙い゙よ゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」


子ゆの悲鳴も木霊する。親ゆの悲鳴と子ゆの悲鳴で騒音だ……


3分ほど放置すると、全てのゆっくりが沈黙した。


「よし、丁度良い」


そう言って穴空きおたまでゆっくりの素揚げを取り出す。


「鍋の方はどうなったかな?」


蓋を開けると、茹で蛸の如く真っ赤になって沈黙したれいむが居た。

それを鍋から崩さないようトングで慎重に取り出し、皿に入れる。その後素揚げになった子ゆを周りに置く。まるで何かの儀式っぽくなったな……


「仕上げに移ろう」


流石に埃まみれの素材を使いたくはないので、卵を溶かさない程度の短い時間でサッと洗い、ポテトマッシャーで潰す。そして残り1匹の子ゆを、ピーラーで皮を剥き、餡子と目玉、舌だけになったところでかつてゆっくりの卵だったモノに入れる。当然、余すことなく使うため皮は包丁でみじん切りにして、その中に入れる。


「後ははこれを混ぜるだけ……」


電動泡立て器で混ぜ合わせ、特製ソースを作り上げる。皮を剥かれ、中枢餡を粉砕するように電動泡立て器で乱暴に混ぜられ、瞬間的にゆっくり出来なくなったため、ゆっくりが大好きな甘いソースになるのだ。これを先ほど皿に置いた子ゆの素揚げや茹でれいむにかけると、完成。


「家ゆのオードブルだ」


我ながら狂気すぎるメニューだと思いつつ、素材に使ったゆっくりのおかざりを入れたタッパーを後ろ手に持ち、アルミのカップを取るとまりさが喚く。


「おそいのぜ!くらかったのぜ!」


「あーはいはい、出来ましたよ」


そう言って皿を目の前に置く。


「うめえ!ぱねえ!」


ゆっくりの胃はどこに繋がってるんだろうか、5分ほどで完食した。


「美味しかったか?」


とりあえず聞いてみる。


「おいしかったのぜ!くそにんげんはたべられないのがざんねんだぜ!」


まあ、そう言うだろうな。少しイラッとしつつ、俺は後ろ手に隠してたタッパーの蓋を開けてまりさに見せる。


「美味しかったか、そうか……これを見ても、美味しかったと……そう言えるか?」


そうなのだ、このオードブルはまりさにとって大切な番のれいむやおちび、そして奴ら曰くの尊い命のゆりかごである卵を使って作ったものだ。


「れいむ……おちび……?うそなのぜ……ゆげぇっ!」


大量に餡子を吐く。おそらくさっき食ったものの半分くらいは吐いたのか?


「可哀想にねえ……君が愛した奥さんも、大切に思ってるおちびも、これから孵化するであろう卵も、全部食べてしまったんだから……あくまで俺は調理しただけ、食べたのは君の意思だよ」


「ゆっ!ゆっ!ゆっくり!ゆくり!」


淡々と説明するも会話のキャッチボールになっていなかった。まりさは目のハイライトが消え、口が開きっぱなしになりながら特定の単語しか言わなくなった。恐らく自分の奥さんも子供も食べたと言う現実を直視した結果精神が壊れたのだろう。


「あちゃー……非ゆっくり症になっちまったか……まあ良いや」


そう言って窓からまりさを投げる。家ゆは家に棲むことに特化した存在、外に出れば寒さや暑さに耐えられずに1日もせずに死んでしまうのだ。


「スッキリしたぁ!」


まりさの吐いた餡子などの後片付けを終えて風呂に向かう。


おわり

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