第8話 大蛇の刺青 ニーズヘッグ

「ブラウンズビルに到着しました。ここから先はご自身でお進みください」


 俺は降車して薄暗い街路をまっすぐ歩き始めたが……さっそくお出迎えがやってきた。義手の右腕に大蛇の刺青いれずみを刻んだ、がらの悪い黒人。


「そこのオッサン、ここを通過するには通行料を払ってもらう必要があるんだが、わかっているよな……」


 黒人の話が終わる前に、足払いをして倒れたところで、頭にGUN=GNILグングニルを押し当てた。


「お前は指名手配No.AM738 4toのニーズヘッグだな?」

つう、バウンティキラーか?」

「今日は機嫌がいい、見逃してやる。その代わり……こいつを見かけなかったか?」


 銀髪の少女の写った写真を黒人の顔の前に落とした。雨に濡れながら変色する写真に黒人が目をやると、つぶやき始めた。


「こいつは確か……変人科学者のところの娘だ」

「娘?」

「どっかから拾ってきた小娘を自分の娘とほざいていやがった」


「……こいつはどこにいる?」

「十三番街のコンドミニアムだ」

「……よし、行っていいぞ」


 黒人の脇腹を軽く蹴ると、すぐに起き上がり慌てて逃げて行った。


「いよいよだな……」


 フードをもう一度、深々と被り直し、目的の場所へと一歩、一歩、足を進める。


 ボトボトとフードに当たる酸性雨の雨音が増すごとに、俺から人の心が溶け出していくのを感じた。そして最後に残るものは……冷酷心と殺意。

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