40話 花鳥風月





 平和のオンパレードで、春祭も部誌を無難に配って終了して6月。

 この頃になると創作ゲームもそこそこに、平和な時間を持て余していた。ふと、部室の掃除でもしようかと本棚を多田師と漁っていたら、ずっと昔の変な部誌を見つけた。

「部誌名『鳥』?」

 あまりにもシンプルなタイトルなので、そういう伝統でもあったのかと本棚をあさる。今でこそ単行本サイズの部誌だけど、昔のシンプルなタイトルの部誌はとにかくでかい。『ミッケ』とか『ウォーリーをさがせ』と同じくらいのサイズで、これは配布していたのか、それともブースで読めるだけだったのか気になる。次に『月』『花』と見つかったところで、ぼくらは同時に閃く。

「花鳥風月!?」

 ついには風も見つかって、4冊で『花鳥風月』と並べる。感動。すごい。化石とか、過去の遺産を発掘して楽しんでいる人の気持ちがよくわかった。過去を知ることのよろこび。

 ついには『新・花鳥風月』という部誌も出てきて(単行本サイズ)あとがきに図書館連携企画などと書いてあるのを見つけて納得した。これは多分配布じゃなくて、部誌を図書館の特別なブースか何かに置いてもらってたんだなぁ、と。だから持ち込めないようなサイズなのかも。

「ね、花鳥風月さ、復活させてみない?夏前のこの時期暇だしさ。部員も多いから、きっと花鳥風月の4チームに分けても問題ないし!」

「いいね!」

 ということで、緊急企画『花鳥風月』なるものが立ち上がって、チーム分けのシステムは、文芸ゼミナールプロジェクトを応用した希望制にした。1年生には2年3年問わず習いたい先輩を3人挙げてもらって、それを参考にチーム分けをするという制度にした。ゼミの時みたいに、希望した先輩からはゆるく小説のことを習おうぜ!という名目で、一石二鳥だろうと思った。


 しかし、そううまくはいかない。


 各チーム、リレー企画やら、単に小説を書くだけやら、それぞれの色を出していたのだけれど、夏前に全く部誌の提出がされず、夏頃になって、次は秋祭の小説を書かないといけない状況になった。

 このまま続けるか迷って、2年生たちも含めて相談すると、「もういいんじゃないですか?延期で」ということだった。延期になったらぼくら3年はいないけれど、作品だけ提出してもらえれば編集などはできるということだった。

 確かに小説を書くのは大変だし、時期的にも無理だと判断して、延期にせざるを得なかったけれど、少しだけ悲しくもあった。企画をやり遂げたい気持ちもあったし、熱意を持って書きたい気持ちもあった。ただ、ぼくが2年の頃のような殺伐した雰囲気も、これ以上の改革も必要ないくらいの平和で、覇気がなかった。絶対書かなきゃ、なんてプレッシャーはもうぼくらにはないのだ。

 よく物語の構図として、対立する敵や悪者がいると盛り上がるというのがある。

 ぼくら文芸部にはもう対立するものなんかない。完全に完成してしまったのだろう。


 だから無理やり企画を続ける必要もないのだろう。

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