ジョン式Xmas作戦

シナミカナ

Xmas作戦part1

 昼前にようやく起きるとメイドのアリサさんが食事を持ってきた。


 テレビでたまにみかけていた皿に銀の丸い蓋を被せたものでアリサさんが飯を持ってきてくれるなんて珍しいこともあるんだと寝ぼけた頭で何も疑問を抱かずに蓋を取る。


「サンタさん

 今夜はよろしく

 byディーラー。」


 と書かれたメッセージカードが申し訳なさそうに皿に乗っておりそれをみてアリサさんが小さく拍手する。


 彼女はまた蓋をすると静かに持って帰っていった。


 蓋を開けてメッセージを読んでいるところで意味がわからず脳がフリーズしてそのままの格好で固まっていた。


 数分過ぎたところで「ああ、今日はクリスマスか。」と、とりあえずの着地点を見出しそのままベッドに横になった。


今更クリスマスなんて何を考えているんだディーラーは?


また微睡んで眠りについた。



 そして夜になるとディーラーが直々にドアを叩き事務室まで連れ添った。


 部屋のいっぱいに占拠している4㎡ほどある四角い机の上にパンパンに中身が詰まっているであろう袋が置かれていた。


それを指差してディーラーが


「プレゼントが詰まった袋があるなら誰かがサンタにならなければしょうがない。」


 なんてまるでとぼけたセリフを吐く。プレゼントの品はそれぞれサイズが違えどかなりの人数分が入っていることが分かった。


 白い袋はところどころが丸かったり角張っていたりしていた。重さは見た感じは50kgほどか。


 「プレゼントがここまで詰まっているのはいい兆候だな。」


 「ああ、形ある物だけでなく見えない物も詰まった大事なものさ。」


 感慨深く思いを馳せていると大きな袋の横に綺麗に揃った紙の束があった。


 近寄ってみるとおおよそこれだけのプレゼントを待ち望んでいるだろう人数と比例する数の手紙だった。よく昔にやっていた子供が欲しいものを書いたものだろう。


 それを手にして白く既に開けられている封筒から手紙を抜き読もうとするとディーラーが手で制した。


 「ここで読んだら面白くないだろう?」


 「だが読まないと順番が決められないぞ。これだけ詰まっていたらデカかったり上にあるプレゼントから順に配るもんだろう?」


 「Xmasっていうもんはそんな打算的な、合理的なもんじゃないさ。サンタだって良い子にしていた子供の順番で配ったりしないだろう?気が向くままに行ってこい。」


 「ああそうだな。闇に紛れて煙突もないこの暗い館を静かにそれでいて正義感を持って不法侵入してプレゼントを置いてくるよ。」


「いや、サンタが今日プレゼントを配るのはこの手紙を見れば分かるように知っているし、ジョンが配るのも知っている。」


「そりゃあ・・・夢見心地な思春期の少女が想像するレベルのサンタ像で行けってことか?」


「そんな感じだ。手紙を読む限り、なんなら寝たフリして待っているかもな。」


 ディーラーが手をドアに向ける。合理的なことなんて考えてないでさっさと行ってこいと目で語っている。


 重い袋を肩にかけて手紙をメッセンジャーバッグに忍ばせた。袋は想像より少しだけ軽いがそれでも30kgはあり体を少しだけ袋と反対の方向に傾けて部屋を後にした。


 ディーラーにああは言われたが順番を決めかねてとりあえずは一階のミッちゃんから配ろうと階段を下りてエントランスに見ると隅にある木製の小さく丸い机を前に椅子に座ってココアのようなものを飲んでいる人がいた。


 エントランスまで降りると大理石造りの床がこの寒い冬を一層に寒くし縮こまりながらカップを傾けて飲んでいる人―――ああ、真城ちゃんの向かいの席に袋を気をつけて床に置きそこに手紙の入ったメッセンジャーバッグを添えて座った。


 真城ちゃんがチラりとこちらを見ると魔法瓶を開けてコップにココアを注ぎこちらによこした。それを受け取り白く大きく蓄えられた髭をずらし熱いココアを火傷しないようにそれでいて時間を取らせないようにチビチビと十分ほどかけて飲み干した。


 コップを置くと一息つく。「ありがとう。」なんて久しい言葉を口にして温まった体を持て余していると真城ちゃんが欠伸のような溜息のようなものを一つする。


「サンタさんお疲れ様です。」


「まだプレゼントを一つも配ってないからサンタをしていないさ。」


「それは大変です。ミッちゃんさんはもうすぐ起きる時間なのでいち早く配らないとがっかりさせていまいます。」


「時間って・・・まだ2時だよ?」


「はい。昔に一度だけメイドを体験しましたが平メイドは4時起きでメイド長のミッちゃんさんは3時起きでした。」


「そりゃ・・・知らなかったよ。ありがとう真城ちゃん。助かったよ。お礼にそんな良い子にはプレゼントを・・・」


椅子に座ったまま体をかたむけ袋を漁ろうとしていると真城ちゃんは立ち上がり


「ああ、私は後でいいですから。まずはミッちゃんさんです。お手伝いしますよ。」


と、手紙の入ったバッグをひったくるとミッちゃんの部屋へと進んでいった。


「待ちたまえトナカイ君・・・ワシはもう腰も曲がって足もガクガクなんじゃ・・・ホウ↑ホウ↑ホウ↑」


プレゼントの入った袋を肩にかけて後を追った。



一階の奥にある他よりも一回り大きな木製のドアを前に首にメッセンジャーバッグを吊るしている真城ちゃんは待っていた。


「初めてみるけど・・・大きいね。」


「有事の際は一階の住人はこの部屋に集まるので中もそこそこ広いです。」


真城ちゃんはアンティークなドアノブに手をかける。


「ちょ、ちょっと待って。やっぱり女性の部屋にこんな夜に忍び込むのはダメなんじゃ・・・」


最後まで言いかけるまえにドアノブをひねり音をたてないようにゆっくりとあけ放つ。


「鍵をかけないで待っている人がいますよ。」


「そりゃ・・・またせちゃ気の毒かな・・・」


真城ちゃんの後に付いていきゆっくりとドアを閉めた。


 初めてくるミッちゃんの部屋は片付いている・・・なんて言葉では表現しきれない感じで・・・生活に必要なもの以外は何もなかった。


かけ時計と机と椅子とベッド。簡素にもほどがある。衣服はおそらくクローゼットに収納されているようだ。


 いくつかベッドがある中で奥で向こうを向いて寝ているであろうミッちゃんの元へ足を運ぶ。


 ご丁寧にもベッドの横にある机の上に大きな赤い靴下とクッキーが添えられていた。


 それを二つ取り一つを真城ちゃんに渡して頬張りながらメッセンジャーバッグから手紙を出している。


「ありました。拝啓ジョンサンタさんへ。」


「ジョンサンタって何なんだ・・・。」


「続けます–––私、三慧みつえは生まれてこの方クリスマスにサンタさんが来たことがないのでちょっとだけドキドキしています。」


「ちょっと闇が深いね・・・」


「サンタさんが来てくれる上にプレゼントを欲しがるのは厚かましいと思いますが–––。」


真情ちゃんは紙をゆっくりと丁寧に2枚目へとめくる。


「プレゼントは今月号のジャンプが欲しいです。」


「「「・・・」」」


 真情ちゃんともう一人の誰かの分の無言が1分間ほど流れる。


「それは冗談でなんか・・・オシャレなブランド・・・のネックレスが欲しいです。よろしくお願いします。」


 ホッと胸を撫で下ろす。起こさないように袋を下ろしてプレゼントを探す。わりかし下の方からCHANELと書かれている箱を見つけた。


それを取り出して机の上の靴下に入れようとすると真情ちゃんが続けて、


「・・・PS.ジョンサンタさんに着けて欲しいです。」


「「え!?」」


 二人分の声が重なりミッちゃんの方を見ると眠っているが振り向く前に視界の端で飛び起きたように見えた。


「・・・本当に?」


「はい。書いていますよ。」


 書いてない・・・書いてない・・・とベッドの方から囁くような焦るような声が聞こえるが意を決する。


 箱からネックレスを取り出すと今からすることが恥ずかしくなり顔が真っ赤になっていることを感じた。


 チェーンの留め具を外すとベッドの方から少しだけ呻き声が聞こえた後に丁度よく寝返りをうってくれてこれがまたちょうど良く仰向けになっていた。


 ああ、シーツに包まっていたので分からなかったがパジャマだったのかなんてどうでも良い事に気付く。意識してしまう首元からは鎖骨が覗く。


 心なしかミッちゃんも顔が赤くなっていて目をギュッと瞑っていた。


 ネックレスを両手で広げて首元へとやる。心臓はおおよそこれ以上に打てぬほど強く鼓動する。


 ただネックレスを着けるだけなんでこんなにも恥ずかしいんだ・・・!


 髪をより分けて首の後ろでチェーンを留めようとするが中々に留まらず冷えた指先でああでもないこうでもないと四苦八苦しているとミッちゃんがこそばゆそうに赤くした顔を歪める。


 それを見るとまたこちらの顔が熱くなり指先がおぼろげになりいつまでも四苦八苦した–––



 なんとか任務を果たした俺はドアの外で廊下にある窓を開けて涼んだ。ただ寒い風で熱くなった顔を覚ましているだけなんだけど。


「サンタって大変だね・・・」


 窓をゆっくりと閉めて真情ちゃんに語りかける。心なしか真情ちゃんはご機嫌そうだった。


「二人で頑張りましょう。次は–––。」

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