田舎者弓使い、聖弓を狙う

ふぁいぶ

第一章 旅立ち編

第1話 プロローグ



 ラーガスタ王国。

 この世界には八つの国が存在しており、その中でも強国としてラーガスタ王国は名を馳せている。

 身分は関係なく実力主義。

 どんな分野であろうとも、実力さえあれば平民などの身分関係なく地位と名誉が与えられる国なのだ。

 その国の頂点である国王も元老院と有識者数十名による厳しい審査で取り決められており、無能と判断されればさっさと国王の座は奪われてしまうのだった。

 このように実力主義が根強いおかげか、政治的不正や賄賂等はごく少数で留まっており、不正を行うのであれば相当なリスクやデメリットを背負う覚悟をしないといけないのである。

 故に国民全体の知力、武力共に他国より平均的に優れており、歴史に名を残す有名人を多く世に送り出している国と評判でもあった。


 しかし、そんなラーガスタ王国でも大問題を常に抱えていた。

 それはこの国に出現する魔物の強さが、他国の数倍も格上だという事である。

 魔物は世界中でどんなに駆除しても溢れ出てくる害獣なのだが、ラーガスタでは全ての魔物が災害級の強さだった。

 中でも竜種の生息地として知られており、常にラーガスタは竜種がもたらす災害に頭を悩ませていたのだった。

 どんなに優秀な人材がいるラーガスタでも、竜となると被害は絶対に出てしまう。

 復興に使う金も飛ぶし、討伐に送り出した人材も確実に失われる。

 建国してから数百年経っているが、未だに竜種に対する対抗策は「優秀な人材を集めてひたすらボコる」しかなかった。


 数百年経とうとも、竜種に対しての対策がそれしかないラーガスタは、今日も竜種と死闘を繰り広げていた。


「気を付けろ、ワイバーンが《ブレス》を放つぞ!!」


「全員、回避行動を取れぇぇぇぇぇぇっ!!」


 小さな町中で繰り広げられる死闘。

 この壮絶さは建物が軒並み荒々しく破壊されている様を見ればわかるだろう。

 とある建物はワイバーンが放ったブレスが直撃し、紅蓮の炎で焦がされて倒壊した。

 別の建物はワイバーンの爪で引き裂かれ、逃げ遅れた住人を下敷きにしたまま倒壊。幸か不幸か下敷きになってしまった住人は生きているが、あまりの痛みにもがき苦しんでいる。


 このワイバーン、一頭だけだと対した強さではない。

 彼らは卵からかえってから二週間程で飛行出来るまでに成長し、餌を求め巣立ちする。

 今回はちょうど運悪くそのタイミングに当たってしまい、死闘を繰り広げられている舞台の町が餌場に選ばれてしまった。

 しかもその数は、二十頭。

 この町にも猛者はいたのだが、あまりの数の多さに猛者全員がワイバーンの胃袋の中に収まってしまったのだった。

 そんなほぼ壊滅状態である町で戦っているのは、自由と報酬とロマンを求めて自由に飛び回る渡り鳥である《冒険者》三十名だった。

 冒険者にもランクがあり、三十名全員が一流と言われる銀等級だ。

 そんな一流達でも、二十頭のワイバーンを相手にするのは非常に困難だった。


「くそっ! おい、早く魔法を撃ってくれ! 前衛俺達のスタミナがそろそろ限界だ!」


「わかっているわよ! でも数が多すぎて詠唱する隙がないのよっ!! くっ」


「ちくしょう、あいつ・・・がいてくれれば、この仕事はもっと楽だったのに」


「愚痴ってる暇があるなら、一匹ぐらい仕留めなさいよ!!」


「仕留めたいのは山々だが、こいつら、一発攻撃したら空に逃げやがって剣が届かねぇんだよ!」


「こっちもそうで、防戦一方だ!!」


「誰か弓使える奴、他にいねぇのか!?」


「もう全員奴等の胃袋の中だよ!!」


「……くそったれが!」


 竜種の厄介なところは、他の魔物に比べて圧倒的に頭が良い事である。

 一度見たものはしっかりと学習し、対策してくるのだ。

 今回のワイバーンの群れは冒険者との戦闘経験があるようで、遠距離攻撃が出来る冒険者から狙って喰らった。

 魔法を使える魔法使いには適度にちょっかいを出して、詠唱を妨害していたのだ。

 ワイバーン側の損害はゼロに対し、冒険者側は一人また一人とワイバーンの胃袋に収まっていく。

 完全に舐められており、一部のワイバーンは交尾をし始めたり、別の個体は寝始めていた。

 

「このままじゃやべぇぞ……。前衛、魔法を使える奴を守って詠唱する時間を作らせるぞ! お前もいいな――」


 リーダー的存在の男冒険者が唯一生存している魔法使いの女冒険者に視線を向けると、上空から急速落下してきたワイバーンに上半身を喰われている女冒険者の光景が飛び込んできた。

 口から滴る血を地面にたらしながら上半身を平らげたワイバーンはすぐに上昇し、冒険者達の射程範囲外へ飛んでいってしまった。

 これで遠距離攻撃が出来る人材がいなくなってしまった。


「……ここまでか」


 生存者は絶望した。

 打つ手が完全に途絶えてしまったのである。

 接近戦であれば勝機はあるが、ワイバーン達はそれを許してくれていない。

 生存者十七名、生きる希望をなくし、手にしていた武器が手元を離れていた。


「ぎゃっぎゃっぎゃ」


 ワイバーン達がまるでそんな彼らを嘲笑うかのように鳴く。

 そして五頭が冒険者達を取り囲む。

 このまま餌になるのだろう、と全員が覚悟した。


「ああ、俺。この仕事終わったらドラゴン装備を作る予定だったんだがな」


「……俺は報酬で娼館を三件程渡り歩きたかったさ」


「某は帰郷して告白するつもりだった」


「酒を浴びるほど飲んでおけばよかったぜ」


 涎をたらしながらにじりよって来るワイバーン達。

 今にも漏らしてしまいたくなる程の恐怖に全身が支配されながらも、軽口で最期まで強がろうとする冒険者達。

 ワイバーンの口が開かれた、その時だった。


 銀色の閃光がワイバーン一頭に突き刺さった。

 それは一本の鉄製の矢だった。

 脳天を貫かれたワイバーンはそのまま絶命し、地面に倒れ込む。

 他のワイバーンは呆気に取られてしまい、まだこの状況がわかっていないようだった。

 しかしそんな考えている時間すら与えずに、更なる銀閃がワイバーンの脳天を穿った。

 更に別のワイバーンが矢の餌食となって倒れていき、いつの間にか冒険者達を取り囲んでいた五頭は残り一頭にまで減っていたのだった。


 これは敵襲だ。

 餌である冒険者を取り囲んでいた最後のワイバーンが気付いた時には、すでに矢が容赦なく自身の脳を貫いており、そのまま絶命。

 さらに上空を旋回していたワイバーンも寸分狂いなく眉間を射抜かれており、絶命して地面に落下していく。

 状況がさっぱりわからないままなす術無く狩られていくワイバーン達。

 いつの間にか、ワイバーンの数は五頭にまで減っていたのである。

 交尾をしていたワイバーンも行為を中断して敵を探そうとしたが、次の瞬間には眉間に深く矢が刺さって絶命した。

 つがいを殺され怒りに燃えたワイバーンも、飛び立つ動作をした直後に射抜かれて死亡。

 寛いでいた個体は逃げ出そうと飛び立つが、これまた正確に頭を射抜かれて地面に落ちていく。

 

 ついに残り三頭となったが、彼らもいつの間にか脳天を貫かれて絶命し、ワイバーンの群れは全滅した。

 この時間、最初の一頭が仕留められてからわずか一分の出来事である。


 次々と死んでいくワイバーン達を見て呆気に取られる、生存した冒険者達。

 しかし我に返ってワイバーンの死体を見て確信した。


「あいつが……あいつが来てくれた!」


「こんな離れ業が出来るの、あいつ位しかいねぇだろ!!」


「そうだな、そうだなぁ!!」


「……だけど、その当人は何処よ」


「あっ、あそこにいるぜ!!」


 冒険者の一人が指差した方向に視線を向けると、五百メートルミューラ先に人影があった。


「うっそだろ、五百ミューラ先からあんなに正確に射抜くのかよ……」


「……そもそも、矢を五百ミューラ届かせる事自体が異常なんだが」


「その前に、一分位で二十頭を全て射抜いたんだぜ? 狙わずに射んねぇと出来ねえ早業だぞ」


「あ、相変わらず異常な弓の腕前してるな、あいつは」


 後衛である弓使いながらも、異常な弓の腕前で超一流である金等級にわずか半年で成り上がり、しかも特定のパーティを組まずにソロで成り上がった異端児。

 依頼で一緒に仕事をすれば何処かから獲物を狩って来てくれる食料準備要らず。

 わずか十六歳という若さながら、冒険者界隈では超がつくほどの有名人でもある。

 光沢がある栗色の短髪に燃えているような赤い瞳、そして女性に受けがいい容姿をしており、且つ実績や実力も文句がないから女冒険者の憧れの的にもなっている人物だ。

 そんな彼が生き残った冒険者達に走って向かってきてくれた。

 生存者にとっては、彼はまさに救世主だった。


 しかし、彼にはひとつだけ欠点があった。


大丈夫でぇじょうぶか、おめぇら? 遅れちまってすまねぇだよ」


 彼は、田舎者丸出しだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る