第150話式神契約
優と小寿郎は、式神契約をする事になった。
どちらかと言えば優と小寿郎は、中坊の同級生のような関係だったが…
しかし、そこに、畳に胡座で座る真矢が念を押してきた。
「優…お前、小寿郎がやろうとしてる式神契約は、主と式の結び付きが強くなり便利な分、もう解約出来ないと、終身契約だと分かってるのか?」
真矢が珍しく深刻な顔をした。
優を本気で心配しているのが分かる。
畳に足を崩し座りながら優は、まだ豆丸とおはじきする千夏を再び見て、胡座の小寿郎を見た。
小寿郎の面から覗くキラキラの瞳と優は見詰め合う。
この優の状況では、千夏を護るには小寿郎の力がいる。
現に、幼女一人で戦国時代に飛ばされた千夏を真っ先に救ったのは小寿郎と真矢だ。
優は覚悟を決めて、真矢を見て言った。
「真矢さん…俺にはやっぱり小寿郎が必要なんです。それに、俺が小寿郎を拒んでも、江戸時代の観月家と小寿郎の所の長の契約で、小寿郎では無い違う桜の精が俺の式神として送られてきます。なら…俺は、小寿郎がいい…」
真矢は、鼻で溜め息をついた。
そして「そうか…」と静かに言おうとした。
しかし、小寿郎が先にガバっと立ち上がり、弾んだ声で叫んだ。
「そうだろう!ハルは、私が一番いいに決まってる!」
かと思うと小寿郎はその足で、さっと次に居間の奥から硯と墨と筆を持って来て、座る優の前に仁王立ちし上から目線で言った。
「ハル…ここに、お前の名前を書け!」
そして、自分の着ている小袖の胸元から何かたたんだ薄い白い紙を出し優の目の前で広げた。
優から見れば、A5サイズより少しだけ小さいサイズ位だ。
紙は、表に茶色の縁取りや線で区切ったいくつかの箇所に分かれていて、優から見て右の上部に、小寿郎の名がすでに墨で横書きされていた。
その横、左の上は空欄。
しかし、戦国時代や江戸時代は縦書きが普通だし、名前の欄の下のいくつかの欄に、何やら読めないミミズがのたくったような字が、これも横書きされていて、優は何んだか不思議だった。
「ここだ…ここに書け!」
小寿郎は、空欄を指さした。
優は何故か、東京の優の家に、東京の父の従兄弟が彼女と一緒に遊びに来て、この後婚姻届を出しに行くと言ってた日の事を思い出した。
紙の薄さと言い、縁取りや線の色と言い…
その紙は、なんとなく婚姻届に似ていた。
優は、何故かそれが酷く心に引っかかり思わず言った。
「なっ…なんか…婚姻届みたい…」
「婚姻届?」
小寿郎がキョトンとした。
「あっ…俺が元いた世界じゃ結婚する時役所に、夫婦になる二人の名前を紙に書いて出すんだ」
優が苦笑いすると、小寿郎は仮面で表情が全く分からないが、事も無げにサラッと返した。
「結婚?ああ…確かに結婚みたいと言ったら…結婚と同じ様なモンだろう!いいからここに早く名前を書け!ハル!」
「えっ?!結婚と同じなの?この契約書!」
優は焦る。
何かが酷く気になっていて、胸の奥に、優の自分自身分からない何かに対する感情があり、婚姻届のような紙に抵抗がある。
だがそこに、真矢が助けに入る。
「小寿郎!いい加減な事を言って優を惑わすな!」
「なんだと?!」
小寿郎は、不機嫌な声を出した。
真矢は胡座で腕を組むと、溜め息を一つして小寿郎を諭した。
「優は、お前と違い純情なんだ。それに第一、式神の契約と結婚は全くの別モノだ。優はお前の伴侶で無く、あくまで主になる。お前は、優に飼われるただの式神なんだと言う事を忘れるな、小寿郎」
「たかが神官ふぜいが、私に説教か?…」
小寿郎は美しい声を低くして、猫耳も尻尾も白い毛を逆立てる。
白皙の面も長い金髪も手伝い、ただならぬオーラが小寿郎から出る。
そして、小寿郎が獣の猫の姿なら「シャーシャー」生意気言って、真矢を威嚇してる感じだった。
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