第149話おはじき

人型の小寿郎が優に式神にしろと契約を迫っていると、外からの見た目は荒れた茅葺き屋根の民家から、又誰かが出て来た。


「しっ!真矢さん!」


優は思わず、小寿郎の側から出て来た真矢の目の前に走った。


「俺、優の方だよ!体もこっちへ来た!」


優の前世の春陽は病で座敷に籠もっているはずと怪訝な顔をしていた真矢は、それを聞いて驚いた。


しかし…優には謎だった。


だからそれを、真矢本人に聞いてみた。


「真矢さんが、どうしてこの戦国時代に?それに、真矢さんの世界は、真矢さんがいなくなったら大変じゃ?」


真矢は、以前優と朝霧を助けてくれたが、別に優の臣下でも何なんでも無い。


こんな危険な時代にわざわざ来る義理も理由も無いのだ。


真矢はクスっと大人の男の色気を浮かべ笑い、即答した。


「そうだなぁ…なんつーか…俺は、あの俺の世界で、金もいい女も全て簡単に手に入るから飽きたつーか、もうやりたい事とか欲しいモノが無かったからかな。それに、優…俺は、お前の側にいないといけない気がしたんだ。何でか分かんねぇけど…どうしても、優の側にいないといけないんだ…それに、俺には双子の弟がいて、神社の事は弟に全部任せて来た」


「えっ?!そ、そんな理由でこんな時代へ来たんですか?」


優が眉間に皺を寄せた。


勿論、真矢の気持ちは嬉しいが、イマイチ釈然としない。


「そっ!そんな理由で来ちゃいました!」


満面笑顔で余りにいつものチャラ軽い真矢。


しかし、すぐ、真矢の表情が真剣になった。


途端に真矢のイケメン度合いは爆上がりし、さっきとのギャップもあり、優はビックリする。


だがそうやって近くで向かい合い見詰め合う優と真矢の体の間に、小寿郎が勢いよく割って入ってきた。


そして、小寿郎の白皙の面が優の方に向き、機嫌が悪そうな声で言った。


「私を見ろ!私との話しはまだ終わってないぞ!」


優と千夏、小寿郎、真矢は、古民家の中に入った。


だが中は土壁や畳がキレイに補修されて、かなり過ごしやすくなっていた。


小寿郎らは、今はこの人も来ない廃民家を拠点に活動していた。


千夏を真ん中にして、優、小寿郎、真矢と円陣を取り座り話し始める。


千夏は、小寿郎の使い魔の豆丸と、南蛮渡来のキレイなガラスのおはじきを始めた。


だが豆丸はかなり小さいので、目の部分だけ空いてる頭から被った白い布に隠れた足でおはじきを飛ばす。


千夏は相変わらず無表情だが、豆丸と相性が良さそうで、千夏が楽しんでいるのがなんとなく優には分かった。


優は、そんな無邪気な様子を微笑ましく見ながら、千夏だけでも江戸時代へ返したいと小寿郎と真矢に懇願した。


このただでさえ厳しい戦国時代。


幼い千夏に、この時代は余りに残酷だ。


しかも、これから優達すらどうなるか分からない。


しかし…


小寿郎は、優の提案に首を横に振った。


そして、小寿郎や真矢がこの時代に来れたのは尋女の秘術が成功したお陰だが…


優の体や千夏が戦国時代に来てしまったのは…


多分、尋女が、先に戦国時代に行った優達の精神を取り戻そうと秘術をかけたが失敗したのだと…


そして、千夏や優や朝霧はおろか小寿郎や真矢までも江戸時代に帰るには、この戦国時代で尋女の祖父を探し出し、その祖父の秘術を使わなければ帰れないと言った。


小寿郎はあくまで、戦国時代と江戸時代を繫ぐ亜空間を迷わないように導く案内人である。


優が、千夏が可哀想過ぎて途方に暮れると、そこに小寿郎がたたみこんできた。


「ハル…千夏を護るためにも、お前には私が必要だ。私と式神契約をして、私をお前だけのモノにしろ!」


優の真正面から、胡座の小寿郎が面越しに見詰めてくる。


でもやっぱり、小寿郎を優の式神にすれば、小寿郎の危険は増すので優は返事に惑う。


しかし、おはじきに集中している千夏を見ると…優は、決意せざるを得なかった。


「分かった。小寿郎…お前と契約する!どうしたらいい?」


「よし!それでいい!これから契約の儀を行うぞ!」


小寿郎は満足気な声を出した。


だが…


状況が慌ただしくなり不安になり、ふと…優は、朝霧を思い出した。


(朝霧さん…今、どうしてるかな?)


すると、胸が詰まる感覚がして、優は又泣きたくなるのを堪えた。


そして、同じ時、美月姫らを従え馬を駆ける前世の朝霧も春陽の事を考え…


その前世の朝霧の中にいる生まれ変わりの朝霧も優の事を想っていたのを、優は知るよしもなかった。

















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