ホワイトクリスマス

工事帽

ホワイトクリスマス

「今日は天気いいねぇ」

「ああ、先週は酷かったな」


 先週の天気は酷かった。雪が降り積もるにおかしいとも言えない時期だが、アホほど降り積もるとなると話は別だ。

 SNSでは雪に埋もれる街の写真が拡散され、高速道路に取り残された車のニュースが流れていた。


「でも、どうせなら今日降ってもいいと思わない?」

「思わないよ。除雪に救助に、クリスマスどころじゃない人たちが沢山出るだろ」

「それもそっか」


 案内板の表示に従って、会場に入る。

 思ったよりも広い。


「へー、広いじゃん」


 会場には、すでに結構な人数がいるようだ。それでも会場が広いせいで、それほど密度は高く見えない。

 こんなに広いなら、定員の数を倍にしたって余裕だろう。

 ただし、大勢の人が集まっているといっても、コンサートやスポーツ観戦とは少し違う。


「みんな気合入ってるね」


 それは会場にいる全員がマスクにゴーグルという恰好で、顔が見えている者が皆無だということだ。

 ゴーグルには、スキー場で見かけるような形状も、スポーツグラスのようなシャープな形のものもある。中にはガスマスクにしか見えないものまで。


 それでいて服装は多種多様だ。

 普段着のようなシャツ姿もあれば、作業着姿もいる。スーツ姿もいれば、コスプレのようなアニメチックな姿も見える。ブーメランパンツ一つでポージングを取ってる人は、会場を間違えてないだろうか。


 顔が見えないのは自分たちも例外ではない。

 二人そろってサバイバルゲームで使うタクティカルゴーグルをかけている。ポリカーボネート製の丈夫なゴーグルは、BB弾が直撃しても傷一つつかない。口元には同じくサバイバルゲーム用のプロテクトメッシュ。ただし、これだけだとBB弾は防げても、飛沫は防げないために布マスクを重ねてある。

 服装はもちろん迷彩服だ。

 街中を歩けば職質まったなしのゲリラ兵である。


 そんな、普段ではお目にかかれないような姿の者たちが集う会場には、いくつもの丸テーブルが並べられ、通路をさえぎるように段ボールが積み重ねられている。

 入口のそばには、ルールが掛かれた紙が貼られていた。申込用のホームページと同じものだ。室内開催なので飛沫防止マスク必須、怪我しないようにゴーグル着用。その他、安全についてのえとせとら。

 最後に「会場に入る者は、一切の希望を捨てよ」と書かれていた。もう会場の中だけどな。


「「おおーーー」」


 歓声が上がり、目を移すと大量のワゴンが運び込まれるところだった。

 ワゴンから取り出された真っ白なパイが、テーブルの上にこれでもかと並べられていく。パイの数が増えるにつれて、会場内には甘い匂いが漂い出す。

 続々と運び込まれるパイは、テーブルの上だけでは足りないのか、段ボールの上にまで並べられていく。


「すごい量だな」

「やり放題じゃない」


 大量のパイを目に、二人でそんな言葉を漏らす。

 ほどなく全てのワゴンが退場して、会場にはアナウンスが流れる。

 アナウンスに従って、会場に散らばる参加者たち。


「無限復活戦だな」

「サバゲじゃないんだから」

「似たようなものでしょ」


 自分たちもテーブルの前に陣取って、真っ白なクリーム大盛りのパイを手にとる。

 始めに狙うのは隣のテーブルのカップルか。それとも段ボールのバリケードの向こうにいる仮面ライダーたちか。


 そして開戦の合図が鳴った。


「「「メリークリスマス!!!」」」

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