真夜中の配信

いざよい ふたばりー

真夜中の配信

インターネットが発達し、世の中に広く普及した事によって、世界中の、遠く離れた人達と繋がることが出来る様になったこのご時世。

中でも注目を集めているのが配信アプリ。

配信アプリと言うのは、誰でも気軽に生放送ができ、雑談や料理、ダンス、読み聞かせ、自信のある者は歌を披露したりと千差万別、種種雑多な思い思いの放送が出来るもので、それ故に色々な人が手を出している。

そんな中で、あまり閲覧する者はいないが、少ないながらに楽しく配信している者があった。

彼はいざっちと言う愛称で呼ばれている。


彼の放送は閲覧者が少ないが、それ故に、配信者と閲覧者はとても仲が良く、和気あいあいとした時間を過ごせるようだ。


「いざっちまた訳のわからんこと言うて……。」

「主はあたおか。」

「小学生からやり直してどうぞ。」

「いやいや保育園だろう。」

など、配信者をイジるようなコメントが大半を占めている。

しかし、いざっちは特に気に留める様子もなく、笑いながら返事をする……そんな雑談放送を何時間も、何日もしていた。

ところがある日を境にパタリと配信をしない日々が続く。

「いざっち最近見ないね。」

「何かあったんだろうか。」

「もしかして恋人が……?」

「いざっちに限ってないない。」


茶化しながらも、心配する声があがっていた。

そして数週間が過ぎた頃、真夜中に、配信の通知が。


「れれ!」


この「れれ!」と言うのは、彼の配信の挨拶である。文字入力の際、入力ミスをしてしまい、それが挨拶として定着したと言うわけ。


「久しぶりやん。最近どうしてたん。」

「おひ〜。」

「れれ!」

常連が何人かコメントをし、彼が答える。

「ちょっとね。色々あって。」

と、いつもの様にやり取りがつづく。

そのやり取りの中で何かを察したのか、1人の閲覧者が問いかける。

「なんか覇気が無いと言うか、生気がないと言うか。本当に大丈夫か。」


確かに、声に抑揚が無く、まるで機械音声の様な喋り方とも捉える事ができるではないか。もっとも、発達した科学において、昨今の機械音声の方が感情豊かではあるが。


「大丈夫、大丈夫。わしはわしであり、森羅万象の有象無象に過ぎない。」


「またおかしな事を。……ん。なんか今ノイズが走ったような。声もちょいちょいロボットみたいになるな。」

そのコメントに対し、彼はやはり抑揚の無い声で答える。

「あー。電波が悪いんかな。」


「軟弱電波がんばってもろて笑」

「低スペ乙。」

「主に似たんやろなぁ。」


和やかな雰囲気で配信は進んでいき、久しぶりの配信はいつもの時間に終わった。

その後数日間は、ノイズや音声の不調がありながらも

滞りなく配信をしていた。


そんなある日。


いつもの時間にいつものメンバー。相変わらず抑揚の無い喋りではあったが、配信も進み、そろそろ終わりに差し掛かる頃。


「あーなるほど。でもさ……。」


「え、ちょっと待って。」

何やら慌てた様なコメントが。


「ん、どうした。なんかあったん。」

彼は問いかける。


「今ニュースみてたら『福岡の山中で数週間経過したであろう、自殺とみられる死体が』って出てて、その人の名前がいざっちと同じ……。」


そうコメントが表示された瞬間。

けたたましい機械音が鳴り響き、バチンと音がしたかと思うと突然配信が終了した。


ざわつくコメント欄をよそに、彼による配信は2度と再開される事がなかった。

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真夜中の配信 いざよい ふたばりー @izayoi_futabariy

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