64 鎧袖一触
はるかさんとの会話のあと、俺は天狗峯神社ダンジョンへのポータルを潜る。
「来い、
まずは「シークレットモンスター召喚」でホビットスモウレスラーを召喚する。
腰を落として見栄を切る堡備人海。
「今日は活躍してもらうぞ」
俺は堡備人海を同行者にすると、俺に先行してダンジョンを進ませる。
寄り道せずに踏破するだけなら、このダンジョンの「ミニマップ」はもう完成してる。
さっそく現れた赤鬼、鴉天狗、泥河童の編成に、
「行け、堡備人海!」
どおおすこおおおい!
まさに鎧袖一触。
文字通りちぎっては投げの繰り返しで、堡備人海はものの数秒でモンスターの群れを全滅させた。
敵モンスターのレベルは赤鬼の50が最高だ。
対して、堡備人海のレベルは2941。
はっきり言って相手にならない。
パーティに編成せず同行者にしておけば、堡備人海が倒した分の経験値その他は俺にはいっさい入らない。
念のために「レベル封じの腕輪」を装備しておいたんだが、いらぬ用心だったみたいだな。
ルートもわかってて敵がはるかに格下となれば、考えることはいかに最短の距離と時間でボス部屋にたどり着くかだけだ。
結局、二時間もかからずに、俺は全七層の天狗峯神社ダンジョンを踏破、ボス部屋へとたどり着く。
「いやあ、快適だったな」
戦闘は全部堡備人海に丸投げだった。
体格に勝る赤鬼を肩に担ぎ上げて鯖折りにし、泥河童を泥から引き摺り出して引きちぎり、鴉天狗を張り手で叩き潰す。
愉快痛快、堡備人海無双である。
ずっと「逃げる」ばかりで進めてきたせいもあって、こんなパワープレイ&スピード進行は新鮮だ。
まあ、これだと経験値はもちろんSPやドロップアイテムも手に入らないので、いつも堡備人海任せにするわけにはいかないのだが。
そのまま堡備人海を前にしてボス部屋に入りかけた俺だったが、
「あ、いけね。戻れ、堡備人海」
俺は「シークレットモンスター召喚」を解除する。
堡備人海と一緒にボス部屋に入ると、ボスであるだいだらにレベルレイズが働くはずだからな。
俺と堡備人海の二人(?)がかりでならまず負けないと思うが、今日の目的は「幻獣召喚」だ。
「でも、その手があるんだな」
モンスターから得られるSPはモンスターのレベルに応じて上がっていく。
「シークレットモンスター召喚」で高レベルのモンスターを呼び出し、ダンジョンボスのレベルを吊り上げれば、ランクの低いダンジョンでも高レベルのモンスターと戦うことが可能になる。
しかも、俺の場合はレベル差による補正まで乗るからな。
2940のレベル差なら、獲得できるSPは295倍。
基本となるSPの増分よりもこっちのほうが断然でかい。
もしレベルレイズされたボスを安定して狩ることができるなら、道中の雑魚を相手に「逃げる」より、ずっと効率よくSPを稼げることになる。
とはいえ、レベル2941のダンジョンボスは気軽に挑んでいい相手じゃない。
まあ、Bランクダンジョンのシークレットボスだった堡備人海(レベル2941)が、同じくBランクダンジョンではあるが通常のボスモンスターであるだいだら(レベル2941)に負けることはなさそうな気もするけどな。
体格差が酷いとはいえ、俺も一緒に戦うわけだし。
ここでSPを稼いでおくか?
「……いや、今日はやめておこう」
欲をかいて予定にないことをするのは危険だろう。
「幻獣召喚」がうまくいったら、次の機会にはその幻獣をぶつけることもできるはずだからな。
逆に、レベルレイズしたダンジョンボスでのSP稼ぎを試すなら、雑木林ダンジョンあたりで始めたほうがよさそうだ。
ヒュージスライムならwikiを調べればレベルレイズで追加されるスキルの詳細もわかるだろう。
「地割れ」という即死攻撃を持つだいだらは、ヒュージスライムほどには探索者による研究が進んでない。
「そうと決まったらさっさと片付けるか」
俺はボス部屋に入るなり、
「ブレイズランス!」
スキルシナジーを特盛にした「上級火魔法」を解き放つ。
白く輝く火炎の槍は、だいだらの幹のような首を貫いた。
まさに一撃必殺。
「暗殺術」の即死効果が働いたかどうかすらわからない。
働いても働かなくても、レベル61のだいだらなら確殺だろう。
《ダンジョンボスを倒した!》
《ダンジョンボスに経験値はありません。》
《SPを1764獲得。》
《134200円を獲得。》
《「銘酒『鬼泣かせ』」を手に入れた!》
これは前回とほぼ同じ。
「獲得SPアップ2」の効果で獲得SPが20%増えてはいるけどな。
今になってみると、SPを1764「しか」稼げなかったのか……としょんぼりするようなシケた戦果だ。
もちろん、俺の感覚のほうがおかしくて、普通は一回の戦闘でSPを1764「も」稼げたら、パーティで祝杯を上げるレベルだろう。
さて、邪魔者もいなくなったことだ。
「これだけ広ければ文句ないだろ」
十数メートルもの巨躯を持つだいだらのいたこのボス部屋は、他のダンジョンのボス部屋よりかなりでかい。
まるまるいくつものビルが収まりそうな広さがある。
雑木林ダンジョンのボス部屋では不足だったが、ここならどうだ?
「『幻獣召喚』!」
俺がスキルを発動した瞬間――
ボス部屋を暴風が席巻した。
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