優秀な可愛い弟子が記憶喪失で目覚めたので
轟 かや
0.プロローグ
10年に一度の。
バケツをひっくりかえした様な。
そのように世間で表現される雨が降っていた。
遠くの方でゴロゴロと雷の音が響いている。
その雨に負けじと、足元をどろどろと赤い液体が流れているのを、ただ見つめることしか出来なかった。
「か…や……かや…」
自分を呼ぶ、か細い声。
もう時期に、死を迎える者の声音だ。
何人も、殺してきた。
何人も、見送ってきた。
何回も、「最後の言葉」というものを聞いてきた。
それなのに、まるで初めてかのように手は震え、視界が歪む。
どうしてこうなったのか、分からない。
何が起こったのか、分からない。
考えなければいけないことは山ほどあるのに、頭が真っ白になる。
思考が停止する。
「夏也」
突然、聞き慣れた、凛とした声がした。
思わず顔を上げる。
目線の先には、大事な「仲間」。
腹からどろどろと赤い液体を流し、アスファルトの上に横たわっている。
「夏也、俺を見ろ」
この後、死ぬとは思えないようなはっきりとした言葉。
真っ直ぐ俺を見つめる、澄んだ瞳。
ゴホゴホと咳き込み、血を吐きながらも「仲間」はいつも通り優しい顔で手招きをした。
手招きに導かれるように近寄ると、頭を優しく撫でられる。
「夏也、頼みがある」
耳元で告げられる言葉。
優しく、残酷な頼み。
ぼんやりとした視界と頭にも、その言葉は響き渡り、脳裏に刻まれた。
「いやだ…おれは…俺にはそんな、」
「もう、いい…いいから、頼んだぞ…」
いつもならば、相手の意見も必ず聞く、優しい「仲間」。
しかし今日は言いたいことを一方的に言い、目を閉じたまま動かなくなってしまった。
「あぁ…あああぁ……」
しばらくすると雷雲がやってきて、雨がピークを迎える。
その後、徐々に小雨へと変わり、厚い雲が消えてもなお、夏也は「仲間」を抱きかかえたままその場から動くことが出来なかった。
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