あしあと

JUN

第1話 惨劇の始まり

(何があったんだっけ)

 俺は座り込んだ姿勢のまま辺りを見回し、ぼんやりと考えた。

 暗いが、どうにかそれらが見えた。木目の壁、吹き抜けの天井、窓の外に広がる自然豊かな木立。そして、血まみれで横たわる友人。

(え?)

 どう見ても生きているとは思えない友人の姿に動揺し、それに気付く。赤黒いような、足跡。

(……思い出した!)


 俺が写真仲間とこの貸しロッジに来たのは、今日の昼過ぎだった。山の頂上の開けた所にポツンと建っており、夜空の写真を存分に撮ってやろうと、皆、意気込んでいたのだ。

 薄暗くなり始め、さあ、と気合を入れた時にそれは始まった。

「今、何か音しなかったか?」

 中の1人が不意に言って、皆、耳をすますようにして手を止めた。

「……そうか?」

「気付かなかったけどな」

 皆はそう言ったが、そいつはしばらく辺りを見回しながら耳をそばだてていた。そして、

「ちょっと見て来るわ」

と、階下に降りて行った。

 俺達はそれを何となく見送ったが、1人がニヤリとして言った。

「映画とかじゃ、殺人犯が襲撃して来るとかいうのがあるよな」

 それに、別の意見が出た。

「ゾンビとか悪霊って展開もあるぜ」

「どっちがましだろうな」

「殺人犯は取り敢えず生きてる人間だしな。何とかなりそうじゃねえか」

「どんな凶器を持ってるかにもよるなあ」

「吸血鬼だったら大丈夫だろ。俺達、昼間にしこたま餃子食ったし」

「吸血鬼がニンニクと十字架に弱いって、後からテレビの都合で付け足したデマらしいぞ。

 というか、吸血鬼がそもそもデマだけどな」

「夢が無い事言うなよぉ」

 俺達は笑いながら、吸血鬼を写真に撮るならどんな写真を撮るか、なんてバカ話をしていた。

 その時、階下から物凄い悲鳴がした。

「うぎゃああああ!!」

 俺達は動きをピタリと止め、続きを待った。

 しかし、もう何も聞こえない。

「今の、何だ?何かあったのか?」

「侵入者?」

「……」

 お互いの顔を見合い、俺達はゴクリと唾を呑んだ。

「行くか」

 誰かが言って、俺達はそろそろと立ち上がった。


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