第2話
いつもとはちがう肌触りの良い感触に身を深めた先で意識が掬い上げられ目を覚ました。
抱きしめたい枕に任せて寝返りを打つと青い色の綺麗な瞳と至近距離から視線がかち合って固まった。
「おはようございます」
「……おはよう、ございます」
ふと彼の下降した視線を追うとはだけていた胸元に慌ててローブを掻き寄せる。
「隠すことはないと思いますが」
この人はいつから起きていたのだろう。
「旦那様は」
クラウス。と言葉を制される。
「できればクラウスと名前で呼んでもらえたら嬉しいです」
「……クラウス様」
「もう一度呼んでいただけますか」
「クラウス様」
「はい」
「あの、この状況はいったいどういった……」
どうしてクラウス様と一緒のベットに寝てるのだろう。
昨晩の記憶を辿っていくと自身の言葉を思い出して顔がみるみる熱くなっていく。
「思い出したみたいですね。アメリア、君とわたしは一緒のベットで眠った。ただそれだけですよ。まあこの分だと午後まで人が寄ることはないでしょうが」
ベットから出て窓を開け朝の空気を入れていく。その先はバルコニーへと続く造りへとなっていてクラウス様の後に続いていくと丸テーブルと椅子が二脚。そこにはクロスが敷かれ食事が用意されていた。
「一緒に朝食を食べませんか」
あなたは座っていてください。と慣れた様子でお茶を注いでいくクラウス様。
簡単なものですがと用意された軽食は瑞々しい。
「クラウス様が作られたんですか?」
「はい。まあメアリーのようにうまくはできませんが」
この人、ほんとうにいつから起きていたんだろう。
「……そういえば、メアリーにはどこまで話してあるんですか?」
ふと疑問に思っていたことを訊ねてみる。
「……話してない」
「じゃあ私のことはどのように話してあるんですか?」
「……わたしの一目惚れだと、……言っては、ある」
妙に歯切れの悪い物言い。
「あの、今更とは思いますがどうしてこういう経緯になったのか伺ってもいいですか?」姿勢を正し話を待つ。
「それは、……わたしには縁談の話が来ていたのですが、その、わたしはまだ結婚をしたくはなかったのです」
「じゃあ結婚しなきゃよかったじゃないですか」
「そうもいかないんです」
アメリアには理解できなかったが彼の公爵の立場を考えれば色々あるのだろう。
「あの日までに相手が見つからない場合強制的に結婚する相手が決まっていて」
「その方では駄目だったんですか?」
「はい」
「だから私と結婚したということですか」
「はい」
「たまたまぶつかった私と?」
「はい」
「不用心です」
「はい」
「私だから良かったもののもし危ない人だったらどうするんですか」
はい。と頷きかけて思い出したように彼は言葉を連ねる。
「いえ、あなたなら大丈夫ではないかと。立場上人を見る目は養えているので……」
「クラウス様」
「……怒っていますか?」
メアリーに心苦しさを感じつつも結局のところ自身もお金と引き換えにこの契約を結んだのであって彼を責めることなどできない。
この人が時折私に甘いのもそのひとつなのだろう。
例えば昨晩のことも。
一緒のベットに寝ているのも。
周りに怪しまれないため。
最初に言っていた。愛はいらない。と言ったその言葉の意味をようやく理解した。
「乗り込んだ船ですからね。最後まで共にしますよ。契約に関してはきっちり務めますので私のことは気にせずクラウス様はクラウス様のしたいことをなさってください」
王室直属の騎士団に所属しているならば多忙なはずで、邸の中はせめて心休まる場所であってほしい。ふたりでいる時くらいは無理をして甘いことはしなくていい。公爵で嫡男にあたるクラウス様は世継ぎのこともある。縁談が舞い込んでくるのはそのためだ。そう考えるとずっと私と一緒にいるわけにはいかない。彼が心から求める人と幸せになってほしい。ただそれまでの間は無理をしないでほしいと思うのはおこがましいだろうか。
「では、今度一緒に出かけませんか」
「?」
「あなたと私の仲を知ってもらうには二人で出かけるのが一番でしょう」
「それはそうですが」その必要はあるんだろうか。
「……駄目ですか?」
「いえ、ぜひ」
悲しそうに眉を下げられれば断れるはずもない。
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