第二章 生者の帰路

第36話 同心北高校

 校門から玄関を中心に、左右対称となる三階建ての校舎。校舎上部に取り付けられた時計は、十二時二十分で針が止まっている。

 そんな同心北高校の敷地内に、人の姿は皆無。駐輪場に自転車は一台もなく、静まり不気味な感じとなっていた。


「どこから見て回る? やっぱり校内からか?」


 校舎を見据え問いかけてきたのは、クラスメイトで友人の真島啓太。明るい茶色の髪を、ふんわりと遊ばせた髪型。

 しかし何を置いても特徴的なのは、個性的な組み合わせをする服装。ピンクの花が散りばめられた緑色のアロハシャツに、無数の波模様が点在する黒の七分丈パンツ。今は先の展示会で入手した、金属バットを持っている。


「そうだな。まずは周囲を見て回ろうぜ。安全そうなら、校内の探索をしよう」


 札幌の街には現在、屍怪なる存在が徘徊している。元は人間だった者で、噛まれることなどにより感染。

 屍怪となった者は生者を襲い、感染を広げていくパンデミック。今は遭遇しないように、安全確認が大切だった。

 

「外周からでも、職員室が見つかれば良いんだけど。職員室になら、何か情報があるかもしれないし」


 大人の教師が集まる職員室になら、多くの情報が集約されるのは必然。同心北高校へ向かった彩加を探すに、今は一つでも多く情報が欲しかった。


「綺麗に咲いていたはずの花が、こんな風に荒らされるなんて」


 無惨に踏み潰された花壇の花を見て、悲しそうな顔を見せるのは神城美月。札幌駅地下のシェルターで出会った、行動をともにする女子高生。

 艶のある長い黒髪に、目鼻立ちが整った小さな顔。スラッとした抜群のスタイルは、雑誌の表紙を飾っていても不思議はない。紺色のスクールブレザーにチェックのスカートを着用し、展示会で入手したU字形の刺股を持っている。


「どれもこれも、屍怪の仕業だろうな」


 愛情を注がれ育てられた花を、人の心を持った者が踏み荒らすはずがない。

 このような非道を行えるのは、自我なき徘徊者となった屍怪。異端となった者の所業としか、考えられなかった。


「そうね。人がいないのだって、屍怪の影響でしょうし」


 同調し追加考察するのは、同級生で幼馴染の朝日奈ハルノ。オレンジ色に近い明るい髪を、高い位置で結んでポニーテールに。

 母親が日本人で、父親が外国人とハーフ。綺麗な翠色の瞳が特徴的で、顔立ちにハーフの要素を僅かに感じる。オレンジのブラウスに白のハーフパンツを着用し、展示会で入手した胸当て。矢筒と弓を背負う状態だ。


「屍怪が徘徊しているからな。生存者だって不用意に出回らないだろ。きっと多くは避難所に避難して、身を隠しているはずだ」


 地震や台風といった災害ならば、復興のため人は戻ってくる。

 しかし今は、屍怪が徘徊する街。事態の終息が見えなければ、人々が戻ってくることはないだろう。


「あそこの入口。職員専用って書いてんじゃん。職員専用なら、職員室が近いんじゃね?」


 外周を歩き進め駐車場を過ぎ、前方を見つめ啓太は言った。

 たしかに先の校舎には、【職員専用】と書かれた入口がある。


「だな。行って様子を見てみようぜ」


 職員専用の入口へ向かい、全員で校舎の外周を進む。


「ガシャァン!!」


 そこで唐突に響く、何かが砕ける音。音の発生源は上階で、割れたのは三階の窓ガラス。頭上からはパラパラと、ガラス片が降ってくる。


「なんだっ!? なんだっ!? 危ねぇーじゃん!!」


 ガラス片が降り注いでいると知り、慌てて回避をする啓太。

 一通り落ち着いたところで、三階の様子を見上げて確認。するとそこには、人の上半身が投げ出されていた。


「しっかりしろよっ! 悪ふざけにしては、やり過ぎだぞっ!」


 窓が割れた三階の教室から、微かに人の叫びが聞こえる。

 叫び声を発したとなれば、それはおそらく生存者。しかしどうやら騒動が起きているようで、異常事態に屍怪の存在を想像できた。


「行こう! 生存者なら、助けるのに理由はいらない! それに会えば、何か情報を得られるはずだ!」


 助けるのは当然として、情報も欲しかった。避難所の有無や、事態の詳細。いるのが何者であっても、会って損はないとの判断だ。


「これは……」


 職員専用の入口から校内へ入り、美月は震える声を発した。

 床にあったのは、歪な形をした血溜まり。相当の時間が経過しているようで、すでに乾いている。


 やっぱり学校も、安全とは言えないようだな。

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