第24話 根性なし
「気をつけろっ! 誰かいるぞっ!!」
ホテル隣にある青空駐車場。五台ほど車が残される影で、何かが動いた。
のそのそと姿を現したのは、屍の怪物と称される屍怪。三体が行く手を阻むかのよう、道を塞ぎ目の前に立った。
「ウァアアアアア…………」
間抜けに大口を開け、呻き声を発す屍怪。三体同時に、足を引きずり迫りくる。
「早くも登場ってわけかよ」
屍怪が出現したとなれば、刀を抜刀し臨戦態勢。
「射るわっ!!」
背後のハルノは声を上げ、一本の矢が飛翔する。
「ヒュン!」
風切り音とともに通過する矢は、先頭を歩く屍怪の胸部に命中。心臓に突き刺さっては、即死になるだろう一撃を与えた。
「頭を狙わないと、ダメみたいね」
歩みを止めぬ屍怪に、ハルノは冷静に分析をしている。
屍怪は心臓を射抜かれようとも、平然と歩き続けている。それは何事もなかったかのよう、朝の散歩を楽しむように。
「次は……頭を狙うわ」
頭部に狙いを定め、ハルノは二射目を射た。
物凄いスピードで射出された矢は、宣言通りに額を貫き命中。脳を破壊され、屍怪は力なく地に沈んだ。
残りは……二体。
「弱点は頭だっ! 頭を潰さねぇと! 屍怪は動き続けるぞっ!」
一連の流れから、頭部を弱点と断定。
「右は俺が殺る! 啓太は左を頼む! 他にもいる可能性があるから! みんなは警戒を続けてくれっ!」
視野が狭くならないよう、警戒の継続を指示。
「りょ……了解じゃん!」
「わかりました!」
応えた啓太と美月の声を聞き、迫る屍怪と対峙する。
相手となるのは肩幅広く、体格良い男の屍怪。血に汚れた白いシャツに、ジーンズを着用。頬の肉は酷く欠損し、見えざる位置から歯を覗かせている。
迫られると圧迫感があるな。とりあえずはコイツを、どうにかしねぇと。
命の危険がある状況。しかし恐怖や怯みより、立ち向かう気概のほうが勝っていた。
それでいて慌て興奮もせず、心境は波風ない水面のよう穏やか。冷静沈着に平常心を保てては、周りの状況もよく見えた。
俺たちと比べて、屍怪の動きは遅い。落ち着いて対処すれば、問題なく殺れそうだ。
「うおぉおおお!」
気合いを入れた叫びとともに、渾身の力を込めた一斬。自ら前進しては、交差するタイミングで。男の屍怪を斬りつけた。
刃は左肩から斜めに入り、左半身を切断。男の屍怪はバランスを崩し、勢いそのままに転倒した。
「どうだっ!?」
弱点である頭部は外すも、男の屍怪からすれば大ダメージ。左半身を大きく失い、上手く立てずにいる。
「これでもまだ……動くのかよ。確実に息の根を止めるには、やっぱり頭を……潰すしかねぇ!!」
膝をつく男の屍怪に、振り返って一閃。今度は弱点である頭部に狙いを定め、明確な意志を持った斬撃を放つ。
肉を裂き、骨を砕く感覚。屍怪の頭部は、輪切りになって切断。活動能力を、完全に奪った。
「よし! こっちはなんとかなったな!! そっちはどうだっ!?」
息をつく間もなく、振り返り状況を問う。そこでは金属バットを持つ啓太が、女の屍怪と対峙していた。
啓太が対峙するのは、小柄な女の屍怪。肩を露出させた白いブラウスに、ダメージ加工のデニムショートパンツ。高く盛られた派手な金髪と、目立つ格好をしている。
「啓太!! 前に来てるぞっ!」
大きな声で叫び、必死に警告。しかし金属バットを構える啓太は、動けずにいるようだった。
「クソッ! 本当に……殺らなくちゃダメなのかよっ!?」
啓太から返ってきた言葉は、迷い躊躇いの心中を吐露するもの。
「チクショオオオ!!」
それでも啓太は覚悟を決め、金属バットを振りかぶった。
「バコンッ!」
啓太は金属バットで、女の屍怪を強打。
大きく振りかぶっての、紛うことなきフルスイング。肩にヒットしては、小柄な体を後退させた。
「ヴガァアアアア!!」
耐えて女の屍怪は、呻き声を上げた。
間違いなく、威力あった一撃。致命傷とならずとも、骨折などの重傷。普通の人間ならば、当然に立てはしないだろう。
「啓太! 頭だっ! 頭を潰せっ!! そうすれば、動きは止まるっ!!」
屍怪と化した者を止めるには、頭部を破壊することが最適。
「……だけどよ。これってやっぱり、人間じゃん」
人間と相違ない身形となっては、啓太は攻撃に物怖じしているようだ。
「使えないなぁ。本当に」
後方で警戒をしていた夕山。動かぬ啓太の発言を受け、女の屍怪へ向かっていく。
「ガンっ!」
躊躇う素振り全く見せず、夕山は鉄パイプで顔面を強打。女の屍怪は転倒し、大の字に天を仰いだ。
「とんだ根性なしだね」
啓太に視線を飛ばし、夕山は一言。
「グシャ」
完全に息の根を止めるべく、鉄パイプで頭部を破壊。
女の屍怪は、活動を停止。流血により、一面が赤く染まっていく。
「啓太。大丈夫か?」
気にかけて問うも、啓太は反応なく無言。絶命してもなお、痙攣する女の屍怪。石像のように固まり、視線を逸らさず見つめていた。
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