終末の黙示録

無神 創太

プロローグ

 どうして……。どうして、こんな事になったんだ!?


 怪我をしている腕からは血が流れ、痛みに耐えながら顔を歪める男性。支えるよう肩を貸して走る中、目の前にある現実を受け止められずにいた。 

 しかし立ち止まっている余裕はない。百貨店や電気店と大型商業施設が並ぶことから、人通りも多く大いに賑わっていた札幌駅南口前通り。今はその活気もどこへ行ったのか。生者の姿はまるでなく、逃げるよう高架下を通って北口へと走り抜ける。


 それに、なんだよ。アイツら。


 逃さないと背後を追ってくるのは、全身に血の衣を纏いし異常者たち。大半は大怪我をしているようで、体の一部に欠損をしている姿も見える。

 一見した限りでは、『人間』と差して変わりはない。しかし通常ではありえないだろう奇声を発し、大挙し迫る姿は獲物を求める獣に近しいものがあった。


「って、こっちにもいるじゃん! こりゃあ前にも進めねーぞっ!」


 路上に残される車を避け、進んでいたアロハシャツ男性の叫び。

 行く手を塞いだのは、背後を追う異常者と同様の集団。前方の交差点に侵入しては、ゾロゾロと列を成して迫りくる。


 挟まれたのか。このままじゃあ、アイツらに捕まっちまう。


 前後を挟まれた状況となっては逃げ場を失い、脳が停止したかのよう感覚になること数秒。

 呆然と立ち尽くすだけでは、一向に事態を打開できない。頭の中に立ち込めた霧を払うが如く、気持ちを切り替えて突破口を探す。


「こっちだっ!!」


 現在地は札幌駅の周辺と、街の主要エリアに位置する場所。周囲には多くの高層ビルが建ち並び、間には何本もの細い脇道が走っている。

 そこで一本の脇道に目をつけ、通行可能であると判断。声を大に合図をしては、迫る異常者から逃れるため走り出す。


「このままでは、もう逃げ道なんてありませんよ」


 一緒に逃げてきた女子高生は、集う脅威に対し震える声を発した。細い脇道に入ってもなお、異常者たちが醜悪な身形で道を塞いだのだ。

 命の危機さえ感じる窮地に、身を震わす女子高生。このままでは再び、異常者たちに挟まれる事態となってしまうだろう。


「急げっ! ここからビルに入れるぞ!」


 いつの間にか一人で脇道を逸れ、新たな道を発見していたアロハシャツの男性。高層ビルの間にポツンとできた、青空駐車場の先。非常階段を上ったビル二階で、手を振り叫んでいる。


「迷っている暇はない! 行こうっ!」


 微かながらも希望ある道を発見しては、今も震える女子高生に声をかけて促す。

 背後を気にせず駆け抜け、非常階段前。振り向くと辿ってきた青空駐車場には、多くの異常者たちが迫っていた。


「肩を貸しているから大変でしょ。私が警戒しているから。先に行って」


 女子高生を先に行かせ立ち止まっていると、強い眼差しを向けたのはポニーテールの女性。どうやら全員の安全を見届け、最後尾で行こうという意図を汲み取られたらしい。

 今は怪我をして項垂れる男性に肩を貸している。となれば何かあったときフォローに回ることも難しく、それどころか足手まといになり兼ねない。


「わかった。すぐに続けよ」


 迫られてはいるものの、距離的に問題ないと判断。男性に肩を貸し支えたまま、二人が先に行った非常階段を上る。

 高層ビルの二階。非常口の扉はすでに開かれていて、最後尾にいたポニーテール女性も事なくビル内へ。そうして五人全員がビル内へ入ると鍵を閉め、扉を背に力なくズルズルと腰を下ろした。


 とりあえず、窮地からは脱したようだな。


 張り詰めていた緊張の糸が解け、ホッと一息。硬く力の入っていた筋肉は弛緩し、全身の力が抜けてしまったようだ。


「ドンッ! ドンッ! ドンッ!」


 しかし突如として響く、扉を叩く音と背に伝わる振動。

 となれば警戒心を再び、反転して身構える。そこで目に映ったのは、光も通さぬ冷たい鉄の扉。ただ、それだけだった。

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