第21話 作戦21号

『怒りの鉄鎚作戦 予備プラン二十一号

発動条件:皇帝捕縛作戦が目標の逃亡により失敗し、且つバルカザロス市内にいる事が確実である場合。

発動請求権所在:実行部隊

概要:

陸上部隊-首都攻略全部隊の進行を一時停止、指定の位置につき市街地を包囲、市内全家屋を歩兵部隊によって捜索。

空中強襲部隊-全作戦を中止し、ヘリによるピストン輸送で、バステリア帝国全大臣及び皇族の私邸を強襲、敵要人を確保。

近接航空支援機:敵首都防衛戦力主力残党を可能な限り撃滅』

皇帝を逃した時点で、短期決着が難しくなる為、中枢機能を速攻で叩いて組織的な継戦を不可能にする。ただ、この作戦を実行した場合、バルカザロス外縁で空爆を受けた近衛軍集団の完全な制圧を捨てる為、残敵が再編成し、背後を叩いてくるリスクが発生する。


国連軍新世界基地 統合作戦司令部

第21号作戦を発動したことによって、この巨大なモニター並ぶ指令室の仕事が一気に増えた。

室内は慌ただしくなり、オペレーターも増員された。そして、モニターに表示されたバルカザロスの地図上に表示される、各部隊や航空機、艦船を示すマークが激しく動き出した。

皇帝を取り逃がしたせいで、バルカザロスの制圧が始まって15分で当初の予定は破棄された。この大幅な変更はデータリンクシステムが無ければ只々、大混乱を招いただけだっただろう。

21号作戦が発動した瞬間全てのオペレーターに仕事が割り振られ、再び機械的に仕事が処理されていく。


そのオペレーターの1人、セシリア・スピーク中尉。彼女はアメリカ合衆国軍所属で現在はバルカザロス市内に展開する101空挺師団の1-327大隊のサポート、誘導を同僚数名と担当している。

「HQより327大隊 1-2小隊へ、目標更新。直ちに、目標21-DA 国務大臣私邸の制圧に向かって下さい」

『1-2小隊 コピー。目標地点付近の状況を教えてくれ』

「了解、目標21-DAに一個小隊規模の部隊を確認。さらに一個小隊規模の部隊3個がそれぞれ南西、南南西、北北東の幹線を移動中。21-DAに集結中と思われます。データリンク端末にアップデートします」

『おいおい、一個中隊規模の相手はきついぞ。航空支援をリクエストする』

「現在、5分以内に到着可能な機はAC-130とAH-1Z、2機ですが」

『ヴァイパーをよこしてくれ、それとそいつのコールサインもだ』

「了解しました、コールサインはシルバーグニングル」

デスクの上のスイッチを弄り無線をエアバンドに変える。

「HQよりシルバーグニングルへ、ポイント21-DAに向かい327大隊 1-2小隊の航空支援をおこなって下さい」

『こちらシルバーグニングル了解した。目標のレーザー指示は可能か?』

「現在327-1-2小隊は移動中のためレーザーによる目標支持はできません。目標は、21-DA地点に集結中の敵小部隊です。1-2小隊は建物への強襲を行うので、敵に背後を取らせないようにして下さい」

『シルバーグニングル オールコピー、これより支援に向かう』

ディスプレイにはバルカザロスの地図上にアイコンで各部隊の位置を表示する画面の他に担当している小隊の小隊長のヘルメットに付けられたカメラから送られる映像を写す画面がある。

『HQへ、1-2小隊目標地点上空に到達、これより突入を開始するが問題無いか?』

「1-2小隊へ、特に周辺に変化なし。国務大臣私邸敷地内の敵を掃討した後状況開始して下さい」

『了解、第三分隊を屋外に残して突入する。そいつらのサポートを頼む』

「分かりました。御健闘を」


小隊長のカメラに取り付けられたカメラに、戦闘の様子が写し出された。

皇居の強襲の時と同じくドアガンによって着陸地点を確保する。

着陸すると同時にやはり、周囲を警戒しLZ確保。他の機も続く。

この時、セシリア中尉はディスプレイに映す映像を小隊長のヘルメットカメラから三分隊の分隊長のヘルメットカメラに写し、その横にグローバルホークから送られてくる映像を持ってくる。味方の装備にはIRフラッシュライトがつけらえているので上空からでも一瞬で区別がつく。

「3分隊のヘイズ軍曹聞こえますか?」

『セシリア中尉へ、5/9で入感。感動良好』

「分隊をアルファから、エコーまでに分けて下さい。只今より外周の敵兵の排除を誘導します」

『セシリア中尉頼りにしてますぜ』

「オペレーティングを開始します。直前に送信した21-DAの外周見取り図の区分けに従って行動して下さい」

グロバルホークからの画像とC41連接システムの画像に注視する。

「アルファチーム、A3に移動、ブラボーはB3へ チャーリーはK3へ デルタ、エコーはF2の監視台を奪取」

IRフラッシュライトをつけていない人影が写っているのを見つけた。

「アルファへ、オブジェクティブC 煉瓦造の倉庫の背後に敵影6、A4まで進出、対応よろしい?」

素早く指示された位置につき敵に気づかれる前に無力化する。

『目標6ダウン』

白黒の人影の動きが止まる。

「お見事です。続いてG8付近に敵影、F2から狙撃可能です。デルタ、対応を」

発砲音につられて敵が引きつけられて来た。

「第1、2小隊進行状況はどうですか?」

『あと、10分で脱出する。現在目標を発見、敵護衛と戦闘中だ』

「ヘイズ軍曹聞こえましたか?あと10分外で敵を引き付けましょう」

『了解しました。中尉殿、あと10分暴れて見せましょう』

外で敵を引き付けている第3分隊は完全に敵を翻弄していた。見えない敵が、的確に頭を射抜いて来るのだ。敵は、遥か上空から何から何まで筒抜けになっているなど知る術もない。そして、普段から目の前にいる敵と正対して戦う事を想定して訓練している彼らに、何処から現れるとも分からない敵を圧倒する為の戦術を極めた米陸軍の歩兵部隊に屋外で抗う術など無い。時間が経つにつれ少しづつ仲間が減って行くのだ。

当初の、大臣を守る為に屋内の守りを固めるという目的を忘れ、唯混乱の真っ只中にいた。


突如、大臣が住んでいる本館の一部屋から爆発音と閃光起こった。

スタングレネードを使ったようだ。

その直後、単射の発砲音が数発鳴り響き建物の中は沈黙に還った。

『セシリア中尉聞こえるか?目標を確保した。映像で本人かどうか確認してくれ』

「了解、少々お待ちください」

上官にその述べを申告すると、彼女の直属の上司ともにムー共和国の観戦武官のフリューゲル中佐が近づいて来た。

「失礼、見せて頂けるかな?」

そう言って画面を覗き込んだ。

画面には、口を縛られ、目をひん剥いて気絶している。バステリア帝国の外務大臣の顔がアップで映っていた。

その観戦武官はその映像を見るなり我慢できなかったのだろう。吹き出してしまった。

「ぷふっぅ、失礼 つい。こいつは外交の場でも態度がでかくてな。そいつがこんな姿になってるなんて...。あぁ間違いないよ、ビンゴだ。君たちが追っている人物だ」

「はぁ、そうですか....」

上司の方に目をやると

「彼もそう言っているし間違い無いだろう。事前に入手した写真とも合致している」

「分かりました。それでは、327-1小隊に撤収指示を出します。目標は事前のマニュアル通り沖の強襲揚陸艦に移送します」

「HQより327-1小隊へ。目標の確保を確認しました。ミッションコンプリートです。お疲れ様でした」

『327-1-2小隊了解した。帰りのタクシーは送ってくれないのか?』

「今、CH-47がそちらに向かっています。LZを確保して待機して下さい」

『了解』


周波数を分隊間から、部隊間に変えて、バステリア帝国外務大臣の捕縛成功を伝える。

「統合作戦司令部よりバルカザロス全域で行動中の部隊へ。現時刻5:10、アメリカ合衆国陸軍101空挺師団第327大隊第1中隊2小隊がバステリア帝国外務大臣の捕縛に成功」


そしてその後、20分以内に全ての重要人物の捕縛が完了した。

予備プラン21号が成功したため、皇帝の捜索は断念された。しかし、要所には歩兵部隊を配置し、バルカザロスからは逃れられないようにはしてある。


この戦闘は、バルカザロス市内で行われ当然市民も異変には気付いた。国連軍がバステリア帝国に上陸している事は、隠しきれなくなり市民まで知れ渡っていた。だが、8000万の大軍団を送ったにも関わらず、いきなり首都が攻めらるなど夢にも思っていなかった。

突然の来襲に市民は家のドアを固く閉じ、窓の隙間から敵の動きを覗いた。

彼らにとって、機械化された国連軍は異形で奇妙なものであった。彼らにバルカザロス市民はこれまで自分達がやってきた様に家は破壊され、男は殺され、女は襲われるものだろうと思った。しかしどうだ。国連軍の兵士は市民には見向きもせず、一糸乱れず的確に重要な施設のみを襲っていった。

バルカザロス市民はこの理解出来ない行動に、国連軍への畏怖を深めた。


21号作戦完了時、「怒りの鉄鎚作戦」は最終フェーズに突入した。


「新世界基地統合作戦司令部部より、バルカザロス全域で行動中の部隊へ。現時刻5:30を以って怒りの鉄鎚作戦予備プラン 21 最終フェーズに移行する。域内で検問に当たる部隊を除いた全ての部隊は皇城に急行せよ」


使える全戦力を投入し皇城を陥落させる。空中から降下した部隊はヘリでピストン輸送し、海上から上陸した比較的重武装な部隊は、MBTまたは、兵員輸送車を先頭に市内を徒歩で移動する。

この場には、計 200両の陸上自衛隊の14式機動戦闘車、10式戦車、米陸軍のストライカー装甲車、M1A2エイブラムスなどが参加している。

これらの車両の殆どが、バルカザロスの幹線を一路 皇城に向かって駆け上がる。

モニターを通して、グローバルホークから送られてくる映像を眺めると壮観の一言に尽きる。

所々、近衛兵により小規模な非組織的な抵抗が散発的に見られるが、先頭の車両群が難なく車載機銃で排除する。攻撃ヘリは直接皇城まで飛んでいき、予め、城壁内の敵を見える限り掃討し、ガンシップは上空から城門や見張り台などの要所を105mm砲で潰し、地上部隊の行軍の妨げとなる物を全て排除する。

そして、バルカザロスの前に広がるバルカザロス湾には、戦艦ニュージャージーが数隻のはやぶさ型ミサイル艇と一隻のアーレイバーク級ミサイル駆逐艦を伴い突入し、艦砲射撃を封じるために湾内にいる首都防衛のための精鋭艦隊を叩き潰しにかかる。


この、陸空海の連携した速攻により、皇城の防衛部隊は有効な手立てを打つ前に降伏する羽目となり、最終フェーズに移行してから、1時間で完全に陥落した。

完全に制圧が完了した事が確認されると、皇城の尖塔の天辺の旗竿に星条旗と旭日旗が翻った。







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