第6話 バルカザロス沖海戦2
戦列艦が全滅した直後にまで時を戻す。
「提督、戦列艦が全ての沈められてしまいました.....」
震えた声で部下の1人が話しかけた。
「な、なんなんだ。あんな離れたところから大砲の弾が当たってたまるものか。そもそも届くわけがない。敵は東の果ての蛮族ではないのか?なぜ蛮族がそんなものを持っている?いったいなにと戦っているんだ....」
提督は自分の世界に入り自問自答していた。
「提督お気を確かに!まず目の前の敵をどうにかしなければ。攻撃竜騎を送り込むというのはいかがでしょう?あの奇妙な空を飛ぶ兵器も見当たりません。」
この世界では対空火器というものがあまり発達していない。空を飛ぶものには空を飛ぶもので迎え撃つのが常識だ。
「そうだ、すぐに攻撃竜騎団の団長をここに呼べ!」
「はっ!」
すぐに団長が息を切らして駆けつけた。
「団長よ。直ちに全騎を引き連れあの忌々しい蛮族の艦隊を黙らせろ。逃げ帰ってくることは許さん。ここに敗者を容れる場所はない。良いなっ!」
これで正真正銘の打ち切りである。これは最後の切り札だ。
「私の名誉にかけ敵を黙らせて見せましょう。」
すぐに、飛べるように甲板に連れ出されたワイバーンにまたがり、仲間を引き連れ空へと飛び上がった。他の輸送艦からも次々と飛び上がり攻撃竜騎の群れが出来上がった。もちろん、"荷物"を携えてだ。その姿を下から眺める兵たちは期待の眼差しでこれを眺めた。
敵の飛行部隊はいない、しかし今までの敵とは明らかに違う.... 分散せずに1箇所を突くべきだ。
「我が精強なる部下たちよ、我々に仇なす蛮族どもを黙れせねばならない。」団長の声はよく通った。「敵艦隊の最左翼を突く!我に続けっ!」
一斉に方向を変え一路日本艦隊に向きを変えた。
(守る竜騎がいない船などただの的だ。怖いものはない。)いけると確信した。敵の護衛がいないなど、今まにないほどの好条件であった。戦いでは、敵の戦闘竜騎を交わしながら敵の真上まで飛び"荷物"を落とし、ブレス攻撃で焼き尽くす。そんな戦場に比べれば遥かに楽である。
その時であった、敵の船が一斉に煙を吹き上げた。
なんだ?爆発事故でも起こしたのか?
その煙の先で何かが飛んでいる。
いや、違う。これは戦闘竜騎がやられたのと同じものだ!絶対に外れない矢だ!
「避けろ!戦闘竜騎を殺った奴が来るぞ!」
隣にいた部下達がいきなり爆発に巻き込まれ消えた。他にも自分の周りでは次々と部下達が撃ち落とされていく。
これではどうしようも無いっ、どうすればいいのだっ。
こうしている間にも次々と部下の数は減っていく。しかしこちらも少しづつ距離を詰める。そして少しすると外れない矢は飛んでこなくなった。
(もう弾切れなのか?)
そう安心した瞬間敵の船の砲が動き。ドンっと音がしたと同時にまた、部下が1人落とされた。音がする度に1人、また1人と減っていく。もう既に部下は元の半分ほどしか残ってない。さらに近づくと大きい鉄砲のようなものが動き出し槍衾を作り出しここまで生き残った部下達を無残にミンチにしていった。時間とともに仲間は消えていき、1キロをきった頃にはもう10騎しか残っていなかった。
敵の真上にまでたどり着いた。3騎しか残っていない。しかしあのお大きな鉄砲のようなものも動きを止めた。
DDG-173 こんごう CIC
「敵3、本艦直上ぉぉぉ!」
やられた、やはり最新技術をもってしても防ぎきれなかったか。
「総員対ショック姿勢とれぇぇぇぇ」
無意識に叫んでいた。ほとんど意味がないとわかっていても。
やられた、そう思った時であった。艦橋の上に何か重いものが当たり鈍い音がした。しかしそれは金属音などでは無い。艦橋の窓が紅く染まった。
「!? 何が起きたんだ?」
外から、腹に響く様な重いエンジン音と風を切るローター音がした。窓の外を見ると視界いっぱいに艦橋と同じ高さで飛行するオリーブドラブの迷彩が視界に入った。角張った細長い機体に両脇にミサイルポッドを抱え機首に20ミリガトリングを持つ機体、一瞬のうちに竜騎を葬り去ったその機体はAH-1 Sコブラだ。地上の鈍重な目標を破壊するためだけに特化した機体であるが。動きが鈍い攻撃竜騎ならば充分に対応し得る。
近距離に鈍重な敵がいるこの状況下でこれ程頼もしい味方はいないだろう。なぜ、こんな所に米海兵隊のAH-1Z ヴァイパーではなく陸上自衛隊のコブラがいるのか?それは無理やり海自のいずもに載せたからだ。
周りを見渡すと陸自のコブラ、海兵隊のヴァイパー、が他の船に群がる竜騎を掃討していた。ここでもまた一方的な戦いが繰り広げられ、敵は機首の20ミリガトリングによってミンチにされ次々と残党たちは海に没して行く。竜騎兵にとっては攻撃ヘリによる攻撃は数時間前のF/A-18による攻撃と比べ物にならないほど恐怖である。なぜならば、ヘリはその場に止まり掃射し続けることが可能だからだ。縦横無尽に飛び回り敵を掃討する姿はまさに"ハンター"である。
どうやら防ぎきれなかった艦はこんごうだけではなかったようだ。直撃を受けた艦は無かったが、破片などで損害を受けた艦はいる様だ。
しかしこれで決着はついた、もうバステリア海軍に打てる手はない。
敵輸送船団に対する砲撃を再開し、同じくマストだけを狙い撃ちする。さらに、攻撃ヘリも敵輸送船団への攻撃に参加し,マストの根元にTOWミサイルを撃ち込んだ。砲撃で破壊されるのとは異なり、ミサイルの爆発によって勢い良くマストが浮き、ゆっくり宙で回転しながら甲板の上に倒れる。しかし、敵輸送船の数は、戦闘艦のそれよりも多いい。諦めて撤退してもらうのが1番であるが、破壊予告を受けて最後の切り札を出したということは撤退する気などさらさら無いのだろう。多分最終的に全ての船のマストを破壊するまで撃ち続けなければなるまい。そうなればいつまでも最大連射速度で撃ち続けることもできない。
日米連合艦隊はひたすら撃ち続けた、ただひたすら、そこにはもう戦っているという実感はかけらもない。そこからは特になんの反撃もなく完全なワンサイドゲームだった。撃つ側にとっても撃たれる側にとってもマストを破壊されているだけというのが唯一の救いだどれくらい時間がたっただろうか既に時間は正午を廻っている。全ての残存艦艇のマストをへし折り、バステリア帝国の船はただの箱舟と化した。
「こちら日米連合艦隊旗艦ニミッツ、全目標の沈黙を確認した。当戦闘の集結を宣言する。我々の働きによって我々の故郷が侵略される事はなくなった。しかし、平和な関係を望んだ外交官達を処刑し我々の掛け替えのない家族を奴隷の身に落とそうとした不当かつ無謀な行為を帝国に後悔させなければならい。諸君の尚一層の働きを希望する。以上」
後にバルカザロス沖海戦と呼ばれる海戦は日米連合艦隊の圧勝によって終わった。戦果は以下だ。撃沈 戦列艦800隻、撃墜 戦闘竜騎3000、攻撃竜騎1500 行動不能 輸送船4231隻 損害 DDG-171 はたかぜ 爆発物の破片で衛星通信アンテナ損傷 のみ 人的被害皆無 ほとんど損害は無いに等しかった。
ところでだが、日米もこれだけの大艦隊を送り込み派手に弾薬を使うと相応の費用がかかる。そしてその代償をバステリア帝国に支払ってもらわなければならない。
その日の夜、日米の艦長達は一同旗艦ニミッツに集い次なる作戦に向けてブリーフィングを行った。
ニミッツの甲板上には他の艦から艦長を乗せたヘリが次々と降り立っていた。その中にはこんごう艦長、海江田1佐もいた。
海江田がシーホークから下りると出迎えの士官が待っていた。その士官が敬礼し、海江田も答礼する。
「キャプテン海江田、ようこそニミッツへ、既に艦長はブリーフィングルームで皆様をお待ちしております。ブリーフィングルームへご案内します。こちらへ」
海江田を出迎えた士官は、まだ20後半ぐらいの若いウェーブであった。反対を向き、艦橋に向かって歩き始めた彼女の背を追った。流石は世界最大の軍艦であるニミッツ級原子力空母、とてつもなく広い。まるで中に一つ街があるようだ。艦内は蛍光灯に照らされ明るい。ブリーフィングルームに着くと既に席は半分ほど埋まっていた。予想に反してそれほど勝利に湧いているようでもない。適当に空いている席を見つけそこに座った。
数分ほどすると正面の今まで星条旗を映し出していたスクリーンの前に今回の艦隊を率いている、ミッチェル・アッカーソン大将が現れた。現れると同時に室内の全員が姿勢を正し起立した。
「敬礼っ!」
一糸乱れぬ動きで敬礼をし、それにミッチェル大将が答礼をして席に着く。
「諸君揃ったな、ではこれからの我々の行動について説明する。」
スクリーンにバステリア帝国の地図が映し出された。
「これは偵察衛星から撮影した写真から得た情報を元に作成したものだ。そして、今回の海戦海域がここだ。」帝都バルカザロスと印がつけられた位置の沖合にサークルが現れた。
「これから我々はここから北西400kmに位置する諸島群の一つを占拠し帝国攻略へ前線基地とする。既にその全てが無人島である事が衛星で確認しているので新たな戦闘が発生する可能性は低い。そして予想される敵の戦力は1000万を超える可能性が高いというのがアメリカの見解だ。投入される戦力は現在検討中であるが、建設する基地は50万までを収容する事ができる規模を予定している。 そして今回参加する国はアメリカ、日本、ドイツ、フランス、イギリス、ロシア、中国である。ロシア、中国については帝国の南側から上陸する事になっているので、この2国は別に基地を建設する事になっている。
一週間後には、日米のコンボイが基地設営要員と資材、補給物資を積んでやってくる。我々はそれまでに設営予定地点を確保をしなければならない。というわけで、我々の次の任務は強襲揚陸艦を目標海域まで護衛し、周辺の安全を確保する事である。私から話す事は以上だ。何か質問あるものは?なければこれでブリーフィングを終了する。解散!」
海江田はブリーフィングルームを出てフライトデッキに向かいながら、これから起こるであろう事を考えた。
(陸上戦になると絶対に被害は避けられないな只々少しでも仲間を失はない事を願うしかない....)
しかしなぜ、攻略戦にまで日本が参加しているのだろうか?いやそもそもなぜ、関係のない4カ国が参加しているのか。戦力不足の問題もあるのだがそれは、国連が発表したある文書内容が原因であった。
『対バステリア帝国防衛戦についての戦後処理と戦費回収について
1、戦費回収について。バステリア帝国の文明レベルを鑑みると支払い能力を有する可能性が低いため、陸上戦によって全土を占領した、占領地運営において回収する。各国の取得割合は供出した戦力に応じて算出する。占領地運営については人道的かつ友好的に行い国際連合の監視のもとで行われるものとする。占領地には各国の民間企業の参入も検討する。
2、戦後処理について。バステリア帝国は完全に解体し、首都バルカザロスは国際連合が運営を担う。バステリア帝国軍部、及び政府関係者については戦後の特別裁判所によって決定する。被支配部族、民族については独立国、自治地区の建設も視野に入れる。』
特に大事なのは1項目の戦費回収である。もしこれを実行すれば莫大な利益を生み出す事になる。日本が攻略戦に参加する事ができるのも、「民間企業の参入」の一行でマスコミは黙認するばかりか、バステリア帝国の脅威を誇張し、攻略戦の必要性を声高の訴えたため、政府も無理やりではあるが攻略戦を防衛戦の一つと解釈をし法に合わせたためだ。そしてついに日本は戦後初の海外派兵を決定したのだ。
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