第5話 バルカザロス沖海戦

F/A-18の第一波を見て何が起こったのかを理解できる者はバステリア帝国には皆無であった。


「何が起きてるんだぁぁ!誰か説明しろ!」


提督は誰かに説明を求めたが、当たり前だが説明し得る人間などいない。


「この無能どもめっ、貧弱な竜騎兵団がいかんのだっ!貴様ら参謀も一緒だどう責任を取るんだっ?

この俺の顔に泥を塗りやがって」


周りに当たったからといって状況がどうなるわけでもない。何より一番不味いのはこのままなんの戦果もなく撤退する事だ。


最悪彼1人だけではなく指揮官全員の首が飛ぶ、それだけは避けなければならない。

政治に埋もれる彼らも大変ではあるが直近の生命の危機に晒されている当事者である竜騎兵達こそ空の上でひどい目にあっている。


「どうなっているんだ!」

「我々は何とたたかっているのかぁ」

「上からの指示は無いのかっ?」

竜騎兵の悲鳴があちこちから聞こえる。


指揮系統は完全に指揮を失い、誰が生き残っていて誰が指揮権を継承したかもわからない状態だ。

そうしている間にも仲間が1人、また1人と爆発に巻き込まれ四散してく。


早く船に降りたい、一刻も早くこの場から逃げたい。皆そんなに心情である、しかし軍である以上、敵前逃亡は許されない。


その時であった、背後からあの悪魔の来襲を告げる空気を切り裂くかのような音が背後から鳴り響くのだった。


数分前に消えたはずの敵が....。


第一波の管制エリア2、背後から侵入してきたチームである。


「囲まれたのか...」

「うわぁぁぁ、く..来るなぁぁ」

「どこから来たんだ...」

「逃げろぉぉぉぉ」

「助けてくれぇぇ」


彼らの断末魔は船の上にいる兵士にまでよく届いた。


竜騎兵団は最早軍隊としての体をなしてはいない。


今までは敵の竜騎兵を屠り、歩兵達を一方的に葬っていたバステリア帝国竜騎兵団がなぜ...


竜騎兵達だけでは無い、指揮官から末端までそう思った。


「なぜ我々が一方的に、間違っている。これは間違いだ。」


と...。


そうしている間にも竜騎兵は周りで仲間がハエのようにバタバタと堕とされるのを、船員達は竜騎兵が絶叫を上げ逃げ惑う姿と時々墜ちてくるワイバーンと竜騎兵の肉片を直視しなければならなかった。


更に悪い事に兵にとっての敵は、目の前の敵だけでは無い、彼らの後ろに控える提督もである。



いや、むしろ提督こそ真の敵かもしれない。

ちょうど今、撤退を上申した参謀が首を刎ね飛ばされたところだ。


頭を失った胴体はその場で無機質に倒れ首から鮮血を吹き出している。


「わかったか、俺の部下に弱腰は要らない。他に何か言うことがある奴はいるかっ?無いなら任務に集中しろぉ!」

剣を振り上げ虚勢を張る姿はもはや貴族のそれでは無い。


自らの保身と兵の命を天秤にかけ自らの保身を選んだ醜い人の心の権化だった。

狂ってやがる、そして何よりもやばい..しかし従わないわけにはいかない。


一方の指揮官達も戦えと言われても為すすべが無い、このままでは無駄に竜騎兵達を犠牲にするだけだ。

絶え間なく敵の奇妙な空飛ぶ兵器が外れない矢を放っては帰る を繰り返す。


もう竜騎兵の生き残りも僅かだ。



(残された唯一の手は、敵艦隊との艦隊決戦だけだ...)

見習い参謀のエルはそう考え、これなら提督に提案しても問題ないと判断した。


「提督、数で我々に叶う軍隊など存在しないでしょう。ここは艦隊決戦に持ち込むと言うのはいかがでしょうか?」


エル自身これが策と言えないことなど分かっていたが、この錯乱した提督を落ち着かせるには有効だと思い上申した。


「それはいいエル、早速その様にしよう。参謀長!艦隊決戦に持ち込むぞっ」

デスター提督は即答した、他の案は浮かばなかったのだろう。


いや、考える冷静さは残っていないのかもしれない。


今から艦隊決戦に持ち込むと言っても、特に何をするわけでもない。既に戦列艦隊を艦隊正面で単横陣を組んで待っている。


つまり、全艦が一斉に転舵すればいつでも単縦陣になり砲戦する事が可能であるという事だ。


幹部達が船の上で混乱し、機能不全に陥っている間に全ての制空タイプの竜騎兵は全て撃ち落とされていた。


3000いた既に戦闘竜騎兵は消滅していた。


海の色はそれまで美しいエメラルドグリーンだったが、鮮やかな赤に変わっていた。船の上にも同じ事が起きていた。

甲板の上に元が何だったのか分からない肉片が散乱しているのだ。


気の弱い兵士はあまりの凄惨な光景に嘔吐した。

2時間後、早朝から攻撃を受け既に陽は昇り正午に近づきつつあった。


ここ2時間はあの竜騎兵団が全滅した攻撃か嘘だったかの様に穏やかな時間だった。

あの奇妙な兵器も姿を見せる事なくまるで嵐の前の様な陽気な時間だった。




その時


「報告!正面から敵艦隊の接近を確認。奴らです。帝都に現れた奴と同じです。」

マストの上にいる見張りから報告が入り緊張が走った。


「数はどうだ!?やはり大艦隊か?」

誰かが諦め気味なトーンで聞いた。


「いえ、総数55です。各艦やはり一門のみしか付いていません。」


「それは間違いないのか?」


「はいっ!間違いありません!」

水平線の向こうには帆が張られていないマストが数十本並んでいた。


甲板の上で歓声が上がった。勝てる そう思った。


バステリア帝国の戦列艦の砲は同レベル文明の船にしては射程が長い方だ。地球の戦列艦の砲の射程が50メートル程度なのに対し、バステリア帝国の砲は1Km程度ある。"アウトレンジ戦法"である。しかも門数も多いい。圧倒的である。彼らにとってこの状況はもう勝ちが確定した様なものだ。この報には提督も喜んだ。


「敵はたったの55隻だと!?しかもそれぞれ1門しか積んでないだとっ?ハッハッハ 圧倒的じゃないか我が軍は‼︎あえて言おう。東の蛮族などカスであると!我が軍の勝利は間違いない。」


なぜそう言えるのかっ?と突っ込みたいのだが。


「奴らの射程外から、一方的にに打ち込んでやれ!」


射程の利を活かして叩こうと言うのだ。


しかしその時、正面で何かが光った。


「バカめ、この距離で届くわけないだろう。奴らトチ狂ったか?」



日米連合艦隊 日本第2護衛群 DDG-173 こんごう

CIC内


2話に登場した、DDG-173こんごう副長 名前は角田 忠明 階級は二等海佐


冷静沈着ではなく情熱的と言った形容詞があてはまる。体格は流石自衛官というところだろう後ろから飛び蹴りをかましても動きそうにない、しかも高身長だ。防大入学時は学科こそ決して優れているとは言えなかったが、体格では対照的に他より一歩秀でていた。もう既に30代後半であるが未だ独り身である。


「海江田艦長。ニミッツより次の作戦の詳細な指示が届きました。」


「そうか、読んでくれ。」


「はっ!『我が合同艦隊はこれより敵艦隊と直接対峙しこれの戦闘艦を艦砲にて掃討する。日本艦隊は艦隊最右翼を担い、敵戦闘艦を殲滅せよ。』以上です。既にデータリンクにて担当艦の割り振りが送られて来ています。」


双方の次の行動が一致した形だ。


「そうか、分かった。米空母の艦載機が既に敵航空兵力を沈黙させたそうだ。次は我々が働かなければな。」(初の実戦の相手がファンタジー世界の人間とはな...)


CICのスクリーンに担当の敵艦がマークされ表示される。ホーネットとホークアイの情報から敵の戦闘艦の数と位置が割り出せれ、戦闘艦は総数800単横陣で横10キロに広がっている事が分かった。


相対距離20キロそろそろ射程だ。


通信員からの報告が入った。


「入電!『射程に入り次第各艦の判断で攻撃を開始せよ。』以上!」


「副長。18キロをきった時点で射撃を開始せよ。」


本来は有効射程


「はっ!了解しました。砲雷長!砲戦用意127mm砲スタンバイっ。」


「127mm砲スタンバイっ!諸元入力、マニュアルにて射撃する。」


指示に合わせ担当士官がデータを入力し、トリガー型のコントローラーを握った。


CICに緊張が走る。初の実戦だ、敵の正体もよくわからない。室内は静まり返り、スクリーンの光点だけが輝いていた。


「18キロ切りました。」


「正面砲戦!撃ちー方ー始めー。」


「撃ちー方ー始めー」


特徴的な抑揚を持った伝統の号令をかけ、担当士官がトリガーを引くと艦首のオートメラーラ127mm速射砲が火を吹き第一撃を放った。


ドンッ 数秒後、正確に目標艦の喫水線付近を貫き炸裂した。木造船には耐えられないだろう。一瞬で弾薬庫に引火し空高く火柱を上げ爆沈した。


「目標 A 命中! レーダーからの消失確認っ!」


「ソナー 圧壊音も確認しました。」


発射、排莢、揚弾が全自動で一瞬で行われる。


「続いて 目標艦 B に命中確認!レーダーから消失!」


ドンッ ドンッ ドンッ


最大連射速度での連射だ


「目標艦C、D、E撃破!」


最大連射速度 45発/分で打ち続けると1分程度で割り振られた艦を全て撃沈してしまった。これは、戦闘というより、"処理"したという感じだ。CICはなんとも言えない雰囲気に包まれた。


(我々は本当に全く何と戦っているんだ?流石に敵も撤退するだろう。)


「副長!敵艦隊依然として、速度、針路変わりません!」


「それは本当か!?ニミッツに急いで指示を仰げ!もう戦闘艦は残って無いだろう。」


(全部沈めたら捕虜は50万近くになる。それだけは何としても防がねば....,そんな数を抱える力我々にはないぞ。)


「ニミッツより指示入りました。『敵残存艦艇については、マストのみを破壊せよ。但し中央に鎮座している敵旗艦については、攻撃を避けよ』以上!」


「今新たに割り振りのデータが入りました。」


「分かった。指向性マイクを用意。」


「はっ?指向性マイクですか?」


「破壊予告をする。少しでも敵さんに力の差を理解してもらいたい。」


「わかりました。では、どうぞ。」


カチッ


『こちらは、海上自衛隊所属 こんごう 貴艦らのマストを破壊する。これは破壊予告である。』


「127mm砲弾薬補充完了。いつでも砲撃開始できます。」


「砲雷長、1発だけ撃ってくれ」


先程同様に砲弾は十数キロ離れた的に正確に当たった。


「目標艦Jのメインマストの破壊を確認、目標速度低下停止します ん? 何だこれは!?敵輸送船団から何か次々と飛びだっています。多いい 数100 、200 、増え続けてます!先ほど戦闘機隊が排除したタイプより一回り大きいです。」そう、これは対地攻撃を専門とする攻撃竜騎なのである。戦闘竜騎より1回り大きく動きは鈍重であるが"荷物"を抱えることが出来る。


「なにっ、まずいっまずいぞっ」予想外の展開に角田の発する声が自然と大きくなった。


「艦長、敵の航空戦力が接近中です。奴らまだ隠し持っていた様です。」インカムの向こうからは海江田の冷静な声が返ってきた。


「分かった。敵艦隊への攻撃を中止し。直ちに対空戦闘に移行。いずも には指一本触れさせるな。」


「了解しました。対空戦闘よーい。速力最大、いずもの前に出るぞ。」ガスタービンエンジンの特徴的なエンジン音が大きくなり、体が後ろに引き寄せられ船が加速するのを感じた。


「敵航空戦力距離10キロ」


「短SAMで対抗する。マニュアル管制モードに移行」


「マニュアル管制モードに移行!目標総数1500全てこちら側に向かってきてます。脅威度判定出ました。該当目標諸元入力完了」


「後部VLS 1番セルから10番セル解放!」


管制士官が、操作ボードに並んだセルのスイッチを"ON"にする。その瞬間後部甲板にあるVLSのセルの蓋が開き、炎を吹きながら垂直に上昇しその後白い煙の軌跡を描きながら"獲物"に向かって喰らいつく。ESSMの指向性爆発によって狙われた竜騎の後ろにいた竜騎も爆発に巻き込まれ1発につき数騎ずつ撃ち落とされた。それでも多いい。1500騎全てが艦隊右翼の日本艦隊に向かっているのだ。戦力分散を避けたのだろう。


「本艦に向かってくる残存目標252!距離8キロ相対速度100キロ」


「まずい、距離を詰められすぎた。自動管制モードに移行、主砲弾薬庫に装填要員を配置!全力射撃が始まるぞ!それと、前部、後部 CIWS弾薬補充要員配置!急げ急げ!直ぐに弾が尽きるぞっ」


「自動管制モードに移行完了、全力射撃開始5、4、3、2、1開始!」


眠っていたイージス艦「こんごう」の野生が目を覚ましたかの様に暴れ始めた。次々と解放されたセルから飛び立つESSM、休む事なく正確に敵を撃ち抜く127mm砲、イージス艦の本性を表した。ESSMの発射煙で全く視界が効かないほどだ。確かに敵はバタバタと堕ちている。肉片ができ上げっている。しかし数の暴力に前では、現代のテクノロジーでも対応しきれない。


「現在目標60撃墜<ショットダウン>、残存目標190 距離6キロ。まずいです。このままでは数十騎本艦直上まで到達します」


いくらイージスシステムをフル活用しようと10数キロの距離で約280の敵を完全に防ぐことは難しい。


「残存目標60、距離3キロ、CIWSの迎撃圏内、迎撃始まります!」既にESSMは撃ち尽くした、残る敵を主砲と前後のCIWSだけで防がねばならない。CIWSの槍衾で敵が撃ち落とされるペースは上がった。しかし、まだ残っている。


「敵3、本艦直上‼︎」


"荷物"を抱えた竜騎が3騎「こんごう」の直上に到達した。装甲が薄く電子機器が露出している現用艦には充分なダメージを与えられるだろう。


その時、CIC内にブザーが鳴り響き、CIWSの弾切れを告げた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る